日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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ウイルス性脳炎(viral encephalitis)

病原体

ヘルペスウイルス科、日本脳炎、ロタウイルス、エンテロウイルスA71型、D68型、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルスなどがある。

感染経路

ヘルペスウイルス科;接触感染・飛沫感染。ロタウイルス;接触感染・経口感染。エンテロウイルス;飛沫感染・経口感染。インフルエンザウイルス;飛沫感染。麻疹ウイルス;空気感染。風疹ウイルス;飛沫感染、など原因ウイルスより異なる。

流行地域

ウイルス性脳炎は種々の原因ウイルスによる疾患であるので、全体としては単一の疫学パターンをとらない。特定の原因ウイルスが関係したアウトブレイクが時にみられる。

発生頻度

ウイルス性脳炎は2003年より感染症法全数把握対象疾患となった。急性脳炎として2010年以降毎年200人以上が発症しており、2015年511名、2016年763名が確認されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

ウイルス性脳炎は感染急性期に様々な神経症状を呈する。一般的には発熱、意識障害、けいれん、異常行動・言動などがある。また、頭蓋内圧亢進症状として頭痛や嘔吐がある。新生児・乳児期には大泉門の膨隆も認める。

予後

予後は原因ウイルスによっても異なってくる。軽症から死亡例までさまざまで、後遺症を残す場合もある。

感染対策

麻疹脳炎;発疹出現前4日から出現後4日は陰圧個室管理。風疹脳炎;発疹出現前7日から出現後14日まで飛沫感染予防。インフルエンザ脳炎は飛沫感染予防策。ヘルペス脳炎・エンテロウイルス脳炎;接触感染・飛沫感染予防策、など原因ウイルス(空気・飛沫・接触感染)によって、標準予防策に加え感染対策を行う。

法制度

「ウイルス性脳炎」は感染症法の5類感染症の「急性脳炎」の届出基準を満たすウイルス性脳炎である。診断した医師は保健所に7日以内に届け出る。急性脳炎(ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎およびリフトバレー熱を除く)は全数把握対象疾患である。

診断

感染症法に基づく届出基準によると、疾患定義は、「ウイルスなど種々の病原体の感染による脳実質の感染症である。炎症所見が明らかではないが、同様の症状を呈する脳症もここには含まれる。」。臨床的特徴として「多くは何らかの先行感染を伴い、高熱に続き、意識障害や痙攣が突然出現し、持続する。髄液細胞数が増加しているものを急性脳炎、正常であるものを急性脳症と診断することが多いが、その臨床症状に差は少ない。」とされる。一般的には髄液検査、脳波、頭部CT/MRI等も施行し、診断の参考とする。

診断した(疑った)場合の対応

感染様式は原因ウイルスにより異なる。空気・飛沫・接触感染に応じた隔離による入院管理が必要となる。また、重篤な合併症を認める場合や基礎疾患に免疫不全を有する場合は、専門施設における入院管理を検討する。

治療(応急対応)

ウイルス性脳炎を疑う場合、症状の多くはけいれん重積・群発、意識障害の遷延である。管理の基本はけいれんへの対応と、全身状態の管理(呼吸・循環)である。ウイルス性脳炎の中で、病原体特異的な治療が可能な疾患は単純ヘルペス脳炎である。単純ヘルペス脳炎の頻度はウイルス性脳炎の中でも高いため、疑いの段階で治療開始が勧められる。

専門施設に送るべき判断

けいれんの重積・群発や意識回復の遷延が認められる場合、呼吸循環状態が不安定な場合、多臓器不全を呈している場合は、集学的治療が行える医療機関での管理が必要となる。

専門施設、相談先

集学的治療が行える高度医療機関。

役立つサイト、資料

  1. 国立感染症研究所, 急性脳炎(ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎及びリフトバレー熱を除く)とはhttps://www.niid.go.jp/niid/ja/component/content/article/392-encyclopedia/389-encephalitis-intro.html
  2. 厚生労働省、(ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎及びリフトバレー熱を除く) https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-03.html
  3. 青木眞。レジデントのための感染症診療マニュアル. 第3版 p493-9
  4. 衛藤義勝 監修 ネルソン小児科学 原著第1版 p243-7.
  5. 国立感染症研究所、疫学情報 https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/encephalitis.html

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

埼玉県立小児医療センター感染免疫・アレルギー科 佐藤 智

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