日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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アフリカ紅斑熱(African tick-bite fever)

病原体

Rickettsia africae

感染経路

節足動物媒介性リケッチア症のひとつで、キララマダニ(Amblyomma)属により媒介される。ヒトへはダニの刺咬により感染する。キララマダニ属は、主にウシ、イノシシ、シカなどの有蹄類に寄生しており、草原地帯で感染しやすい。

流行地域

サハラ以南アフリカ、東カリブ海、レユニオン島で流行がみられる

発生頻度

微生物学的に確定された症例は、1983年から2003年までに171例が報告されている。このほかに、後方視的にアフリカ紅斑熱と考えられる78例の症例報告がある。サハラ以南アフリカへの渡航者のうち4%に本症を発症したとの報告もあり、診断されずに見逃されている可能性もある。日本国内では、感染症法上の届出疾患ではないため、正確な統計はなく、これまでに数例しか報告されていない。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は5-7日間で、長くても10日以内である。突然のインフルエンザ様症状(発熱、嘔気、倦怠感、頭痛、筋肉痛)で発症する。54%までの患者で刺し口が多発し、本症に特徴的とされる。43%の患者で所属リンパ節腫脹がみられるが、刺し口は明らかでないこともある。全身性の皮疹は、15-46%の患者にみられる。自然軽快することも多いが、持続する発熱や反応性関節炎、心筋炎、精神神経症状などの合併症がみられることもある。

予後

ほとんどの例で予後は良好だが、重症化が6%、死亡例が2.5%にみられるとの報告もあり、注意が必要である。

感染対策

ヒト-ヒト感染はなく、標準予防策で対応する。流行地域での感染予防にはダニとの接触をさけるため、草原を歩行しない、皮膚の露出しない衣類を着用する、DEETを含有する外用剤を使用する、上着や作業着は家の中に持ち込まないようにする、屋外活動後はシャワーや入浴をしてダニが付いていないかチェックする、などの対策が重要である。

法制度

感染症法上の届出疾患には指定されていない。

診断

蛍光抗体法などの血清抗体検査が用いられるが、紅斑熱群リケッチアの抗体は交叉性をもつため、抗体検査だけでアフリカ紅斑熱と確定診断することはできない。紅斑熱群リケッチアのなかで渡航地域や臨床徴候から本症を疑うことが重要である。刺し口の痂皮を用いたR. africaeの遺伝子検査により診断した例も報告されているが、検査可能な施設は限られる。

診断した(疑った)場合の対応

渡航歴や臨床徴候から本症が疑われる場合、抗菌薬治療を開始する。抗菌薬の投与前に血清や刺し口の痂皮を保存し、抗体検査や遺伝子検査を検討する。

治療(応急対応)

ドキシサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬が有効である。

専門施設に送るべき判断

出血傾向、肝腎機能障害、心筋炎、髄膜脳炎、肺炎などの重症化の徴候があれば、高次医療機関への搬送を検討する。

専門施設、相談先

各自治体の地方衛生研究所、国立感染症研究所など

役立つサイト、資料

  1. Angelakis E, et al, Tick-borne rickettsial diseases, Oxford Textbook of Zoonoses, Palmer SR, second edition, Oxford University Press, United States, 94-95, 2011.
  2. 木村幹男 他. アフリカ南部で感染した紅斑熱群リケッチア症の2例. 感染症誌 1998; 72(12): 1311-6.
  3. 国立感染症研究所. IASR (2010; 31: 137-8.). モザンビーク共和国で感染したRickettsia africaeによるマダニ刺症の2例.

(COI自己申告:申告すべきものなし)

東京都立墨東病院 感染症科 鷲野巧弥

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