日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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インフルエンザ(季節性)(seasonal influenza)

病原体

インフルエンザウイルスによる。近年世界中で流行しているのは、A型のA(H1N1)pdm09、A(H3N2)と、B型のビクトリア系統、山形系統の4種類である。

感染経路

ウイルスは上気道で増殖し、咳やくしゃみにより排出される飛沫により伝搬する。感受性者が飛沫を吸引、あるいは飛沫の付いた手で鼻や口を触ることで感染する。

流行地域

世界中で常時存在するが、北半球では12-3月、南半球では6-9月頃に流行がピークとなる。赤道周辺では明瞭なピークを形成せず、通年性に発生する。日本では冬に流行するが、夏であっても(南半球の国など)海外からの渡航者により持ち込まれることがある。

発生頻度

国立感染症研究所の推計によると、わが国のインフルエンザ累積推計患者数は1,000万-2,000万人/流行シーズンであり、流行期間中は非常に頻度の高い、ありふれた感染症である。一方、非流行期には少ないので、疑わなければ診断できない。

潜伏期間・主要症状

1-3日間ほどの潜伏期間の後に、発熱(通常38℃以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが突然現われ、咳、鼻汁などの上気道炎症状がこれに続き、約1週間の経過で軽快する。いわゆる「かぜ」に比べて全身症状が強い。

予後

健常人においては、通常は自然軽快する予後良好な疾患である。高齢者や、呼吸器、循環器、腎臓に慢性疾患を持つ患者、糖尿病などの代謝疾患、免疫機能が低下している患者では、原疾患の増悪や肺炎など合併症のリスクが高まり、入院や死亡の危険が増加する。小児では中耳炎の合併、熱性痙攣や気管支喘息を誘発することもある。幼児を中心とした小児において、年間50-200人の急性脳症の報告もある。

感染対策

医療現場では、標準予防策に加え飛沫予防策を導入する。流行期間中、インフルエンザ様症状のある患者には、マスク着用を指示し、待合室などではできるだけ一般患者と分離する。入院時は原則的に個室とする。空気予防策は必要ないが、気管支鏡検査、開放式気管吸引などエアロゾルの発生する手技を行う場合は空気感染にも配慮する。手指衛生も重要である。感染防止を目的としたノイラミニダーゼ阻害薬の予防投与も検討しうる。その場合、原則としてインフルエンザウイルス感染症を発症している患者の同居家族または共同生活者である次の者を対象とする。(1)高齢者(65歳以上)、(2)慢性呼吸器疾患または慢性心疾患患者、(3)代謝性疾患患者(糖尿病等)、(4)腎機能障害患者。医療従事者は、ワクチン未接種で適切な感染対策を行わずに患者と濃厚接触があった場合は予防投与を検討する。
一般には、流行期の手洗い、マスク着用、人混みを避けることなどを指導する。

法制度

感染症法では5類に分類され、定点医療機関および基幹定点医療機関が週単位で届け出するものとされている。したがってそれ以外の施設では感染症としての届出は不要である。ただし、施設内でインフルエンザの集団発生が生じた場合には、管轄の保健所等に連絡を行うことが望ましい。
インフルエンザ入院症例については、同入院サーベイランスとして全国約500か所の基幹定点医療機関が、症例の情報を地方自治体に届け出ることになっている。

診断

鼻腔吸引液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液を検査材料として、迅速診断キットによりウイルス抗原の検出ができた場合、インフルエンザと診断できる。

診断した(疑った)場合の対応

疑った段階で直ちに飛沫予防策を導入し、迅速診断キットで診断し、次項により治療する。

治療(応急対応)

現在わが国で日常使用可能な抗インフルエンザウイルス薬は、ノイラミニダーゼ阻害薬であるオセルタミビル(タミフル®等)、ザナミビル(リレンザ®)、ラニナミビル(イナビル®)、ペラミビル(ラピアクタ®)と、Cap依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬であるバロキサビル(ゾフルーザ®)である。オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビルは予防投与に用いることができる。

専門施設に送るべき判断

一般医療機関で診療可能である。肺炎による呼吸不全などの臓器不全や基礎疾患の著明な増悪、脳症など重篤な合併症を認めた場合は高次医療機関への転送を検討する。

専門施設、相談先

特段専門施設はない。

役立つサイト、資料

  1. 一般社団法人日本感染症学会.抗インフルエンザ薬の使用適応について(改訂版).https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=25#n04
  2. 一般社団法人日本感染症学会.インフルエンザ病院内感染対策の考え方について(高齢者施設を含めて).https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=24
  3. 厚生労働省健康局結核感染症課、日本医師会感染症危機管理対策室 平成25年11月改訂 インフルエンザ施設内感染予防の手引き.https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/dl/tebiki25.pdf
  4. Uyeki TM, et al. Clinical practice guidelines by the Infectious Diseases Society of America: 2018 Update on diagnosis, treatment, chemoprophylaxis, and institutional outbreak management of seasonal influenza. Clin Infect Dis 2019; 68: 895-902.

(COI自己申告:申告すべきものなし)

防衛医科大学校内科学講座(感染症・呼吸器) 川名明彦

 

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