日本感染症学会

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施設内感染対策事業:平成14年度以前相談窓口(2003年3月公開分)Anser5

最終更新日:2003年3月31日

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Q:当院であいついで疥癬の患者さんが発生しICTに対して感染対策マニュアル策定の要請があり,以下の点について議論がありました.
  1. 患者は原則隔離にしています.現在隔離部屋の出口付近に殺虫剤を浸したタオルを敷いています.部屋の入口で履き替えも行っています.プラスチックエプロンではなくて上肢を覆う予防衣を着用し介護に当たっています.以上は,医薬ジャーナルVol.30,No.2,1994.新谷洋三先生(弘前大学薬剤部)に基づき担当ナースが自発的に行っているのですが『院内感染予防対策ハンドブック』国立大阪病院感染対策委員会編集,南江堂1998年では,必要ないと書かれています.家庭に疥癬を持ち帰りたくない家族に感染を拡大させたくない気持ちで厳重な対策を説いている文献を採用しているようですが,科学的根拠に基づけばどちらが合理的なのでしょうか?
  2. 治療法についても,DDT軟膏がWHO推奨で最もいいとか,γ-BHC軟膏が優れているとか文献によっていろいろです.当院では,比較的入手しやすく臭気のすくないピレスロイド系のスミスリン(フェノトリン)軟膏およびローションを調整し使用しようと考えていますがいかがでしょうか.妥当だとすればその実施の詳細をご教示ください.

A:疥癬に関するお尋ねですが,

1.患者の原則隔離が正しいかどうか
 疥癬虫は人体から離れるとすぐに死ぬ,と記載した書物がありますが,これは全く間違っており,顕微鏡下では可成りの間活発に動きます.つまり,患者介護に際して患者との接触の度合いが高い場合,例えば抱きかかえるような場合には疥癬虫が介護者に移る可能性は十分に考えられます.ですから予防着をつけることは意味があると思います.但し,治療を開始すると速やかに虫が弱り,容易には動けなくなるとされておりますので,治療開始後3日もすればさほど予防着にこだわる必要はなくなるのと思われます.

2.治療法に関して
 DDTやγBHCなどは昨今環境ホルモンだとして問題になっている薬物ですが,老人に対しての使用,殊に疥癬症治療のための短期間ならあまり問題にする必要はないのではないかと考えております.お尋ねのピレスロイド系のスミスリンパウダ-(フェノトリン)については販売元の住友ヘルスケアから人体に対して安全性が認められている,との回答を得ております.なお,海外では経口薬イベルメクチン(ivermectin,本来糞線虫症などの寄生虫症の治療剤)6mgを1回服用させるだけで本症を治癒させ得るという報告が出ておりますが,わが国では残念ながらまだ厚生労働省から適応とはされておりません.

(H14.3.31)
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