日本感染症学会

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施設内感染対策事業:平成14年度以前相談窓口(2003年3月公開分)Anser4

最終更新日:2003年3月31日

施設内感染対策相談窓口(2003年3月公開分)へ戻る

Q:ICU入室時のガウンテクニックについて(施設とICUガウンテクニックの現状)
■病床数539床(一般病床)の総合病院.ICUは6床.
  1. 医師:ICU専任医師以外の医師は,一般区域の白衣からICU入口前で専用ガウンに着替え,専用帽子を着用し,専用スリッパに履き替える.
  2. 看護婦:
    (ICU勤務者)専用ユニフォーム(長袖),専用帽子,専用シューズを着用.
    (他看護婦)ICU入口前で白衣の上から専用ユニフォーム(長袖),専用帽子を着用し,専用スリッパに履き替える.
  3. 面会者:ICU入口前で平服の上に専用ガウン,専用帽子を着用し,専用スリッパに履き替える.
  4. 掃除婦:ICU入口前で作業衣の上に専用ユニフォーム(長袖),専用帽子を着用し,専用スリッパに履き替える.
  5. その他:ICU入口前で専用ガウンに着替え,専用帽子を着用し,専用スリッパに履き替える.

※1:いずれもマスクは非着用.専用スリッパに履き替えるため粘着マットは廃止.
※2:医師,面会者およびその他が着用する専用ガウン,専用帽子は共有で,週1回洗濯している.
※3:ICU入室前は必ずウエルパスで手洗いを行なう.

  1. 面会者の帽子着用は必要でしょうか?
  2. ICUガウンテクニックについて
    当院のガウンテクニックは前述のとおりですが,厚生労働省が定める具体的なガイドラインなどはあるのでしょうか?また,欧米ではガウンテクニックそのものが不要という考えが常識とされているようですが,ガウンテクニックについて貴会ではどのようにお考えでしょうか?

A:ICU入室時のガウンテクニックについて
 院内感染を予防する上では,どのような病原微生物を対象とするかによって対応は異なる.空気感染を起こす結核,水痘などを対象とする場合は「隔離」が必要となる.ご質問は,ICUにおける院内感染対策とのことですので,MRSA,緑膿菌をはじめとする一般的な病原細菌の対応として以下述べる.これらの細菌の感染経路は接触感染が主であるが,MRSAによる呼吸器感染では飛沫感染を起こすといわれている.痰に含まれる細菌は空中に飛散され,約1m程度飛んで落下する.落下した後は,医療従事者の手指を主な感染媒体として他の患者は感染するとされている.これを飛沫感染と言う(以上は,「病院における隔離予防策のためのCDCガイドライン」に示されており,翻訳はメディカ出版(大阪)から出版されている).このような理由から,気道分泌物からMRSAが検出された患者で,気管内挿管や気管切開を行っている患者では,気道吸引時には飛沫感染の恐れがある.よって,このような患者さんは個室で管理する(「隔離」ではありません)ことが望まれる.そして,このような患者さんの気道を吸引する場合にのみ医療従事者がマスク,ガウン,手袋を着用する必要がある.しかし,このような患者さんでも,ベッドの周囲に行く場合や,検温のみの場合には手袋やガウン,マスク,帽子,手袋は必ずしも必要ではない.また床に落ちた細菌から患者が感染する可能性は極めて少ないとい言える.ただし,この大前提として,一般清掃はきちんと行われていることが挙げられる.

  1. 面会者の帽子,ガウン,マスク,はいずれも必要はない.入室前後で十分に手を洗っていただくことで対応が可能.また,履き物を換える必要もないが,その分,靴の汚れを十分に除去するか,または清掃の回数を増やすなどの工夫は必要.人件費の関係から,スリッパに履き替えた方が安上がりかもしれない.病院の状況でどちらでも宜しいと考える(院内感染対策の上では差はない).
  2. 基本的には必要ないと考える.前述のように,気管切開や気管内挿管を行っている患者で,特に,気道分泌物が多い患者さんでは,気道吸引時にはガウン,マスク,帽子を着用する必要がある.広範な感染創を持つ患者さんの包帯交換や局所洗浄の場合には,必ず,マスク,ガウン,帽子,手袋を着用すべきと考える.

 以上のような院内感染対策の具体的なガイドラインは日本感染症学会でも,わが国はもちろん欧米でもそこまで詳しいものはないと考える

(H14.3.31)

Q:侵襲的処置前の手洗いにおける消毒液「導管システム」の消毒・滅菌について
 この度,管轄の保健所から医療監視を受け,病棟手洗い場における指導を受けました.これを機会に全院を点検したところ,次のような問題点が分り,ご相談申し上げます.なお標記の「導管システム」とは,足踏み式で消毒液を供給するための消毒液内に挿入する導管からノズルまでを指すものとします.
 当院は病棟を新築・移転して13年となります.手術室においては手洗い台に消毒液専用の瓶を含む「導管システム」が備え付けられており,部品交換は困難な状況にあります.これに付属する消毒液容器は過去より,消毒液の注ぎ足しの問題に対処するため,1週間ごとにEOG滅菌していました.しかしこの容器からノズルまでの部分は目詰まりしない限り最大限13年間そのままの状態です.このノズルには不本意に外科医の肘等があたることも時にありました.
 一方,血管造影室には商品名ヒビスクラブ専用の「導管システム」があり,これでは消毒液本体を直接ディスペンサーへ装着しますが,「導管システム」は簡単には滅菌できません.
  1. 手術室に備え付けの「導管システム」および消毒液瓶を使用し続ける場合,どのような間隔でどのような消毒・滅菌が必要でしょうか?
  2. 商品名ヒビスクラブや手術用イソジン液の各々にディスペンサーが販売されていますがこれらを使用する場合,どのような間隔でどのような消毒・滅菌が必要でしょうか?

A:手洗いに用いる消毒液の「導管システム」の消毒・滅菌についてのご質問であるが,この件に関するエビデンスはなく,この方面の関係者に相談し,回答者なりに考えた結論を述べさせて戴きます.エビデンスが無いので,回答者の独断が入っていることをお断り致しておきます.

  1. 手術時手洗いの際の消毒剤足踏み式の供給システムでは,消毒液が導管を通り射出されるが,導管の先端には消毒液の溜まりができ,時には,手洗い者の肘などが接触する.この導管の消毒や滅菌は不可能かまたは大変手間のいる作業になる.このようなシステムは国内のほとんどの病院で採用されており,普通に用いられている.導管内は消毒液が射出され,目詰まりが起きない限り消毒や滅菌の必要性は少ない.消毒液が常に勢いよく通過するので,細菌の増殖を起こすチャンスは少ない.また,導管先端の消毒液の溜まりもバイオフィルム等が形成されることは考えにくいと思います.事実,私が調べた限り,このような導管システムに基づく感染事故の報告はない.消毒液の入る容器も備え付けで,消毒液を継ぎ足しで使用されているようであるが,この点については,可能な限り消毒液は容器毎交換可能なシステムにされた方がよい.もし,消毒容器の汚染があった場合,交換が困難であるし,汚染の点検も不可能かと思われる.消毒液は使い捨てが原則である.
  2. 市販のディスペンサーを使用される場合も,上記の理由から,定期的な消毒・滅菌の必要性は極めて低い.この方が容器毎交換が可能なので,市販のものを使用される方をお勧めする.
(H14.3.31)

Q:「膀胱洗浄をすることにより,菌を押し込む事になる.」あるいは,「膀胱洗浄をすることで,感染を引き起こす可能性がある.」と言う根拠やデータベースとなっているものがあったら教えてください.

A:短期間,尿路留置カテーテルを管理する上で最も重要な点は,閉鎖式持続導尿法を採用することである.清潔下で挿入した尿路留置カテーテルは,閉鎖式導尿法の採用により7日以内の尿路感染の発生頻度を20~40%に抑えられますが,開放式持続導尿法では,3日以内に80%以上の症例に感染が発生するといわれている.すなわち,膀胱洗浄などにより,閉鎖されている持続回路を開放することで尿路感染の頻度が高くなることが証明されており,クローズの状態を保つことが重要である.
 ただし,カテーテルの留置が長期に渡る場合はどんなに注意をしても尿路感染の発生を防ぐことはできない.その場合,膀胱洗浄をくり返すことにより緑膿菌などの薬剤耐性菌が増加する頻度が高くなるし,さらに漫然とした抗菌薬の投与により不必要な菌交代をもたらす可能性もある.
 不必要な膀胱洗浄および抗菌薬の投与は院内感染の防止のためにも行うべきではない.長期のカテーテル留置患者において膀胱洗浄が適応となるのは,極めて尿の混濁が強くカテーテルがつまってしまう場合や,凝血塊による閉塞が見られる場合に限る.

[参考文献・資料]

  1. 「院内感染対策マニュアル」改訂第2版,(院内感染研究会,編集代表:蟻田功),p100~106,南江堂,1993年.
(H14.3.31)

Q:
  1. 結核菌を喀痰中に排菌している患者の全身麻酔下の緊急手術の場合,麻酔器,人工呼吸器,手術室などの消毒,感染対策はどのようにしたら良いでしょうか?
  2. 非定型抗酸菌症の場合(例えばMAC)はどうでしょうか?
    できれば具体的なフィルター名や消毒方法を教えて下さい.

A:

1.
 1)麻酔器,人工呼吸器について

  • 吸気側,呼気側の両方にバクテリアフィルターをつける.バクテリアフィルターの種類はその麻酔器ないし人工呼吸器の取扱業者に確認する(ドレーゲル社:日本光電,ダーテックス社:福田電子,ベネット840や7200などベネットシリーズ:マリンクロット社).
  • 麻酔器の回路はできればディスポーサブルの回路を使う.できなければ術後回路を0.5%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン(エルエージー,テゴ51など)などで薬液消毒する.但し耐性菌症では必ずディスポーサブルの回路を使う.呼気ガスサンプリングチューブは使用後廃棄する.人工呼吸器回路についてはガス滅菌する.
  • 術者,麻酔医,ナース,その他手術に立ち会う人はN95マスクを装着する.
  • 手術に使った器具は水洗洗浄し,0.5%塩酸アルキルジアミノエチルグリシンで薬液消毒する.
※結核患者使用物品の消毒:
0.5%塩酸アルキルジアミノエチルグリシンを用いる(30分間浸水).
作り方(例):水7Lに10%エルエージーを350ml加える

 2)手術室の消毒,感染対策

  • へパフィルターを用いて空調を行う.洗浄度はクラス1万とする1)(一般の手術室と同じ).
  • 感染性手術室は前室に対して陰圧とする.空調は全排気とし,単独系統とする1)
  • 床は0.5%塩酸アルキルジアミノエチルグリシンで拭く.

2.非定型抗酸菌症(例えばMAC)について
 感染症ではあるが人には伝染しない.しかしバクテリアフィルター,手術室の換気については結核に準じてもよい.感染性病室は必ずしも使わなくて良い.N95マスクは不要.
 結核に対する構造設備,環境面での対策のポイントは下記の如くである2)
 ・感染性結核患者の収容区域の空気が他の区域に流出しないこと
 ・換気は十分に(7~12回/時間)
 ・気管支鏡検査,採痰など行う部屋も空気の流出に注意が必要
 ・紫外線照射装置は基本的には有効だが補助的手段である

[参考文献・資料]

  1. 日本手術看護学会編:手術看護基準.メデイカ出版.1998
  2. 厚生省新興再興感染症研究事業積極的結核疫学調査研究班:結核院内(施設内)感染予防の手引き.平成11年10月
  3. 古橋正吉:滅菌・消毒マニュアル日本医事新報社.1999

結核菌に有効とされる消毒液を示す3).臭気,組織毒性などを考慮して選択する.
 ・アルコール類(エタノール,イソプロパノール)
 ・アルデヒド類(ホルムアルデヒド,グルタルアルデヒド)
 ・フェノール類(フェノール,クレゾール石鹸)
 ・ヨウ素とその化合物(ヨードチンキ,ポピオンヨード)
※両性界面活性剤である塩酸アルキルジアミノエチルグリシン(テゴー51など)は,結核菌の場合は,一般細菌ないし感染症のない場合(0.2%)より高濃度の0.5%で使用される.次亜塩素酸ナトリウムは効果が劣るとされている.クロルヘキシジン(ヒビテングルコネート液など),逆性石鹸液,ヘキサクロロフェンは結核菌には無効とされている.

(H14.3.31)

Q:当院では,手術前の感染症検査として,Wa-R,HBV,HCV,HIV等を行なっておりますが,その有効期限は3ヶ月としています.施設によっては6ヶ月としている所もあるようですが,感染症学会統一見解がありましたら,お教え下さい.

A:手術前の感染症検査の有効期限については感染症学会を含めて,我が国では統一見解は存在しない.ご存知のように,HIVに感染した場合には,感染後,数日前から血液媒介感染の源となりますので,有効期限を明記することは不可能なためである.
 ちなみに,米国では,術前検査として,これらの感染症を検査することはなく,「全ての患者の血液,体液は潜在的に感染力を有するものである」と言う考えから,手術時には術者は二枚手袋を着用し,日常診療における針刺し事故を予防するガイドライン(針刺し事故防止のCDCガイドライン:翻訳:メディカ出版,大阪)を定めている.これはコスト的にも,全ての観血的治療を行う患者にこれらの検査を行うよりも,針刺し事故を起こした場合にのみ検査することの方が有意であるという考えに基づいたものと考える.
 ただし,日本では,全く検査をしないと言うことは未だ一般的には受け入れられていないため,万一,訴訟になると法律的な解釈が問題となる危険性がある.
 折衷案として,3ヵ月,6ヵ月を有効期限と定め,なおかつ,全ての患者を感染症として扱うつもりで診療を続けている施設が多い.いずれにせよ,我が国でも,今後の課題として,術前感染症検査の結果に関わらず,「血液,すべての体液,汗を除く分泌液,排泄物(目に見える血液を含むか否かに関わらず)損傷のある皮膚・粘膜に接する場合には手袋を着用する」=BIS(Body Substance Isolation)を取り入れる必要があると考える.
 なお,CDCによるガイドラインは,前記の他,「医療従事者の感染対策のためのCDCガイドライン」,「病院における隔離予防策のための最新CDCガイドライン」,などが翻訳・出版(いずれもメディカ出版)されているのでご参照戴きたい.

(H14.3.31)

Q:
  1. 針刺しインシデントなどによる肝炎ウイルス暴露後の肝機能の検査項目として,具体的には何が必要か?また”肝機能検査を半年後まで毎月及び9ヶ月後,12ヶ月後に検査”とマニュアル本によく書かれているが,半年後まで毎月検査をした方がよいのか?その根拠は?また,最終いつまで追跡した方がよいのか?その根拠は?
  2. 当院では,職員健康診断(特に感染症)としてHBs抗原・抗体価,HCV抗体,MRSA鼻腔検査,ツベルクリン検査を実施しておりますが,毎年実施しなければいけない根拠は?他にすべき検査は?
  3. 当院では,全患者の清拭後のタオルやMRSA患者の衣類・リネン類をホルムアルデヒドにて消毒している.ホルムアルデヒドは毒性があるため他の消毒方法に変更したいが,良い方法は何か?またホルムアルデヒドの毒性・廃棄方法は?

A:
1.肝炎ウイルス暴露事故後の肝機能検査項目について
 HBVおよびHCVは,肝細胞中で増殖するので肝障害を把握する検査項目としてはALTが最も適した検査である.しかしながら,HCVでは感染初期にALTが異常値を示さないケースもあるので,並行してHBs抗体およびHCV抗体を測定するか可能でしたらPCRにてHBV-DNAを測定する必要がある.

2.血清検査と肝機能検査の実施回数と間隔について
 表1に米国CDCのガイドラインを示す.ただし,このガイドラインは,米国の感染事情を反映しているものであり,日本ではこのままガイドラインとしては不十分である.

表1.追跡調査管理(針刺しインシデント後の検査間隔):CDCガイドライン

○:抗原・抗体またはPCRを実施●:実施×:不要
  暴露時 6週間後 3ヶ月後 6ヶ月後 12ヶ月後
HBV(B型肝炎)    
肝機能検査    
HCV(C型肝炎)      
肝機能検査      
HIV
肝機能検査 × × × × ×
ATLA  
肝機能検査   × × × ×

(1)CDCガイドラインが不十分な理由

  1. HBVおよびHCVについては,日米で感染しているタイプ(ジェノタイプ)と米国におけるタイプに差があり,感染力,治療効果に差が見られる.例えば米国におけるHCVは1aタイプのジェノタイプが多くインターフェロン療法によく反応する.一方,日本に多く見られるのは,1bタイプでインターフェロン治療に比較的抵抗する.このため,より早期に感染を知るためのモニタリングは表2のように実施すべきと考えられる.
  2. ATLAに関しては,米国ではほとんど感染者がいないので比較的軽視されています.一方,日本や東南アジアでは感染者が多数存在するので曝露時に事故者本人が陰性であることを証明するための検査が必要です.

(2)追跡の期間について

HBVの潜伏期間は30日~180日,HCVは15~150日と考えられている.このため曝露後,6ヵ月目を最終検査とする.(可能な限り感度の高いPCR法にて最終検査を実施することをお奨めします)一方,HIVとATLAは事故後の潜伏期間が長く個人差があるために最終検査が1年とされている.

以上の事項を考慮してCDCのガイドラインを改変しますと表2のようになる.

表2.追跡調査管理(針刺し事故後の検査間隔):日本用

○:抗原・抗体またはPCRを実施●:実施×:不要
  暴露時 6週間後 3ヶ月後 6ヶ月後 12ヶ月後
HBV(B型肝炎)  
肝機能検査  
HCV(C型肝炎)  
肝機能検査  
HIV
肝機能検査 × × × × ×
ATLA
肝機能検査 × × × × ×

3.職員健康診断にて毎年実施すべき検査について

(1)毎年すべき検査:HBs抗原・抗体検査,HCV抗体検査
 理由:HBVについては,ワクチン接種後も抗体価が漸減するので毎年のモニタリングが必要です.特に抗体価が10IU/ml以下となった場合には,再度ワクチンを1回のみ接種した方がよいと思われる.ただし,CDCのガイドラインでは,このような場合でも再ワクチンは不要とされてるが,大量曝露時の中和抗体量の不足および低抗体価時の発症のリスクを考慮しますと再度もう1回,ワクチン接種をすべきと考える.尚,今後のデータの集積によっては不要となるかもしれない.また,HCVについては,本人が針刺しの記憶が無くともエアロゾル等で被曝している可能性があるために定期的な確認検査が必要である.

(2)定期検査が不要な検査:MRSA鼻腔検査
 理由:1度の検査で陰性と判断されても,数日後には陽性となっているスタッフがいるということと,陽性スタッフの扱いに差別が生じるということを考慮すると不要である.「スタッフ全員が保菌している」と考え,手洗い等のスタンダードプリコーションを徹底することが最も効果的な予防対策と考える.
尚,アウトブレイクが継続している診療科においては,保菌検査前に対応策(配置転換,検査回数,検索部位,除菌の実施,費用の公費負担等)を十分に考慮した上で実施することは意味がある.

(3)定期検査の必要性が不明な検査:ツベルクリン検査
 理由:新人職員に対する2段階ツ反の結果は,アウトブレイク時に有効な指標となるが,この2段階ツ反を同一人に毎年実施すべきか否かについては結論が出ていない.この件については,厚生労働省が研究班を組織し検討中ですので間もなく結論が公表されるものと思います.ポイントは,一度感作されたリンパ球(Th1細胞)がどのくらいの期間,結核菌に対する一定の反応性を保持できるかです.

(4)他に検査すべき検査:麻疹,風疹,水痘,ムンプスの抗体価測定とワクチン接種
 理由:これらのウイルス感染症は,医療スタッフから患者さんへ伝播させてはならない感染症である.また,僅かな努力で防げる感染症でもある.特に新人職員の予防接種率・既感染率が低いので対応し防止すべきと考える.

4.リネン類の消毒について

(1)血液,体液等の付着していないリネン類の消毒
 通常の洗濯後に十分に乾燥させるか,またはドライクリーニングで十分である.

(2)感染性のあるリネン類の消毒
 「消毒と滅菌のガイドライン」では,感染性のあるリネンは水溶性ランドリーバッグもしくはビニール袋に入れ感染性を明記して洗濯施設に運搬することとし,感染性のあるリネンの洗濯・消毒方法として,

  1. 80℃の熱水で10分間以上の洗濯処理を行う.
  2. 次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系消毒薬を加えて洗濯を行う方法
    B型肝炎ウイルスなどの汚染が考えられるリネンは,1,000ppm(0.1%)次亜塩素酸ナトリウム液に30分間浸漬する.その他の場合には200ppm(0.02%)に5分以上浸漬する.
  3. その他の消毒薬を加える方法
    塩素系消毒薬の漂白効果により影響を受けるリネンは,0.1%塩化ベンザルコニウム液,0.1%塩化ベンゼトニウム液または0.1%塩酸アルキルジアミノエチルグリシン液に30分間浸漬する
  4. すすぎの段階で次亜塩素酸ナトリウムを使用する方法
    100~200ppm(0.01~0.02%)次亜塩素酸ナトリウム液のすすぎ水に5分間浸漬する.

[参考文献・資料]
小林寛伊,大久保憲,尾家重治:消毒・滅菌法-基礎と実際.厚生省保健医療局結核感染症課監修,小林寛伊編集,消毒と滅菌のガイドライン,第1版.へるす出版,8-35,東京,1999

(3)ホルムアルデヒドの廃棄方法
 酸化法

  1. 多量の水を加えて希釈した後,次亜塩素酸ナトリウムを加えて分解した後に廃棄する.
  2. 水酸化ナトリウム水溶液にてアルカリ性とし,過酸化水素水を加えて分解させ多量の水で希釈して廃棄する.

※追記:ホルムアルデヒドの使用について

 ホルムアルデヒドを用いたリネン類の消毒は推奨できない.
 理由は下記の通りである.

(1)米国におけるホルムアルデヒドの扱いについて

  1. 米国においては,病院施設内の病室,設備,器具類およびリネン類に対してホルマリン消毒(液状)は行われていない.また,皮膚・粘膜刺激及び引火性の問題もありホルムアルデヒドガスの薫蒸も行われていない.
  2. 米国疾病管理センター(CDC)から出版されている各種の感染防止対策マニュアルには,ホルムアルデヒドを用いた消毒法は記載されていない.
  3. 以前から言われている動物実験に基づいたホルムアルデヒドの発癌性に関しては,各種の異論が唱えられている.特にヒトに関するデータからは,「ホルムアルデヒドは,強い発癌性は持たないが鼻部,鼻咽頭部の腫瘍形成のみに関与する」と考えられている.
  4. 現在,米国における労働者のホルムアルデヒドガスへの曝露制限は,8時間労働において1ppm以下,15分の短時間曝露では2ppm以下という基準がOSHA(Occupational Safety&Health Administration)によって設けられています.この他,予防衣や排気ダクトなどの設備基準も設けられている.

(2)日本における状況
 日本においては,ホルムアルデヒドの使用に関しては法的な設備基準や制限もないため経験的に行われているが,厚生省は1999年4月に感染症学会を通じて「ホルムアルデヒドの使用は適当ではない」という見解を述べている.ただし,この見解はホルマリンの使用を制限するものではない.

(3)日本におけるホルマリン消毒の使用中止の可能性について
 本件について2001年,6月1日に厚生省医薬局・安全対策課に問いあわせた結果,「現在のところホルマリンの使用を中止させる考えはない.ただし,使用は適当ではない」・・という返答であった.

 世界の動向をみても使用を制限する方向に向いているのかは確かで,今後,ヒトの発癌性に関する証拠と動物実験による証拠が整理され次第,厳重な曝露制限等び条件が設定されていくと思われる.

(H14.3.31)

Q:現在針刺し事故後のマニュアルを作成中です.
  1. 針刺し事故が発生した場合の患者の血液検査をどこまで行うのかご教示下さい.HBsAg,HCVAb,HIV抗体,HIV-PCR,HTLV-l抗体をルーチンに調べるべきでしょうか?
  2. 患者不明の場合の針刺し事故について受傷スタッフの血液検査についてどこまで進めるベきでしょうか?
    受傷第1日目のBack groundの検査,以後6ヶ月のfollow upすべき検査等

A:

  1. 針刺し事故発生時に患者の血液検査をどこまで行うべきか
     回答者の施設における対応法を以下ご紹介する.入院患者についてはHBs抗原,TPHAは保険で認められている範囲でもあり,日常的に検査しているが,外来患者には保険適応がなく検査していない.ですから外来患者がらみの針刺し事故が起こるとあらためて検査をさせて頂くか,患者が帰宅した後などでは可能性のある全ての病原体に対応する,ということを余儀なくされる.C型肝炎については入院患者でも慢性肝炎,肝機能障害などがなければ保険適応外であり,日常的な検査はしていない.ただ,C型肝炎については,事故があれば患者の同意なしに至急検査ができる体制をとっている.
     HIVについては厚生労働省が「本人の同意なく検査してはならない」,としており,回答者の所属施設では針刺し事故があっても患者の同意が得られなければ検査していない.なお,回答者の所属施設では100人を超すHIV感染者を管理しているが,HIV絡みの針刺し事故は起こっていない.同様に,HTLV(成人型T細胞性白血病ウイルス)についても患者に無断で検査をしても治療法がないこと,陽性の場合に告知をするのかしないのか,が難しいことから,回答者の所属施設ではHIVと同様に前もって患者に十分に説明しない限りは検査をしていない.法に許された範囲で日常的にできる検査体制としてはこの程度ではないかと考えられる.
  2. 針刺し事故で,事故の原因になった患者さんが不明な場合の,受傷職員の血液検査をどこまで行うか
     流しに落ちていた針や床に落ちていた針が刺さる事故,廃棄缶を整理していて針が刺さる事故などが案外多く,このような場合その大部分がどの患者に使った針なのかが不明だというのはよく経験する.こんな場合,針がどこにあったか,その場所に放置されてからどの程度の時間が経過していそうか,などによって感染の危険度が異なると思われます(梅毒スピロヘータは乾燥に極めて弱いので何時間か後に起こった事故なら少なくとも梅毒に関する限り感染の危険性は考える必要はない).しかし,実際問題としてこの経過時間は不明なことが多い.時間が推定できる場合にはそれに応じて対応するが,不明な場合には可能性のある病原体を想定して対応するしかない.例えばある病棟で廃棄缶からはみ出していた針の整理をしていて誰のものか不明な針で職員が怪我をした場合について考えてみると,その廃棄缶を空にしたのはいつか(換言すると,その廃棄缶の使用開始はいつか),その期間に当該病棟にはどのような感染症を持った患者が入院していたか,などを緊急調査し,梅毒患者が一人もいないのであれば,梅毒に対する対応は不要だということになる.回答者の施設ではこのようにして想定される個々の病原体に対応しているが,結局B型肝炎,C型肝炎が中心ということになる.なお職員のfollow up期間であるが,B型,C型肝炎は1年間,梅毒は3カ月まで追跡している.ただ,これが適切な期間なのか,と言われると自信はない.6カ月で終わりという施設が多いかもしれない(追跡検査はB型肝炎で事故当日,1カ月後,2カ月後,3カ月後,6カ月後,1年後で,検査項目はAST,ALT,HBs抗原です).C型肝炎についても同様である.詳細は一般的な院内感染対策の教科書をご覧戴きたい.
(H14.3.31)

Q:インフルエンザワクチンについて,昨年,「ワクチン接種は1回で良い」という情報が流れましたが,地区内の医療機関の対応は様々で,当院は外来患者に対し2回接種を実施した.
 1.12歳以下は,今まで通り2回とすればよいのかどうか?
 2.今年度からは,13歳以上の接種は1回でよいのかどうか?

A:
1.12歳以下について
 ワクチンの2回接種を行っているのは先進国では日本だけであり,諸外国では既に1970年代から1回接種に切り替わっている.ただし,米国のように9歳までは2回接種をすすめる,という国がほとんどである.9歳くらいまでは過去に一度もインフルエンザに罹患したことのない個体がかなり含まれていて1回接種だけでは(集団として)十分に免疫抗体価が上昇しないので2回接種する,というのがその理由である.日本に関しては,厚生省が示したように,12歳以下は今まで通り2回接種,というのが現実的であると考える.

2.13歳以上について
 実は,厚生省が「1回でよい」としたのは65歳以上についてであり,13~65歳については基準が明確になっていない.なぜ65歳以上,としたのかについてであるが,厚生省班研究の報告が65歳以上を対象として1回法と2回法との間に有意差がない,すなわち1回でも十分である,ことを実証したためである.残念ながら本邦では,13~65歳の集団に関する同様の成績がまだ得られていないために基準が不明確のままになっている.しかしながら,諸外国の例を見てもわかるように,この集団も1回接種で十分であると考える.回答者自身は,この年齢層の方には上記の内容を手短かにお話して1回接種を勧めており,大部分の方が御納得を頂いて1回接種にどんどん切り替わっている.ただ,中には「どうしても2回打ってほしい」とおっしゃる方が少数おられる.その際にはご本人の希望を尊重して2回接種としている.
 65歳以上の集団についての成績と同様の成績が,13~65歳の集団に関しても本邦で得られれば何も御説明せずに1回ということになるが,現実はまだ上記のようですので,やはり説明と同意は必要であると思われる.ただし,ワクチンの効果は100%ではないことも患者さんに充分にお話しておく必要がある.
 なお,米国のCDCが1997年に出した勧告では,ワクチン接種の適応は,ハイリスクグループとして65歳以上の高齢者,老人ホームまたは慢性疾患療養施設の居住者,慢性心疾患と慢性肺疾患(小児の気管支喘息を含む),前年度に入院したか定期的に通院中の慢性代謝性疾患(糖尿病を含む),腎不全,メトヘモグロビン血症,免疫低下(薬剤によるものも含む)患者,長期アスピリン服用中の6ヶ月~18歳の患児,インフルエンザ流行期が妊娠4ヶ月目以降に該当するもの,であり,また,ハイリスクグループにインフルエンザを感染させる可能性のあるものとして医療従事者,老人ホーム等の職員,ハイリスク患者の同居者・家族・ホームケア担当者を挙げている.同じころ日本の厚生省の新型インフルエンザ対策委員会が出した勧告もほぼ同様であるが,さらに,幼児と小学生を挙げると共に警察官や消防関係者,行政担当者,通信・交通・運輸関係者,電力・エネルギー関係者など社会生活を支える人たちを対象に加えており,妥当な勧告内容であると評価される.

(H14.3.31)

Q:クロイツフェルト・ヤコブ病の院内感染対策について,当院では定期的に感染対策マニュアルの見直しを行っています.今回,クロイツフェルト・ヤコブ病の感染対策について再度確認し,改訂をしたいと準備を始めました(→現在は標準予防策+血液・体液などに特に注意する対策をとっています).
 院内感染対策に関して最新の情報がありましたら教えて頂きたい.特に,医療従事者が感染事故(針刺しなど)を起こした場合,直後の対応とその後の定期フォロー等,具体的な対処方法や資料などがご教示下さい.

A:クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)病原体に対しては,原則としては標準予防策で充分だと考えられる.本病原体が中枢神経に存在するとされていますが,当院では次のような対処法をとっている.

  1. 脳波測定は針電極を使わず,糊による張りつけ方式とする.
  2. 角膜に直に接する眼圧測定も感染の恐れがあるのだそうで,非接触式の眼圧測定を行う(ただ,この方式は厳密には眼圧測定が不完全だそうですが).
  3. 脳脊髄液の採取に使用する腰椎穿刺針や圧棒その他の器具は全て使い捨てにする.
  4. 手術を受ける人は厚生労働省の指導では,
    (1)医師からCJDと言われた人
    (2)CJDの血縁者
    (3)人由来成長ホルモンの注射を受けた人
    (4)角膜移植を受けた人
    (5)硬膜移植を伴う脳外科などの手術を受けた人
    については申し出てもらう.

 針刺し事故については,CJDでは病原体が大量に存在するのは中枢神経系であって,それ以外の部位についてはあまり心配し過ぎるのはどうかと思うが,仮に調査の結果,本人またはその家族にCJD患者が見つかったとしても針刺し事故を起こした職員のプリオンに対する感染の危険度を下げる方法は現状では全くない.その後のフォローについても潜伏期間が10年以上,どうかすると数十年もある疾患のこととてフォローすること自体が困難である.変異型CJDの場合,病原体の分布領域が異なり感染対策を含め,具体的には今後の科学的な根拠をもった検討が望まれている.

[参考文献・資料]
http://www.cdc.gov/ncidod/hip/INFECT/Cjd.htm
http://www.cdc.gov/ncidod/eid/vol3no2/ricketts.htm

(H14.3.31)

Q:クロイツフェルトヤコブ病(疑い)患者に対する消化器内視鏡の取扱いについてご教示下さい

A:
1.CJDプリオンの不活化
 一般的にはCJDプリオンの不活化については下記の方法が推奨されています.

・121℃ 1-2時間  
・134℃ 18min  
・134℃ 3min 6サイクル
・1N NaOH 30-60min  
・2.5-5.25% NaOH30-60min  

(Favero et al. Chemical disinfection of medical and surgical material.
In: Block SS ed. Disinfection, sterilization, and preservation. 5thedn. Philadelphia Lippincott Williams & Wilkins 2001: 881-917)
 そして重要なことは上記の方法でも完全にプリオンを不活化することはできないという事実がある.すなわち,プリオンを完全に不活化するのは焼却以外にはない.

2.CJD患者(疑い)に対する消化器内視鏡の取り扱いについて
 上記1に述べたように,プリオンの完全な不活化は焼却以外にはありえない.
 現在,消化器内視鏡の消毒には高度消毒としてグルタラールが利用されているが,まずこの方法ではプリオンの不活化は不可能ということができる.英国ではハイリスク患者(硬膜移植患者はこのハイリスク患者に相当します)に内視鏡を使用する場合は完全な不活化が不可能であることから,すべてこれらの患者に専用とし,他の患者に使ってはならないとしている.また,ロンドンおよびエジンバラではこれらの患者専用の内視鏡が設定され,貸し出しされているといった状況です.このような状況を考えてみますと,先生がCJD疑い,それも硬膜移植患者といったハイリスク患者に対して内視鏡検査を実施される場合には,今後その内視鏡は他の一般患者には使用しないことを前提とされることが必要かと思われる.グルタラールの使用により,感染リスクは減るとは思われるが,エビデンスはないし,上記1の条件でも完全でないということから考えてみましてもやはり専用とする以外にはないと思われる.

[参考文献・資料]
http://www.cdc.gov/ncidod/hip/INFECT/Cjd.htm

(H14.3.31)
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