Q:
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A:
1.特養向けの感染防止マニュアルとしては,
- 「特別養護老人ホーム等における感染症対策の手引き」,2000年(ISBN4-7935-0227-X)
厚生省老人保健福祉局老人福祉計画課監修
出版先:全国社会福祉協議会出版部 - 「院内感染対策テキスト(改訂4版)」pp176-183,2000年(ISBN4-89269-365-0)
日本感染症学会編集,厚生省医薬安全局安全対策課編集協力
出版先:へるす出版
がある.また, - 「老人保健施設における感染症対策の手引き」,平成11年発行全国老人保健施設協議会編も参考になる.
2.いわゆる「標準予防策」について
CDCでいうところの標準予防策とは,感染症のあるなしに関わらず全ての患者に適応となる基本的な感染対策手技であり,職員安全対策のための血中病原体に対する感染予防,手洗いなどがその内容となっている.ご質問にある個室対応,ガウンテクニックは接触感染対策であり,これは病院におけるMRSAなどによる接触感染対策に対応するものである.前述の手引き書にも書かれてあるように,特養は病院とは異なり,抗菌剤の投与量が少ないことや侵襲的な処置が行われる頻度が低いためMRSAの蔓延や重症MRSA感染症の発生はほとんどない.入所者処置後の職員の手洗いや定期的な環境の清掃(消毒の必要なし)など一般的な清潔維持努力が行われていればそれ以上のMRSA対策は不要である.個室対応もガウンテクニックも不要である.
3.MRSA保菌者の施設利用について
前項2.でも述べたように,特養においてはMRSA保菌者を隔離する必要はない.ただし,重症感染症を起こす基礎疾患を持った高度免疫低下状態の入所者(ステロイドや抗癌剤内服中,慢性血液疾患,透析患者などで実際にはほとんど特養にはいないと思われる)との接触はできるだけ避けた方がよい.
4.感染のおそれが少ないとされるケースについて
MRSA保菌者の施設利用については,施設利用制限を行うなど他の入所者との区別をする必要はない.特養において保菌状態の入所者から,入所者同士の接触より感染症を引き起こす菌量のMRSAが他の入所者に伝播する可能性はほとんどないと思われる.基本的な清潔維持を行うことが最も重要である.
Q:当施設におきましては,MRSAが検出された入居者についてはH3年作成のマニュアルに基づき,個室隔離等の対策をとっておりましたが,近年の動向にもとづき,改正が必要と思われ,以下のように対応を改める方向でおります.実施に際し,何か留意すること等ありましたら,御指導下さい.
MRSA鼻腔保菌者の対応について
2.MRSAを保菌していて起こる問題 3.易感染者を守る 以上を踏まえた対応は,
※不明な点は,感染管理者と協議する. |
A:ご指摘のようにMRSA感染は,感染症を起こしているか,いないか,あるいは周囲に拡散する可能性が高いか,低いかによって対策は違ってくる.ご質問の施設は特別養護老人ホームなので,MRSA感染症を発症した場合は病院に移られるということで,MRSA感染症患者ではなく,MRSA保菌者に対するマニュアルということであるとすると,今回お寄せいただいた内容,すなわち,
・MRSA鼻腔保菌者の対応
・MRSAを保菌していて起こる問題
・易感染者を守る
以上を踏まえた内容は,いずれも妥当なものと考える.これまでのマニュアルは,すべてをMRSA感染症発症患者に対する対策と同じレベルで考えていた傾向があり,入所者,あるいは職員の方に過分な負担を掛けていたところがあった.今回改定されるような形で,入所者,職員に過分な負担を掛けない,より実際的な運用が可能となると考える.
Q:MRSA陽性患者への「陽性であること」の告知と協力依頼について 当該患者が歩行可能で病棟内を行き来する場合には,患者にも手洗い・うがいの励行等負担にならない限り協力を頂きたいと考えている.その際患者の気持ちを損なわず,その事実の告知及び協力依頼をする方法についてマニュアルの見本等をもとにご教示戴きたい(ことに院内感染の場合に協力依頼に困難を来たしている). MRSA陽性患者が単なる保菌か,あるいは感染症発症者かの鑑別の基準等がについてもご教示願います.保菌でなく,感染症発症者であれば,拡散される菌量も増加し対応が異なってくる:通常に考えれば,喀痰所見(喀痰の性状,鏡検所見),患者病態(WBC,CRP,血清総蛋白,アルブミン),培養成績(MRSAの菌量,同時分離菌,球菌食菌像)等であると考えているが・・・. |
A:病棟内を行き来される患者さん,基本的にはMRSA保菌者の方への告知と協力依頼依頼という設定で以下述べる.
黄色ブドウ球菌は常在菌でもあり,MRSAも常在菌叢の一部である限り患者本人にとっては特に問題となることはないことを含めてよく説明し,理解していただく.しかし,種々の事情により,こうした説明が難しい場合もある.その場合は,手洗いなどの基本的な衛生管理は何もMRSAに限ったことではなく,院内感染標準予防策standard precautions,として当然取り入れるべき対策なので,ことさらMRSAと指定しないで,一般的な院内感染標準予防策の一部として実行していただくことが重要である.
MRSAの保菌者か,感染症発症患者かについては,症例毎に判断すべきであり,一元的なマニュアル化は難しい.ご指摘のような喀痰所見,患者病態,培養成績などを基に症例毎に判断することになる.
ご指摘頂いた内容についていえば,MRSAが引き続いて喀痰から検出されていて,喀痰については膿性痰,鏡検で白血球が多数みられること,末梢血の白血球数は例えば8,000/μl以上,CRPも陽性で喀痰のMRSA菌量は107/ml以上,鏡検で食菌像ありといった場合は,MRSAは単なる保菌colonizationではなく,MRSA肺炎として考える必要がある.
以上を含めて,MRSAの院内感染対策については,厚生省健康政策局指導課から,施設内感染対策相談をまとめた“院内感染対策Q&A”(へるす出版)が出版されており,実際の場での問題点がよく解説されている.今回のご質問に関連した項目としては「感染なのですか,保菌なのですか?」,「拡散群と非拡散群の判定方法は?」といった項目があり参考になる.
Q:当院産婦人科外来で,妊娠37週(G2P1)の健常妊婦の膣分泌物のルーチン培養にてMRSAが検出された.連日イソジン洗浄およびクロマイ腟錠挿入を行っているが,仮にこのまま出産になった場合について, 1.出産時の対策 2.児に対する対応 |
A:ご腟分泌物中のMRSA保菌者について
1.出産時の対策
新生児が鼻咽腔や腸管のMRSA保菌者になる可能性は大きいと思われるが,それが直ちに疾患を引き起こしてくるとは考えられない.通常の出産の時と同じ無菌操作でよいと考える.MRSAは陰毛部に付着していると考えられるので,母親の会陰部を広く,よく消毒する.同時に,新生児の沐浴,消毒をしっかり行なう.
2.児に対する対応
新生児期に定着したMRSAが1歳時健診時に持続陽性となる率は15%程度と低く,多くの新生児期に定着したMRSAは脱落する.しかし,同年齢の健常乳児のMRSA保菌率が1%前後であることを考えると優位に高いことが知られており,将来的に鼻咽腔や腸管に保菌されMRSAが,MRSA感染症の原因になることは有り得るかも知れない.また,他の菌と交代することもあり得るので,保菌状況の経過観察を行う.
[参考文献・資料]
- Mitsuda, T., K. Arai, et al.. "Epidemiological analysis of strains of methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) infection in the nursery; prognosis of MRSA carrier infants. "Journal of Hospital Infection 31 (2): 123-34. 1995
- Mitsuda, T., K. Arai, et al. "Demonstration of mother-to-infant transmission of Staphylococcus aureus by pulsed-field gel electrophoresis. " Eur J Pediatr 155 (3): 194-9. 1996
Q:新生児室内のMRSA感染対策について 近年,健康な新生児の臍,鼻前庭,咽頭からMRSAが検出される頻度が以前より高くなっているようですが,実際にこれらの部位からMRSAが検出された場合の対策について御教授下さい.
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A:最近NICUばかりではなく,正常新生児を収容する新生児室でもTSST-1に関連する新生児発疹性疾患などMRSA流行の報告が増加している.新生児のMRSA感染(保菌)の増加は,話題性の面でマスコミで大きく取り上げられたため,新生児医療関係者にとっては頭の痛い問題である.日本の新生児のMRSA保菌率が高い原因が,overcrowdingとunderstaffingのためだという考えがマスコミで取り上げられることは期待できない.
平成13年5月に日本小児科学会が公式見解を発表したことは,時宜を得たものである.その「新生児医療におけるMRSAに関する日本小児科学会新生児委員会の見解」によると
- 新生児医療に携わる医療従事者は,MRSA感染(保菌)の予防及びその感染による臨床例の発生を最小限にする努力をしなければならない.
- MRSA院内感染防止対策として最も重要なことは,医療従事者が児に触れる前後での手洗いである.それに加え,NICUにおいては各施設の実状に応じたMRSA管理対策を講ずるべきである.
- MRSAを保菌する新生児については,その事実とともに正しい医学情報を家族に告げるべきである.その際,家族に無用な不安を与えないように配慮する.
- MRSAを保菌する新生児においては,退院後の他科受診において担当医への適切な情報提供を行い,その対応に関して共通の理解を持つよう努力すべきである.
Q: 1.患者と保菌者の区別 2.感染者が在宅療養をうける場合, ・感染者の部屋の消毒,衣類の消毒,入浴方法は? ・介助者の感染予防対策として何をすべきか? ・MRSAの検査はどのくらいの期間で行うのか? ・保菌状態となっても,検査は必要か? |
A:微生物の名前がわかりませんので「MRSAによる」としてお答えします.
1.感染者(発症者)と保菌者の区別
MRSAは,多くの病院において患者,医療従事者や院内環境などに広く分布しており,MRSAが分離されただけではMRSA感染症とは判断できない.MRSAのように,常在菌叢のひとつになっている細菌では,菌量の増加・無菌的な部位への侵入,あるいは抵抗力の低下している患者へのMRSAの侵入などによって感染症を引き起こす.MRSAの感染者か保菌者かの判断は容易ではないが,その判断には一般的な感染症の場合と同じで,次のような点が参考となる.
- 血液や髄液,閉鎖性部位などの無菌的な部位からの検出は起炎菌と考えられる.
- 喀痰,咽頭ぬぐい液,尿,便などで常在菌混入が避けられない部位からのMRSAの検出は,菌量の増加が起炎性推定に重要である.定量培養法で喀痰では,1×107個/ml以上,尿では,1×105個/ml以上検出されなければ起炎菌と考えられない.定性的には,MRSAがかなり多い割合(2+以上)あるいは,MRSAだけが検出されて他の菌がほとんど検出されない場合には起炎菌として疑う.しかし,カテーテル尿,経気管吸入喀痰のように常在菌の混入が避けられれば菌量が少なくても,起炎菌と推定できる.
- グラム染色で好中球が多く,好中球貪食像が確認できれば,さらに起炎菌の可能性が高くなる.
- MRSA感染症,あるいは患者では多くの場合,以上のような検体検査に加えて,発熱などの感染症状や白血球増加,CRP陽性などの急性相炎症反応が見られる.MRSA感染症状,炎症所見,細菌検査から判断しなければならない.
2.感染者が在宅療養をうける場合
MRSA感染者では,あまり在宅療養をうけることは望ましくないが,一応安定期に入っていると考え以下述べる.
- 感染者の部屋の消毒
MRSAは,接触あるいは飛沫によって感染しますので,喀痰などから排菌(拡散群)されている場合には,患者の周囲のベッド柵などはヒビテン,消毒用エタノール,塩化ベンザルコニウムなどで1日1回程度清拭してはと考える.非拡散群も含めて除塵を目的とした部屋の清掃が大切である. - 衣類の消毒
通常の洗濯で洗い流されるので,普通に洗濯を濯ぎ,乾燥で十分である.また,80℃以上のお湯を使用したり,乾燥器を使用すると消毒になる. - 入浴方法
一般の人と大差ない.但し,家庭に易感染者がいる場合最後に入浴した方が良い. - 介助者の感染予防対策
(1)手洗い励行:患者と接触した後の手洗いを十分に行なう.消毒用エタノールを含む速乾性消毒薬などを用いて消毒してもよいと思います.
(2)介護時には予防衣の様なものを着用した方が良い.
(3)手荒れや傷などがある場合,手袋を使用する. - MRSAの検出はどのくらいの期間で行うか?
MRSA感染症の疾病の種類によって異なるが,感染症一般の検査時に細菌学的検査をしていただいてよいと考える.病変時には,必ず検査が必要である. - 保菌状態となっても検査は必要か.
周囲に易感染者がいなければ,検査の必要はない.
Q:
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A:
1.MRSA陽性者とのプールの共同使用について
厚生労働省の遊泳用プールの衛生基準に関する指針によれば,遊離残留塩素濃度は0.4mg/L(0.4ppm)以上であること,また1.0mg/L(1.0ppm)以下であることとされています.一方,塩素は0.5ppmで臭気を感じ,3ppmで眼・咽頭への刺激を生じ,それ以上の濃度になれば人体へ多大な影響を生する.
MRSAは消毒薬に充分な感受性があるので,感染巣が開放膿や褥瘡など濃厚汚染された部位でない限り,上記基準の濃度で充分殺菌力があるものと考えられる.開放膿や褥瘡のある患者のプール使用は当然禁止しておられるでしょうから,この点は全く問題はないものと考える.また,Chlorine knowledge center(海外)のホームページで遊離残留塩素を1.0ppmに保てば有害微生物を殺菌することができるとされているが,塩素の人体への毒性を考慮すれば,上記の衛生基準が妥当かと考える.
一般に塩素系消毒薬は有機物の混入により急速に消毒力が低下するので,使用前の遊離残留塩素濃度は1.0ppmから始める必要がある.水道水にはもともと塩素が含まれており,さらにプールの設置状態(屋内か屋外か,水温など)や使用開始後の有機物汚染をも勘案して最終遊離残留塩素濃度を上記基準とするために具体的に次亜塩素酸ナトリウムの濃度をどうすればよいかということについては,保健所や学校薬剤師会に相談して戴きたい.
2.風呂水のレジオネラ検査について
厚生労働省は現在,遊泳用プールの衛生基準に関する指針の部分的改正を検討しており,レジオネラ属菌に関わる基準についても新たに設定する方針で草案を作成している.その内容は゛ジャグジー,ホットバス等の設備(エアロゾルを発生させやすい設備,水温が比較的高めの設備,その他これに類似する設備)がある場合は,その設備の中の水についてレジオネラ属菌の検査を年1回以上行い,レジオネラ属菌が検出されないことを確認すること″となっている.浴場についても同様と考えられる.勿論この前提として持続的な消毒の実施が必要である.消毒は遊離残留塩素について上記基準のとおりに行って戴きたい.質問1と同様,具体的な消毒方法は保健所の指示に従って戴きたい.
Q:当施設においてもMRSAなる病原体を保有する患者(利用者)を迎え入れる事となりました.施設内感染防止対策の参考として市販の図書閲覧や医療機関の別によって対応策が異なり,一貫した対応が取られておらず,施設内での対策を具体化出来ずにおりますので,以下の条件下での基本的な対応方法についてご教授下さい.
対象者…男女各1名(計2名) 患者の生活空間について
消毒薬の種類・有効消毒薬について
病室の滅菌・消毒について
食器等の滅菌・消毒について
衣類等の滅菌・消毒について
汚物の処理等について
保菌者の施設生活内での,病原体の再検査の間隔について
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A:質問の「MRSAなる病原体を保有する患者(利用者)」から,MRSAについての認識にずれがあるように思われる.まず,“MRSA=病原体”ではない.MRSAを保有しているだけで患者と呼ぶのは誤りである.MRSAによる感染症がみられる場合には患者としてもよろしいが,保菌だけでは患者とは言えない.一般健康人の20~40%は鼻腔に黄色ブドウ球菌を保菌している.またごく少数ですがMRSAもみられる.MRSAに対して,現在ではバンコマイシン以外にも有効な薬剤がある.MRSAも黄色ブドウ球菌なので,鼻腔に保菌していてもそれだけでは異常であるとは言えない.高齢者であっても全く問題はない.質問にある「MRSAなる病原体を保有する患者(利用者)」は「MRSAを鼻腔に保菌する施設利用者」と表現するのが適切であると考える.
質問は,鼻腔のみMRSA陽性の男女各1名の入所に関する基本的対応と考えられる.このような入所者の特別扱いは,考え方によっては,差別扱いとととられかねない.基本的には,高齢者であるが,健康保菌者なので,特別扱いすべきではない.全く普通の入所者と同じ扱いでよいと考える.すなわち,質問の順番からは,入院は不要,個室は不要,大部屋への入室可.共用スペースにて生活制限なし.保菌者と一般高齢者との接触に制限なし.介護者についても,ガウン,マスク,手袋などの着用不要.履物の履き替えは不用(履物の履き替えは非科学的).部屋の清掃は通常通りで良い.特別な消毒薬は不用で食器,衣類などについても特別な配慮不要.汚物の処置も特別な配慮は不要.保菌者の細菌検査は,発熱などの感染症状があればその都度施行する.しかし,症状がなければ再検査はしない.また,入所者の画一的な細菌検査は意味がない.
回答者の施設は定員300床の特別養護老人ホームと204床の附属病院から成り立っている総合施設であるが,特別養護老人ホーム入所者に対してMRSA保菌の有無に関わらず全く同じ扱いをしている.ただ,褥創感染や咳の多い慢性呼吸器感染などのある入所者で,大量にMRSAを排菌している場合には,適切な褥創の処置,うがいなどを行います.また入浴の順番は最後にするとか,MRSAを受け取りやすい抗菌薬投与中の入所者とは別室にするなどの処置をとる.また感染症状がある入所者については治療が必要である.病態によって判断している.このような場合には医師の指示が必要となる.
高齢者ではあるがMRSAの健康保菌を差別扱いすることは,人権問題へと発展する心配がありますので御注意戴きたい.
全国社会福祉施設協議会出版の「特別養護老人ホームにおける感染症対策の手引き」をご参考戴きたい.
Q:
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A:
1.国立大学医学部附属病院感染対策協議会の作業部会の報告では,接触(感染)予防策の患者収容の項を次のように示しています.
(1)原則として患者は個室収容とする.
(2)個室収容ができない場合は,同じ微生物による感染症患者を1つの病室に集めて収容してもよい(コホーティング).
(3)コホーティングも不可能であれば,病原体の毒性や排菌量,同室者の感染リスク,病院あるいは病棟における感染対策上の重要性などを考慮し,病室の配備を行う.
(4)特殊な空調や換気は不要で,ドアは空けたままでよい.
誤解のないように以下を記す.
- この報告書の患者収容は接触で伝播しうる重要な病原体(ウイルス性出血熱や感染力の強い急性ウイルス性結膜炎など13種の例を含めた)を対象として示されたものであり,MRSAに限定したものではない.
- 報告書の中では隔離予防として個室管理が望ましいが,全ての接触予防策の対象患者を個室に収容することは病院の事情から不可能である,と解説している.
病原体の種類や排菌量に基づく個室収容の明確な基準がなく,このことが医療現場を混乱させている理由だと考える.MRSA分離患者においても明確な基準,厳格な基準が設けられないのは,分離状況(単なる保菌か感染症か),患者の易感染因子,病院や施設の実情が様々に異なるなど,一律な基準を設定することが困難であるからだと考える.現段階では(1)~(4)に準拠して,大量排菌患者(MRSA腸炎,咳嗽と喀痰が激しい患者など)は個室収容を優先する,コホーティングも不可能であれば易感染性患者との同室を避ける,といった施設の実情にあった現実的な対応をとるしかないと考える.
院内感染予防対策テキストの多くが,「個室対応」については(1)~(4)と同工異曲の記載であり,日本感染症学会の基本的な考え方も同様であると理解している.
2.高齢者施設におけるMRSAの対応についての日本感染症学会の基本的な考え方を以下に示す.
- 特別養護老人ホーム,老健施設等では特別の保菌者対応を行わなくても,MRSAの拡大再生産や感染症発症の実害はほとんどない.
- 従って,保菌者の特別扱いは不必要であり,保菌を理由に施設利用を断ってはならない.
全国の主要な地区での現状の情報は持ち合わせておりませんが,以下の資料がある.
[参考文献・資料]
- 稲松孝思:「特別養護老人ホームにおけるMRSA対策─感染症対策のTPOについて」
感染症学雑誌24(2):49-52,1994 - 厚生省老人保健福祉局監修,全国社会福祉協議会「老人ホーム等における感染症対策検討委員会」編
- 特別老人ホーム等における感染症対策の手引き全国社会福祉協議会1993
稲松孝思:MRSA感染とその対策;MRSA共存時代の知恵全日本病院出版会(金原出版)東京,1995 - 稲松孝思:特別養護老人ホームにおける施設内感染平成9年厚生科学研究補助金,新興・再興感染症研究事業部「我が国における施設内感染等のあり方に関する研究」1998
3.症候性保菌者については,挿管・麻酔による大手術の予定者であるとか特別な場合を除いては,ムピロシン点鼻やポビドンヨード含嗽による除菌は必要ではなく,まして除菌目的にバンコマイシン,テイコプラニン,アルベカシンの全身投与は無効なことが多く,副作用のリスクからも行わないとしている.感染症に対しては,当然治療を行う.ただ,MRSAに限ったことではないが,感染症診断を的確に行うことが重要である.感染症状,病巣からの優位菌の分離,炎症反応や画像所見などから総合的に判断するが,MRSAは常在菌的性格の強い菌なので,本菌を原因とする感染症診断はより慎重に下す必要がある.
Q:
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A:
- MRSA症例の個室管理の絶対的適応は,喀痰などから大量に排菌する患者で周囲を汚染させる可能性の高い場合である.便からMRSAが検出されている本症例のような保菌者の場合,MRSAが周囲を汚染させる可能性は低く,患者自身が手指消毒を行うことが可能で,ある程度衛生学的観念の持てる患者,または寝たきりでベット上からは動けないような患者の場合は周囲を著しく汚染することはないので,個室管理の必要は必ずしもない.ただし同室者は,易感染宿主などMRSA感染の危険性のない患者とするのが適切と思われる.またご指摘のように入退室時の手洗いや,介助などで濃厚に接する際には手袋やガウンテクニックが必要である.
- 清掃には湿式と乾式があり,現在は一般に湿式清掃が多く取入れられている.湿式清掃の方が細かい塵をほこりを立てずに除去できるというのがその理由である.ご質問の文面からは,なぜ細かい塵が湿式の清掃で十分取り除けないのかは不明ですが,乾式清掃を行う場合は中央配管式のクリーナーや高性能フィルター付き掃除機の使用が勧められている.またほこりや塵などが多い場合(このような状況になることが問題ですが),使い捨てのダストモップなどでほこりを除去し湿式モップで清掃するという方法も用いられている.
- 通常の床清掃では消毒剤を用いて行う必要はない.消毒剤を用いて掃除しても数時間でその効果はなくなる.ただし,血液や体液などで明らかに汚染された場所は次亜塩素酸ナトリウムなどを用いて掃除する必要があります.また患者退室時には消毒剤を用いた清掃をした方が良い.2バケツ1モップ法とは2つのバケツを1つはすすぎ用,もう1つは清掃用に分けて清掃することをいいます.つまり,床などを清掃した後は最初のバケツでモップを洗い,その後もう一方のバケツでモップを洗剤等に浸し床を清掃する.こうすることできれいなモップで床を清掃することが可能となる.
(H14.3.31)