日本感染症学会

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日本感染症学会緊急提言「一般医療機関における新型インフルエンザへの対応について」のご意見・ご質問(Q&A)

最終更新日:2010年7月22日

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提言についてのご意見・ご質問はこちらへお送り下さい。
※ご意見・ご質問をお送りいただく際には、氏名・所属をご明記下さい。
なお、いただきましたご意見・ご質問については以下のQ&Aに掲載させていただく場合もございます。ご了承下さい。

質問をクリックすると回答が表示されます。

※回答は新型インフルエンザ対策委員会からとなります。

 

A12
新型インフルエンザ対策委員会へご質問をお寄せ頂き、誠にありがとうございます。先生が引用された「コクラン・レビュー~~」はBMJ掲載論文(Jefferson T, et al: BMJ 2009, Dec 8; 339: b5106)の見解ですが、これは、最近の多くの論文を検証して、ノイラミニダーゼ阻害薬はインフルエンザ感染時に肺炎などの合併症を有意に予防しない、という結論を出したものです。しかし、これは従来の季節性インフルエンザに関する見解であり、パンデミックインフルエンザウイルスH1N12009(新型インフルエンザ)に対する見解ではありません。日本感染症学会新型インフルエンザ対策委員会の提言は、特にパンデミックインフルエンザウイルスH1N12009(新型インフルエンザ)に関してのものですから、BMJ論文の見解に矛盾するものではありません。そして、パンデミックインフルエンザの感染制御や重症化防止のために、ノイラミニダーゼ阻害薬の早期投与を勧める論文が既に海外医学雑誌に掲載されております(N Engl J Med. 2010 Jun 10;362:2221-3・JAMA. 2009 Nov 4;302:1896-902)。もちろん我々も、先生が求めておられる検証の重要性は理解しており、何らかの形で日本の成績を追求すべきであると思っております。
(なお、この回答は平成22年7月22日に改訂したものです。改訂前の回答のなかに、Chris Del Mar先生のご発言として不適切な引用があったことを深くお詫びし、削除させて頂きます。)


A11
ご意見ありがとうございます。医療従事者が呼吸器感染症患者を診察する際、個人防護具としてマスクの着用は、飛沫の曝露を防止し、感染対策としての効用は確立していると思います。実際、10月末時点で500万人以上の新型インフルエンザ罹患患者が推定されるなかで、SARS(重症呼吸器症候群)と異なり、医療従事者の院内感染事例などの報告例が少ないないことは、現在の標準予防策、飛沫感染対策を中心とした医療関連感染対策は有効である証左と思います。
各種提言における一般の方のマスク着用については様々な意見があります。その背景としては、更なる科学的な有効性の検証が求められていることに加えて、マスクが入手可能か、コンプライアンスが保たれるか、生活の質とのバランスはどうか、歴史的・文化的にマスクが好まれるか、対象とする国や地域における現状と提言の影響などを考慮する必要があるからと思います。
ご指摘のように、医療機関が行う感染対策を一般化し、たとえば、手指衛生、咳エチケット、ワクチン接種の遵守率向上、発症した際に学校や職場に行かないことについて啓発することは重要な取り組みと思います。また、家族が新型インフルエンザに罹患した際、介護者が自宅でマスクを着用することは感染リスクを減らす一定の効果は期待できるかもしれません。
ただ、家庭でのリソースは病院とは異なること、隔離を徹底した際の生活の質の低下も懸念されることから、リスクと効果について検証していくとともに、コミュニケーションをはかっていくことも今後必要かと思います。


A10
ご質問をありがとうございます。
現在の第一波の被害が、十分な免疫能を有する比率の低い若年層に集中して起こっていることは学会の「提言」が予見したところですが、このような構図は基本的に第二波においても再現されると思われます。しかしながら、第二波が実際にどのような形で起こるのかを予測するのは極めて困難です。それは、過去に人類が経験した新型インフルエンザであるスペインかぜやアジアかぜ、香港かぜの経験をストレートに引用することが難しいからです。たとえば、インフルエンザがウイルス感染症であることが判明する前、かつ二次感染で最も被害の大きな細菌性肺炎に対する治療薬である抗生物質が実用化される前のスペインかぜと、それらが分かって使えるようになってからのアジアかぜや香港かぜとの間では被害の大きさは全く異なります。日本の死亡者数はスペインかぜでは48万人、アジアかぜや香港かぜでは4~7万人と言われています。今回の新型インフルエンザは、さらにワクチンの広範な使用と共に、迅速診断キットとタミフル・リレンザ等の抗インフルエンザ薬が実用化された後になってから出現しているため、状況はさらに異なっていて予測は一層困難です。ただし、現在の状況をみると、これらの武器を有効に使っているわが国とそうではない他の諸国の間で流行の広がり方やその規模が大きく異なっていることは注目すべきことであり、予測の際に参考とすべきです。また、こうした相違は同じ国の中でも被害の大小として現れています。すなわち米国では、対応がかなり確実だったカリフォルニアの被害が小さく(提言第2版の文献12)、他方、日本の神戸や大阪と同時期に流行が発生したニューヨークではその後の広がり方がカリフォルニアはもちろんのこと、神戸・大阪とも全く異なりました。ニューヨークでの流行はすぐに大きく拡大して1ヵ月半の間に909名が入院して45名が死亡する第一波となってしまったのです(提言第2版の文献13)。ニューヨークと全く同じ時期に流行の起こった神戸・大阪ではこれとは異なり、以後の流行が若干下火となり、秋口まではくすぶり状態で前駆波としての状態が続きましたし、被害は極めて少数です。「提言第2版」でも述べましたが、わが国では早期から抗インフルエンザ薬が効果的に使われてきたからと考えます。
しかし、わが国でも既に累計で百万人以上が感染・発症すると共に、被害の中心である若年層からの死亡者の発生と共に、感染・発症数が少ないはずの中高年層から死亡者の発生が見られています。国全体で発生数が増加すると、本来は基礎免疫を有していて発生数は少ないはずのこれらの年代層の中の弱い立場のもの、すなわち基礎疾患・合併症を有するものに被害が真っ先に集中するためであり、このことから、通常の季節性インフルエンザの流行の際に見られる現象が次第に増えてくることが予測されます。すなわち今後は(第二波では)、学童~生徒の若年層間での流行がさらに拡大すると共に中高年層からも一定の被害が出る形に推移していくと予測されます。これは「緊急提言」でも既に述べたことですが、今回の新型インフルエンザは2~3年かけて従来の季節性インフルエンザと同じような形(発生は若年層に多いが被害は高年層に多い)に変化していくものと考えられます。ただし、わが国では抗インフルエンザ薬が広汎に使われているため、流行の拡大速度や規模は他の国よりは小さく推移し、その分だけ流行の期間が長くなることも可能性の一つとして予測されます。いずれにしても、今後の疫学統計を注意深く見守る必要があります。


A9
ご質問をいただき、ありがとうございます。5月21日に当学会のホームページに掲載した前回の緊急提言では、過去の経験から明らかなように新型インフルエンザは出現すると2回、場合によっては3回の大流行を繰り返して通常の季節性インフルエンザの形に収斂していく旨を記載いたしました。以前に同じ型、あるいは極めて近い型のウイルスの感染を経験した高齢者を除けば人口の大多数を占める若年者には有効な免疫がほとんどないため、最初の2年あるいは3年は若年者を中心に大きな流行が起こり、やがて人口の多くが免疫を獲得して各年齢層における免疫保有率が同程度になってくると、被害の中心は相対的に感染防御能の弱い高齢者に移っていく、とも記載いたしました。すなわち、被害が高齢者に多いといういつもの季節性インフルエンザのような流行の状況とは異なって、新型インフルエンザが出現すると最初の2年、あるいは3年ほどは若年者に被害が大きく、その中で基礎疾患や合併症を有する若年者に被害が大きくなる、という意味合いで「出現当時と同じような」を挿入したものです。いつもと異なって若年者に被害が大きくなるのは、社会が受ける被害も「いつもと異なって重症である」と考えてよいと思います。


A8
貴重なコメントを賜り、ありがとうございます。新型ウイルスに対するワクチンに期待される有用性は先生の仰るとおりであり、学会としてもその接種を効果的に行えるよう働きかける所存です。なお、提言2を発表した前後に、NEJM誌に新型ウイルスに対するワクチンの接種に関して成人では1回接種で防御水準を超える抗体価が得られるという報告が掲載されていますが、これについても検討したいと思っております。ありがとうございました。


A7
感染症学会の新型インフルエンザ対策委員会では、致死率(case fatality rate)は、0.1~0.5%と考えています。致死率、0.1~0.2%でも、患者数がこれから増加し、例えば、日本で人口の25%、3200万人が罹患し、その0.1%が死亡とすれば、3万2千人の死亡者が出ます。通常は、2波ありますから、最低でも合計6万4千人となります。入院患者の20~30%と高率にICU careが必要になるのも、今回のS-OIVの特徴です。その死亡者の平均年齢は、季節性では80代ですが、今回のオーストラリアや米国での報告ですと、40代、50代が中心です。
しかも、最近のWHOの調査では、重症者の40%が、健康成人、健康小児とされています。40%以上の重症患者に既往症がないとすれば、どの患者が重症化するか予測できないこととなります。しかも最初の数日間は通常のインフルエンザで経過しても、5-6日目から急変するのがS-OIVの肺炎の特徴とされています。今回のS-OIVは、ノイラミニダーゼ阻害薬の治療なしに、自宅療養する疾患ではありません。必ず、治療が必要です。ですから、感染症学会では、重症化防止を目的に、全例、ノイラミニダーゼ阻害薬で治療する提言をしたのです。日本でoseltamivirを広く使用するのは医学的に正しいことです。
多くのインフルエンザの専門家は、H5N1がパンデミックを起こすとは考えていませんが、S-OIVの第2波は、来年、必ず来ると思います。それまでに、使用した分はまた備蓄をすれば問題ありません。メーカーの供給余力は十分と聞いています。

A6
入院医療費が包括払いの場合(DPC病院の場合や、療養型病床群の場合)や、そもそも健康保険適用外の施設(介護保険施設)の場合、タミフルのコストはどのようにすべきかという点につきまして、「効果的で迅速な配布・供給・放出」のためには公的なコスト負担が必要不可欠と考えます。


A5
日本感染症学会では、まず国内の議論を活性化し、国民の健康に役立つより有効な対策に寄与したいと考えております。日本感染症学会の国際化は非常に重要な命題と認識しておりますが、今のところ学会にはそのためのリソースが十分ではありません。学会員である先生方が、個人のグループあるいはグループ間の共同研究で、国際的なエビデンスを数多く出されることを期待します。


A4
日本感染症学会として主体的に提言していくよう努力いたします。


A3
H1N1亜型の新型インフルエンザウイルスが登場した以上、初期対応を取るのは国民に対する行政の責任だと思います。提言で申し上げているとおり、今回登場した新型インフルエンザウイルスの病原性は決して軽視するべきものではなく、この冬に向かって十分な対応が必要です。流行の程度は、微生物固有の病原性と人の集団が持つ免疫とのバランスの上に成り立ちます。新型インフルエンザが季節性の一亜型になるとしても、このウイルスが流行しやすい冬場を1、2回経た後でのことだと考えられます。インフルエンザという疾患の性質上、今回関西地域で経験されたように急速に流行が拡大します。限られた発熱外来で対応できるものではなく、重症度に応じたトリアージや治療、重症例への対応について地域ぐるみで考えることが重要だと考えます。


A2
現在は豚由来新型インフルエンザにノイラミニダーゼ阻害薬が有効なことは明らかです。しかし、重症度はまだ分かりません。米国の報告では、多くがハイリスクですが、新型インフルエンザ患者の9%近くが入院しています。また、今後、本格的に流行してきた場合は、ハイリスク以外の健康成人でも重症化する可能性が高いと思われます。最近の米国CDCの調査でも、小児と18歳から40歳までの年齢層は、抗体がほとんどないことが明らかにされました。本当に軽症であれば、ノイラミニダーゼ阻害薬の不要なケースもあるかも知れません。しかし、現時点では、新型インフルエンザの重症度が十分に分からないことや、気道のウイルス量を減らす効果もあるので、豚由来新型インフルエンザ患者には、ノイラミニダーゼ阻害薬による治療が適切と考えます。


A1
「提言」は、感染症専門家集団としての日本感染症学会新型インフルエンザ対策WGの基本的な考え方を示したものです。流行は第一波(あるいは前駆波)が始まったばかりであり、まだまだ情報不足の部分もございます。今後学会として効果的な予防や診療上のガイドラインの策定を目指しながら、学会員の現場から信頼できる案が発信された場合には、学会を通じて紹介することも平行して行っていきたいと思います。


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