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多剤耐性アシネトバクター感染症に関する
四学会からの提言

はじめに

 近年、多剤耐性アシネトバクターによる院内感染事例が我が国でも散発的に発生し、2010年9月には大学病院での事例が各種報道でも大きく取り上げられました。さらにNDM-1産生菌に代表される新しい耐性菌の本邦における検出例も報告され、日本中がその動向を注目している状況です。このような中で、感染症にかかわる各学会は、それぞれの特性を生かした提言やコメントを発信してまいりました。このたび、感染症関連の四学会(社団法人日本感染症学会、社団法人日本化学療法学会、日本環境感染学会、日本臨床微生物学会)は、我が国における多剤耐性アシネトバクター感染症の感染拡大防止、適正な診断と治療を促進することを目的に、現時点における問題点、将来に向けた改善点を提言としてまとめました。

提言

1.多剤耐性の定義を決める必要があります
  本菌感染症の発症状況を正確に把握するためにも、アシネトバクター属細菌における多剤耐性の定義を早急に決める必要があります。米国臨床・検査標準協会(Clinical and Laboratory Standards Institute, CLSI)や欧州抗菌薬感受性試験法検討委員会(The European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing, EUCAST)が耐性菌のブレイクポイントを設定中ですが、本邦の耐性菌の頻度あるいは使用抗菌薬などを参考に独自の基準を考えながら、欧米との協調を探っていく必要があります。特に本菌をいわゆる5類感染症として定点把握の対象とするためには行政主導、あるいは行政との連携による定義の設定が不可欠です。

2.効果的なサーベイランスの実施とその活用が急務です
 これまでにも感染症の疫学調査が多く実施されてきました。これらの成績の中には極めて重要な情報が多数含まれているものと考えられますが、その活用、臨床現場へのフィードバックに関しては、必ずしも効果的な仕組みが出来上がっているとは言えない状況です。アシネトバクターを含め、全国レベル・地域レベルでの耐性菌の分離頻度、耐性状況などの情報を、施設レベルでの耐性菌対策に活かす方法を工夫していく必要があります。この点に関して、学会と行政のさらなる連携・協力が重要かと思われます。

3.現在進行形の症例に役立つサーベイランス体制を促進する必要があります
 現在のところ、本邦における多剤耐性アシネトバクターの分離頻度は極めて低い状況にあります。したがって、1施設で短期間の間に2症例から本菌が分離された場合には院内伝播を考えて対応することが必要になります。現在進行形の症例に対して役に立つ施設内サーベイランスをどのように実施していくかについては、感染制御部(感染対策室)、診療担当医と微生物検査室との連携が極めて重要になります。また地域における発生動向などの情報共有には、行政との協力が欠かせません。

4.多剤耐性菌検査が実施できる環境整備が必要です
 前述の現在進行形の症例に役立つサーベイランスを実現するためには、各医療施設における微生物検査室の設置が前提となります。現在、専門的な微生物検査・耐性菌検査を担当できる臨床検査技師の育成が認定臨床微生物検査技師制度、あるいは感染制御認定臨床微生物検査技師制度を通して行われています。これら人材の協力のもとに、効果的な院内感染対策・耐性菌対策をサポートできる微生物検査室環境の整備と充実が重要と考えます。また、微生物検査室において新たな多剤耐性菌を検出するためには追加検査を必要とすることが多く、体外診断薬メーカーによる検査試薬の開発と供給や、診療報酬点数の加算など行政的なサポートが必須となります。

5.感染対策への十分な財政的支援が必要です
 多剤耐性アシネトバクターが分離された患者に対して、医療機関では標準予防策に加え接触感染予防策を徹底し他患者への伝播を防止する必要があります。そのためには患者を個室に配置し、医療従事者が入室のたびに使い捨て手袋やガウン・エプロンを使用しなければなりません。これらの感染防護具は「疾患の予防」の範疇になるため、診療報酬で全く手当されず、厳格な感染対策を取れば取るほど病院経営に悪影響を及ぼすのが現状です。効果的な感染対策を講じることができる体制をととのえるためにも、正当な感染対策に関する診療報酬上の評価が必須と考えます。

6.感染症診療、感染対策に従事する人材の配置と育成が重要です
 多剤耐性アシネトバクター感染症の集団発生の防止や、万一発生した場合の原因調査や再発防止策を講じ、さらに適正な診療を実施するにはこの領域の専門家が少なくとも地域の基幹医療機関には配置されていることが必要です。大学病院などの高度な医療を提供する特定機能病院や臨床研修指定病院においては複数の専従者が必要です。単位ベッドあたりの専従・専任者を十分に配置し、効果的な医療関連感染防止を実施できれば、医療関連感染を減少させ無駄な医療費を削減することができます。これらを実現するためには、感染症や感染対策の専門家の育成、システム構築のための制度改善、診療報酬の見直しなど、行政との連携した対応が重要と考えます。

7.未承認薬の早期承認が望まれます
 多剤耐性アシネトバクター感染症に対する治療薬として、国内未承認であるコリスチンやチゲサイクリンが注目を集めています。欧米では第一選択薬となっているような薬剤がなぜ本邦で使用できないのか、その早期承認に向けた関係学会と行政の連携が強く望まれています。また、これら薬剤の適正使用、副作用発現の抑制、耐性菌出現防止対策などの視点から、多剤耐性菌感染症に対する治療ガイドラインの作成などを推進していくことが必要です。

8.新しい治療薬の研究開発を促進する仕組み作りが必要です
 いかに適正使用を心がけても、早晩コリスチンやチゲサイクリンに対しても耐性菌の出現がみられることは予想されるところです。耐性菌感染症を増加させない体制作りとともに、新しい治療薬の開発・研究の促進は極めて重要な課題と思われます。しかし実際には、研究開発費と収益性の視点を含め、製薬企業にとって新しい感染症治療薬の開発に積極的に参入できる環境が整っているとは言えない状況があります。関係学会と行政は、“耐性菌感染症に対する新しい治療薬の開発”という大義に基づき、製薬企業が新薬開発に参入・継続できる仕組みを中・長期的な視点で考えていくことが必要と考えます。

2010年10月21日

社団法人日本感染症学会  理事長 岩本 愛吉
社団法人日本化学療法学会 理事長 松本 哲朗
日本環境感染学会     理事長 小西 敏郎
日本臨床微生物学会    理事長 戸塚 恭一