日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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結核性髄膜炎(tuberculous meningitis)

病原体

結核菌(Mycobacterium tuberculosis)。

感染経路

一次結核または活性化結核に続発して結核菌血症が起こり、脳、髄膜などに菌が粟粒結核病巣様に播種して発症する。

流行地域

サハラ以南アフリカ、インド、東南アジアおよびミクロネシア(結核罹患率100以上/10万人)。中国、中南米、東欧、およびアフリカ北部(結核罹患率26から100/10万人)。

発生頻度

結核性髄膜炎の全結核患者に占める割合は0.3%程度だが、肺外結核の3.5-6.3%程度であり、この数値は年齢が低くなるほど多くなる。BCG未接種国の1歳未満児なら結核罹患者中の10-20%とされる(AJRCCM. 2006; 173: 1078)。

潜伏期間・主要症状

頭痛、易刺激性、嘔吐、発熱、項部硬直、痙攣、局所神経症状、意識障害、嗜眠などがみられる。これらは発症の超急性期において無菌性髄膜炎よりも緩徐に発症し、流行性感冒に似るが、長期に持続することが鑑別点となる。

検査所見

髄液検査で結核菌の塗抹・培養、PCR検査を行う。髄液の外観は透明、単核球優位の細胞数増多(10-1,000 /µL)、蛋白上昇(50-300mg/dL)、糖低下(髄液糖/血糖比<0.5)などが特徴的である。ただし、初回髄液の28%は多核球優位を示すことや、免疫抑制患者では典型的でないことがあり、特に治療歴がある場合には“改善しつつある細菌性髄膜炎”との鑑別が必要である1)。髄液ADAは流行状況に応じてカットオフ値が検討され、流行地では9.5 IU/L、非流行地では11.5 IU/L程度が有用とされている(Infection. 2015; 43(5): 531)。特異性は高くなく、他の中枢神経系感染症でも上昇する場合がある。リンパ球のインターフェロンγ放出試験(IGRA)のうち、QFT®は髄液リンパ球が採取後すぐに死滅するため施行できない。一方、髄液T-SPOT®は施行可能である(特異度89%、感度59%)。しかし、低感度で検証数も少ないため、今後更に検討が必要であり、現時点では補助的臨床診断としての利用にとどまる(PLOS ONE. 2015; e0141814)。

画像所見

結核性髄膜炎では、結核菌や結核抗原がくも膜下腔へ散布され、これに対する過剰反応が起こることで濃厚な浸出液が分泌され、特に脳底部を中心に増殖性くも膜炎と呼ばれる線維素性癒着が形成される。この増殖性くも膜炎は、脳血管を絞扼して脳虚血を起こしたり、交通性水頭症を起こす。そのため頭部画像所見(CT・MRI)では、水頭症、脳底部髄膜の造影増強効果、脳梗塞、単純CTでの脳底部脳槽部の高吸収などが特徴的所見として認められることがある。

予後

医療資源が整った国であっても致死率は14-28%とされている。結核性髄膜炎は治癒しても高い確率で水頭症、脳神経障害、視力障害などの後遺症を残す。

感染対策

肺結核を合併していることが多く、排菌の有無が確認できるまでは肺結核に準じた空気予防策が推奨される(空気予防策については「結核」の項参照)。肺結核(気管、気管支結核を含む)がない場合は標準予防策で対応可能である。

法制度

感染症法における2類感染症に分類される。

診断

上記症状を1つ以上呈し、①髄液の塗抹での抗酸菌陽性(感度10-37%)、②培養での結核菌同定(43-52%)、③PCRによる結核菌遺伝子の検出(nested PCRの感度75-100%/特異度89-100%)、のいずれかが陽性の場合確定診断となる。菌が検出されなくとも疫学・病歴・身体所見・検体検査・画像検査を総合して判断する。

診断した(疑った)場合の対応

感染症法第12条に基づき、直ちに最寄りの保健所に届け出る。結核菌血症を想定し、血液抗酸菌培養、尿検査・培養、喀痰検査・培養、胸部X線・CTなどから他臓器の合併をスクリーニングする。また、世界的には全体の13%程度にHIV感染症の合併があり、スクリーニングを要する。

治療(応急対応)

イソニアジド・リファンピシン・ピラジナミド・エタンブトールを2か月間治療のあと、イソニアジド・リファンピシンで10か月治療を行う。加えて、致死率と後遺障害を減少させる副腎皮質ステロイド薬を併用する。

専門施設に送るべき判断

致死率・後遺症の残る確率の高い病態であり、疑い例も含めて専門施設に積極的に相談した上での治療が検討される。

専門施設、相談先

保健所、結核床を保有する最寄りの医療施設、公益財団法人結核予防会結核研究所など。

役立つサイト、資料

  1. 日本神経治療学会治療指針作成委員会. 標準的神経治療:結核性髄膜炎, 神経治療2015, 32:4:513-532.
  2. Leonard JM. Central nervous system tuberculosis. Baron EL ed. Up to date.
    http://www.uptodate.com/contents/central-nervous-system-tuberculosis

(利益相反自己申告:研究費・助成金等(GSKジャパン、上原生命科学財団))

防衛医科大学校内科学講座(感染症・呼吸器) 君塚善文

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