日本感染症学会

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施設内感染対策事業:平成14年度以前相談窓口(2003年3月公開分)Anser1

最終更新日:2003年3月31日

施設内感染対策相談窓口(2003年3月公開分)へ戻る

Q:急性期病院と老人保健施設が敷地内に併設されているのですが,同一レベルの院内感染対策を行う意味はあるのでしょうか.院内感染対策に関する基本的な考え方を示してください.

A:保育園や学校などの集団生活において,各種市中感染症の流行が知られ,ワクチン対策や登校停止,学級閉鎖などの対策が行われています.一方,急性期病院においては,種々の疾患を有する病弱者が集団生活をしており,手術や抗腫瘍薬投与,血管内カテーテル留置などの医療的処置が盛んに行われ,大量の抗菌薬が使用されています.このような病院環境においては,通常の集団で見られる市中感染症の流行の他に,病弱者にしか感染症を起こさない弱毒菌による感染症や,MRSAなどの各種耐性菌による感染症の流行が見られ易く,特別な病院内感染症対策が求められています.また,医療従事者が患者血液に触れる機会も多く,針刺し事故対策も重要な位置を占めます.極端な例を比較しましたが,集団の性質により,流行しやすい感染症の種類は異なっており,おのずから対策も異なってくることは容易に理解できることでしょう.
 高齢者施設(特別養護老人ホーム,老健施設,在宅医療支援施設など)や心身障害者福祉施設などの集団生活の場においても,各種感染症の流行が起こりえますが,急性期病院とは状況は大きく異なります.これらの施設においては,侵襲的な医療行為はまれにしか行われず,抗菌薬が投与される頻度も少なく,MRSAなどの耐性菌の蔓延は起こりにくく,感染症発症の実害もほとんどありません.その一方で,インフルエンザや疥癬流行の実害が相当出ています.
 すなわち,施設の性格を考慮した,いわば『TPOを配慮した対応』が求められます.また,院内感染を引き起こしうる病原体は,MRSAのみではありません.それぞれの施設で流行しうる『多くの病原体を対象とした総合的な対応』でなければなりません.以上の点を考慮しない院内感染対策は,膨大な人手と費用を浪費するのみでなく,保菌者に多大な人権侵害的不利益をもたらすものになりかねません.院内感染対策は,患者/施設利用者/医療・介護従事者を守ることが目的なのであり,不必要な対応で患者/利用者を困らせるものであってはなりません.『施設の実状に合わせたバランスのとれた対応』が求められるのです.

(H13.5.15)

Q:MRSAにより重い感染症を起こすのは,どのような場合なのでしょうか.

A:MRSAによる難治性,重症感染症として,敗血症,髄膜炎,骨髄炎,心内膜炎,縦隔炎,深部膿瘍,膿胸などがあります.その多くは,血管内留置カテーテル感染にともなう敗血症に続発したもの,各種手術後のドレナージ感染に続発したもの,閉鎖腔穿刺処置後の感染などに引き続いたものです.またその他に,開腹手術後の腸炎,抗菌薬投与中の菌交代症として見られる肺炎,顆粒球減少患者における敗血症などがあります.すなわち,重症MRSA感染症の発症リスクとして,(1)外科的処置,(2)血管内留置カテーテルなど,体腔内異物留置,(3)抗菌薬投与中,(4)極端な感染防御能の障害,などがあります.このようなリスクを有する患者さんが集団生活しているのは,急性期病院の一部の部署(集中治療室,外科病棟,透析施設,抗菌薬投与機会の多い血液科病棟など)です.このような場では,院内感染対策に特に厳しい対応が求められますが,原因病原体は,MRSAに限られているわけでなく,緑膿菌,セラチア,カンジダなどによる重症感染症も見られます.

(H13.5.15)

Q:急性期病院におけるMRSA検出患者処遇の基本的考え方を示してください.

A:急性期病院の一部の部署では,MRSA感染症のハイリスク患者が集団生活しており,MRSAなどの耐性菌感染症が流行し易く,ハイリスク患者を守るために厳しい院内感染対策が求められます.(1)ハイリスク患者にMRSA排菌者を近づけない,医療スタッフがMRSAを運び込まない,(2)創傷処置や手術操作時,カテーテル操作時の厳しい無菌操作,(3)抗菌薬の適正使用,(4)発症時の早期診断,早期治療などが必要です.具体的な対応については院内感染対策のガイドラインがすでに多く出されています.これらのガイドラインの多くは,MRSA対策に偏っており,また,過剰な対応が患者さんのQOLを傷害している傾向があります.いくつかのグループは,他の病原体をも念頭に置いた,より現実に即した新ガイドラインの作成を試みています.平成13年度中には公表される見込みです.
 急性期病院であっても,診療科によって状況は異なり,それぞれの病棟の特性を捕らえて,対策を簡略化する必要があります.

(H13.5.15)

Q:特別養護老人ホーム,老健施設,在宅医療支援施設,心身障害者施設等において,MRSA保菌者にどのように対応すればよいでしょうか.

A:ご質問の各種施設におけるMRSA保菌者の処遇に関して,多くの相談が寄せられていますが,以下のように考えられています.これらの施設においては,MRSA保菌者を対象とする特別な対応を行わなくても,MRSAの蔓延,重症MRSA感染症の発症は殆ど見られません.施設全体での抗菌薬投与例が少ないこと,侵襲的な処置や血管カテーテル留置が行われる頻度が低いためと考えられています.過剰な無駄な対応により,患者/利用者に悪影響が及ばないよう工夫が必要です.

・一般的な清潔維持の努力が行われていれば,それ以上の,MRSA保菌者のみを対象とした特別な対応は不要です.

(必要なこと)

  • 施設の適切な整理整頓,清掃
  • 医療介護職員の手洗い励行,手洗い設備の整備
  • 施設の適切な食中毒対策
  • 点滴静脈注射,創傷処置などを行う際には無菌操作を徹底
  • 患者/利用者の血液に触れる際の手袋着用,素手で血液に触れてしまった際の手洗いと手指消毒,針刺し事故防止(職員の感染防止のため)
  • 発熱患者の早期診断早期治療,
    • (重症例,遷延例では関連病院との連携が必要です)
  • インフルエンザ,疥癬など流行時の適切な対応
  • 結核患者の見落とし防止

(不必要なこと)

  • MRSA保菌者の特別扱い
    • MRSA保菌者の食器の特別扱い
    • MRSA保菌者のリネンの特別扱い
    • MRSA保菌者の個室隔離
    • MRSA保菌者の行動制限
  • 保菌者の特別扱いが不要であれば,MRSA保菌検査のルチン化も,症状のない保菌者の除菌も不要と言うことになります.

(行ってはならないこと)

  • MRSA保菌を理由とした施設利用の制限
    • 施設入所制限
    • リハビリテーションの制限

    (HBV抗原陽性,HCV抗体陽性,梅毒血清反応陽性なども同様です)

 以上に示したことの根拠は,『院内感染対策テキスト(改訂4版),日本感染症学会編集,厚生省医薬安全局安全対策課編集協力.へるす出版.pp176-183,2000.)に記載されています.また,このような福祉施設における各種感染症対策の基本については,平成6年発行の厚生省監修『特別養護老人ホーム等における感染症対策の手引き』(全国社会福祉協議会),平成11年発行の『老人保健施設における感染症対策の手引き』全国老人保健施設協議会編に記載されています.

(H13.5.15)

Q:長期療養型病院におけるMRSA対応の基本方針について,どのように考えたら良いでしょうか.

A:MRSA感染症の発生状況から見て,急性期病院と,特別養護老人ホーム/老健施設との中間的な状況にあります.また,慢性期病院は,個々の施設運営方針により状況は多様であり,一律に対応を示すことは出来ません.個々の施設ごとにMRSAの蔓延状況,感染症の被害状況を調査の上,急性期病院の対応と特別養護老人ホーム/老健施設の対応を取捨選択して下さい.

(H13.5.15)

Q:出産したBabyにMRSAが検出されました.母親がGBS(+)にて出産時Babtの咽頭培養を施行.退院結果でMRSAが検出されました.このような場合,今後どのような対策をとればよいか教えて下さい.部屋,Babyベッド,Babyの取り扱いなど.

A:新生児にMRSAが定着するのは,黄色ブドウ球菌自体が常在菌として定着しやすいので,ある程度はやむを得ませんが,常在細菌叢が未発達のうちに大量の黄色ブドウ球菌が感染すると敗血症などの重症感染症を起こしたり,TSST-1によると考えられる発疹症を起こすことがあるので注意が必要です.今回の場合GBSのチェックの目的で咽頭培養を行ったところ,MRSAが検出されたとのことですが,検出された新生児は無症状ですので,単なるコロナイゼーションであり,除菌する必要はありません.おそらく他の新生児へ拡大し,院内にMRSAが広がる危険性を心配されていらっしゃると思いますが,通常の院内感染対策を行っていれば,新生児が大量の菌に汚染され,感染症として発症してくる可能性は少ないと思われます.従って大規模な環境調査や,患者・職員の調査を現時点で行う必要はないと思います.
 MRSAは接触感染ですので,医療従事者の手指や医療器具を介して伝搬すると考えられます.従って分娩室,新生児室ではユニバーサルプレコーションでいわれている一行為一手洗いを確実に行い,聴診器なども一人一人別にするか,一人毎にアルコール等で消毒して使用するようにすれば,交叉感染は十分に防ぐことが可能です.またベッドとベッドの間隔をなるべく大きくとることも重要です.ただ,医療従事者が一人でみる新生児あるいは患者さんの数が多くなると,忙しさのあまり手洗い(手指消毒)がいい加減になり,交叉感染をおこすリスクが増すので注意が必要です.ウエルパスR等の擦り込み式の手指消毒薬の場合でも,十分な効果を得るためには,数分間時間をかけて擦り込み,よく乾燥させることが必要なので,石鹸や消毒薬と流水で手洗いするのと同じくらいの時間を必要とするのです.
 上記のような手洗いのほか,黄色ブドウ球菌はまず臍部で増殖しやすいので,臍部および臍部周辺の皮膚の消毒をきちんと実施することも重要です.臍部の消毒はクロルヘキシジンアルコール等で大丈夫ですが,アルコール単独だと乾燥後の残存効果がないので消毒効果が不十分となる可能性があります.またイソジンをルーチンに用いると,ヨードにより甲状腺機能が影響を受ける場合があるので注意が必要です.
 部屋の床等はほこりがたまらないように,湿性のモップで毎日よく清掃することが重要です.ベビーベッドはほこりを十分に取り除き,温湯と洗剤で清拭してください.血液や体液の付着がある場合は,次亜塩素酸ナトリウム液で清拭します.沐浴槽は温湯と洗剤で十分に洗浄すれば感染源になる危険性はないと思われます.

(H13.5.15)

Q:炭疽が疑われる症例に遭遇した時の対応を教えて下さい.

A:

  1. 炭疽-炭疽菌について
     古代エジプト,ギリシアの時代から知られた家畜の流行病である.本来は,ウシ,ヒツジ,ヤギ,ウマなどの家畜の感染症であり,汚染された飼料を介して流行する.ヒトにも感染症を起こしうる人畜共通感染症として知られている.病原体は19世紀末に明らかにされ,Bacillus anthracis と命名されている.
     本菌は好気性グラム陽性桿菌であり,芽胞を形成し,3種類の毒素を産生する.
     土壌中で数年,動物の皮の中で数ヶ月生存可能であり,加熱処理,消毒剤にも抵抗性である.
     培養が容易なこと,芽胞を形成するため乾燥条件にも良く耐えること,毒素を産生しヒトが大量に吸入した場合,致死的な経過を辿ることなどから,生物兵器としての使用が考えられてきた.
  2. 臨床像
     炭疽菌による急性感染症であり,ヒトにおける臨床像としては,(1)皮膚炭疽,(2)肺炭疽(吸入炭疽),(3)腸炭疽の病型が知られ,時に髄膜炎を併発する.牧畜関係者,羊毛工場における職業病的な性格がある.ヒト-ヒト感染はない.
    (1)皮膚炭疽
     ヒトにおける炭疽の95%以上を占める.皮膚の傷口に入ったとき2~3日で発症し,皮膚に10~30mm 程度の痂皮(炭様で病名はこれに由来する)を形成し,周縁部に水疱を認める.領域リンパ節の腫脹に引き続いて高熱を呈し,適切な治療が行われないと,希に重篤な経過を辿る.
    (2)肺炭疽(吸入炭疽)
     芽胞を大量に肺に吸引した際,感冒様の非特異的な気道症状を呈する.引き続き肺内,縦隔リンパ節で出芽し,その際毒血症を引き起こして呼吸困難を起こし,急死する.
    (3)腸炭疽
     経口的に接種した場合の病型.家畜の発病は汚染された飼料の摂取によるものが多いが,ヒトでは希.
  3. 診断
     臨床像,細菌培養(水疱,血液など),PCR による DNA 診断による.
     培養は容易.同定は API のバチルス用が便利.一部の地方衛生研究所で PCR が可能なので,保健所を介して依頼.
  4. 治療
     従来 PC-G による治療が薦められてきたが,一部にペニシリナーゼ産生株あり.ニューキノロン,テトラサイクリンも使用可能.米国の CDC は以下の処方が薦められているが,人種差など考慮した,処方例を示す.パニックになって,漫然と予防的にニューキノロンやミノサイクリンを服用することは,副作用のリスクの方が危険.

     

    処方例:治療及び予防投与の考え方
    1.吸入型炭疽であることが明らかな症例(文献3による)*
  5. 成人
    (1)初期治療:
      シプロフロキサシン 400mgを12時間毎静注
    (2)感受性が明らかとなった場合:
      ペニシリンG 400万単位を4時間毎静注
      または  
      ドキシサイクリン 100mgを12時間毎静注**
  6. 小児
    (1)初期治療:
      シプロフロキサシン静注 20-30mg/kg/日
      1日量を2回に分けて静注. 1g/日を超えないこと
    (2)感受性が明らかとなった場合:
      12歳未満 ペニシリンG 5万単位/kgを6時間毎静注
      12歳以上 ペニシリンG 400万単位を4時間毎静注
  7. 妊婦
    妊娠していない成人と同様に治療する
  8. 免疫不全者
    免疫不全でない成人や小児と同様に治療する.

**状態が改善したら経口薬に切りかえる.
**わが国ではドキシサイクリンの注射薬は認可されていない.

2.暴露後発症予防(文献5による)

  1. 成人:次のいずれか
    シプロフロキサシン 1回500mgを1日2回服用
    レボフロキサシン 1回500mgを1日1回服用
    オフロキサシン 1回400mgを1日2回服用
  2. 小児:次のいずれか*
    シプロフロキサシン 20-30mg/kgを1日量として服用分2
    レボフロキサシン 推奨できない
    オフロキサシン 推奨できない
  3. ニューキノロン(フルオロキノロン)がないか,使用禁忌の場合
    ドキシサイクリン 成人では1回100mgを1日2回服用
      小児では5mg/kgを1日量として服用分2

*小児にニューキノロンやテトラサイクリンを投与した際の副作用はよく知られている.生命の危険がある炭疽を発症するリスクとこれらの薬剤による副作用の危険性を十分に検討した上で投与すべきである.炭疽菌がばら撒かれたことが明確な事実となり,その菌がペニシリン感受性であることが判明すれば,小児はアモキシシリン40mg/kgを1日量として分3で投与すべきである(最大1回500mg1日3回).

註1. 上記の用法用量は米国の例であり,わが国において投与の必要が生じた際には,患者の体重・年齢などを考慮して治療計画をたてる必要がある.
註2. 米国の文献では投与期間60日などとなっているが,状況に応じて判断することが必要である. 

 

  • 予防
     不活化ワクチンが米国で軍用に用いられているが,一般には入手困難.副作用が強いと言われる.
  • 届け出など
     感染症新法で4類全数報告疾患に分類されている.
  • 文献,関連情報
    1. 渡邉一功,安部政男,内藤俊夫,炭疽肺炎,日本臨床別冊 感染症症候群I,357-359,2000.
    2. Daniel Lew, Bacillus Anthracis (Anthrax), Principlesand Practice of Infectious Diseases Vol.2.1885-1889.1995.
    3. T. V. Inglesby et al., Anthrax as a biological weapon: Medical and public health management. JAMA 281: 1735-1745, 1999.
    4. T.C. Dixon et al., Anthrax. N. Engl. J. Med. 341: 815-826, 1999.
    5. Bioterrorism alleging use of anthrax and interim guidelines for management-United States, 1998. Morbidity and Mortality Weekly Report 48: 69-74, 1999.

     インターネットの厚生労働省,国立感染症研究所,日本医師会,米国 CDC などのホームページで信頼できる情報が入手出来る.

(H13.10.17)

Q:

1.MRSA保菌者の排泄処置について

  1. 寝たきりでおむつを使用している入所者で,尿と便からMRSAが検出された場合のおむつ交換は手袋を使用したほうが良いか?
  2. おむつ使用者の排尿後,排便後の清拭については,基本的に布を使用しているが発症者についてはドライコットン(紙製品)で清拭している.他の入所者と同様布を使用して構わないか?また布の場合は全て次亜塩素酸消毒したものを使用しているが,消毒後は誰にでも使用して構わないか?
  3. 尿失禁,便失禁したシーツと衣類の洗濯は,他の利用者のものと別個にハイター消毒している.乾燥機の使用で菌は死滅するということを聞いたが,失禁したものは入所者の衣類の洗濯に使用している乾燥機にかけることには抵抗があるが従来通りの別個の次亜塩素酸消毒の対応でよいか?それとも消毒は不要か?

2.喀痰からの検出について

喀痰からMRSAが検出された場合,その痰が衣類等に付着した場合,後に乾燥機にかければ他の入所者の衣類と一緒に洗濯しても構わないか?

3.入浴について

  1. 発症者の入浴は現在手袋を使い一番最後に行い,入浴後は浴室,使用したバスタオル等をアルコール消毒しているが,この対応の継続は必要か?
  2. 現在,ヒゼンダニによる疥癬の入所者がおり,隔離対策をとっており,毎日最後にムトーハップによる入浴を行っている.MRSA発症者も含む全利用者にも予防の為,ムトーハップで入浴していただいているが,(1)の対応の継続が必要であるならば,MRSA発症者が入浴後,浴槽のお湯を汲み替えて,その後,疥癬の入所者を入浴させるという方法で良いか?

A:
1.排泄処理について

  1. 尿と便からMRSAが検出されている患者さんの排泄物処理時の使用について
    交差感染予防のため手袋を使用した方が望ましい.原則的には,処置後に十分な手洗いが行えれば交差感染は起こらないと思うが,その場合手洗いの習慣や直ぐに洗える手洗い場があるかなど教育や環境整備も必要である.それらが十分に確保できない場合汚染された排泄物が手に付着し交差感染の可能性が考えられる.特に手荒れなど皮膚炎の生じた手で患者さんの処置を行う時は,患者間の交差感染防止や医療従事者保護の観点からも使い捨ての手袋を使用することが望ましい.また,手袋をはずした後も手洗いは必要である.
  2. オムツ使用者の排泄後の清拭に用いた布の消毒について
    使用後次亜塩素酸消毒が行われているのならば,区別する必要は無い.ただし, 排泄物で汚れたオムツには菌が付着している可能性が高いので,ビニール袋に入れるなど洗濯までの過程で汚染を広げないような配慮をすることが必要である.
  3. 通常の洗濯処理の工程で菌が洗い流され,乾燥機をかけるなどの熱処理を行えばMRSAなどの菌は,リネンを通じて感染源になるようなことは無いと考えられる.ただし,失禁などで汚染されているリネンは他のリネンまで汚染させてしまう可能性があるので区別して一時処理を行う方が望ましい.この場合も(2)の質問と同様に汚染が広がらないようにビニール袋などに入れて搬送し,汚染物を水洗いし取り除いた後に次亜塩素酸消毒を行うと良い.洗濯後の乾燥機の使用は同じ物を用いても問題ないと考える.

2.喀痰からの検出について

痰からMRSAが出ている患者の痰が付着したリネン類も同様で,痰の付着が大量でなければ,搬送過程を注意して取り扱い通常の洗濯処理を行えばよいと考える.
※一般的なリネン類についての考え方
 患者さんが使用後の汚れたリネンには非常に多くの病原微生物が存在しますが,通常の洗濯の後でも感染源となる危険性は非常に少ないと考えられる.ただし,MRSAの検出に限らず,血液や体液,排泄物で目に見える汚染のあるものは,区別して取り扱うことが汚染を拡大しないために効果的で効率的である.具体的には,(1)汚染されたリネン類は搬送過程に注意して取り扱うこと,(2)他のリネンとは別に取り扱い,(3)洗浄後一次消毒の後に,通常処理(洗濯と乾燥機の使用)を行うことが望ましいと考える.また,使用されている次亜塩素酸ナトリウム(ハイターなど)は,適正な濃度を用いればMRSAなどの一般細菌(芽胞は例外)をはじめウィルスにも効果があり,安価で安全な(乾燥すれば塩素ガスとなり蒸発し残留しないため)消毒薬である.ただし,低濃度で用いた場合,有機物が存在すると不活化しやすいため,できるだけ排泄物を取り除いた状態で用いる.洗浄後の最終すすぎ水で(0.02%濃度:ハイターは6%)5分間以上浸漬し,その後に水洗いを行うことがよい.

3.入浴について

  1. どの程度の菌がどこから出ているかによるが,MRSAが入浴により他へ感染する可能性は少ないと考えられる.患者さんが保菌状態の場合であれば,通常の入浴を行っても問題のない.ただし,痰からMRSAが検出されている患者さんが失禁などで体が汚染されている場合や,傷からMRSAが検出されている場合などでは,浴室が汚染されたり他の患者さんへ感染の可能性がある.この場合は,最後に入浴をした方が良い.この場合も,使用後は通常のお風呂用の洗浄剤を用いて洗い流した後,高温のお湯をかければ特に消毒の必要はない.使用したバスタオルも汚染が無ければ,通常の処理で良い.
  2. 浴槽のお湯の汲み替えは,(1)に述べた汚染の可能性のある患者さんの場合でなければお湯の汲み替えは不要だと考える.
(H14.3.31)

Q:特養に併設されているデイサービスセンターで,咽頭よりMRSA(+++)保菌者の70才代の男性が利用されている.H13.3月に交通事故にて脳挫傷をおこし,精神機能の低下もみられ常時見守りが必要で,現在は医師の指示により鼻腔にイソジンゲル塗布,イソジンガ-グルで口腔清拭を行い除菌に努めている(マスク使用不可).
  1. 当センターは,気管切開,胃瘻,バルーンカテ-テル挿入をされている人も利用されています.その方達との同室での利用は可能か?可能の場合,留意点はあるか?
  2. センター内には個室がないため利用者の皆さんと(食事摂取時等)同じテーブルで過ごすことは可能か?可能な場合,留意点はあるか?
  3. 鼻腔(+)と咽頭(+)では,対応に違いはあるか?
  4. (1)在宅で介護を行っている直接介護者(このケースでは嫁)が対応するにあたっての留意点はあるか?(2)介護者が微熱,口内炎がある等,体調のすぐれない時には対応の違いはあるか?
  5. (1)入浴は最後に行ない,(2)浴室,バスタオル等は消毒用エタノール,次亜塩素酸ナトリウムで消毒を実施している.利用者の皆さんとは,(3)直接接触が少ないよう座席を工夫し,(4)使用済みの食器は消毒を行なっている.(5)職員は感染の媒体にならないよう手洗い,アルコール噴霧につとめている.
     以上の(1)~(5)について,他の利用者への感染対策で改善点,留意点は?

A:

  1. 咽頭からMRSAが検出されている者への対応について
     この方は,今は炎症があるわけではなくて定着している状態と考えられる.鼻腔へのイソジンゲル塗布,イソジン口腔除菌をされているとのこと.口腔や鼻腔には常在菌が存在して,それらが防護機能として働いている.イソジンで常在菌まで抹殺する必要はないのではないか.また,イソジンを使用しても全てが除菌できるわけではない.
  2. 気管切開,尿路カテーテル挿入者と咽頭からMRSAが検出されている者と同室でよいか?
     他の方々は検査をしていないだけではありませんか?全ての人が感染を持っていると考えて行動するスタンダードプレコーションを行なう方法が良いのではないでしょうか.また,気切開部のケアや尿路カテーテルを扱う時には手洗いし手袋を装着するとよい(各処置毎に交換).
  3. 食事時など,同じテーブルで過ごしてよいか?
     その方がひどく咳をするなどの状況がないなら,同じテーブルでお食事をされても問題はない.食器はきちんと洗い流していただければ,薬液で消毒する必要はない.全ての方の食器はきれいに洗い流すこと,できれば熱水洗浄器を使用されることをおすすめする.
  4. 鼻腔(+)と咽頭(+)の対応の違いについて
     鼻腔からでも咽頭からでも同じと考えます.手洗いを含めたスタンダードプレコーションを実施することが大切である.
  5. 介護者の留意点について
     MRSAは通常の接触で感染しない.鼻腔などに定着するかもしれないが,MRSAが感染をするのは傷のある皮膚や血液内に入った場合なので,通常の健康な人であれば,問題はない.手洗いを含めたスタンダードプレコーションはどんな場合でも大切である.
  6. 入浴時の対応:鼻腔などから出ているだけで入浴制限は不要ではないか?
     他の方が傷を持っている場合を除いて別にしなくても良いと考える.タオルなどは洗濯をすれば,薬液での消毒は不要である(どなたも感染症を持っていることを前提にした対応が大切である).

 たまたまこの方は培養したのでMRSAが検出されたのかも知れない.また他の方は検査していないだけや検査の結果が来ていないだけかも知れない.誰の場合でも,スタンダードプレコーションをとられることをお勧めする.血液・体液・傷のある皮膚に接触の可能性がある場合は手袋をする(粘膜に触れる場合も同様).手袋をしても手洗いは基本である.

(H14.3.31)

Q:
  1. 痰よりMRSAが出ている利用者の入浴について
    チェアインバス(特殊浴槽)での入浴を行った際,一番最後に入れなければならないか?
    また,最後の洗浄の後,消毒が必要か?必要であれば,何を使うことが好ましいか?
    ※浴槽は湯の出入りに際し濾過装置を通るが,特に殺菌のためのシステムは無い.
  2. 尿,褥瘡から出ている場合,いかがなものか?

A:

  1. MRSAは接触感染であり,使用方法によっては浴槽に付着した菌が他の患者に伝搬する可能性はある.但し,MRSAが多量のお湯により希釈され,手や医療器具の接触のリスクに比べると低いと思われる.病院では易感染状態の患者が多いので,できるだけ最後に入浴して頂いている.MRSAは一般細菌であり,熱や低レベルの消毒剤が有効である.従って使用後は洗浄剤で充分洗い,熱湯で洗い流すことで除菌できる.消毒剤を使用するのなら塩化ベンザルコニウムなどで充分である.浴槽の消毒も必要な場合はあるが,患者の衣類などに付着しているMRSAへの接触や環境汚染の方が問題です.
  2. 尿や褥瘡からの検出の場合も上記と同じ考え方で良い.
(H14.3.31)
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