日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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コレラ(Cholera)

病原体

コレラ菌(Vibrio cholerae)は、ビブリオ科ビブリオ属のグラム陰性桿菌である。表面抗原(O抗原)により多くの血清型に分類されるが、そのうち「O1」か「O139」の血清型のいずれかを示し、さらにコレラ毒素を産生する菌のみが、コレラと診断されている。

感染経路

コレラは、患者や保菌者の便中のコレラ菌に汚染された食物や水による経口感染によって感染する。

流行地域

血清型O1のコレラは、1817年以降7回の世界的な大流行を繰り返してきている。その多くは、インド、東南アジア、その他の流行国への渡航者による輸入感染症として発症している。しかし、衛生環境が改善してきた地域での発生は減少している。先進国の患者発生報告の大部分は、今もコレラの流行がある途上国への渡航者、あるいは途上国から持ち込まれた飲食物を介しての感染となっている。

発生頻度

日本におけるコレラの報告数は年々減少してきており、2000年代前半は年間50-100人程度の発生があったが、近年は年間10人以下となることが多くなっている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

感染してからの潜伏期間は数時間-5日で、下痢や嘔吐によって発症する。発熱や腹痛を伴うことはまれである。典型的な重症例では、「米のとぎ汁」様の大量の水様性下痢と嘔吐をきたし、著明な脱水による「コレラ様顔貌」や腎不全などが起こる。近年、世界で流行しているコレラでは、比較的症状の軽いものが多いとされるが、医療環境が整っていない途上国では、栄養状態が悪い小児や高齢者において重症例や死亡例もみられる。血液検査では非特異的な炎症所見を示し、重症例では脱水所見による電解質異常や腎機能障害の検査所見となる。

予後

重症例における脱水と電解質異常の対応を行うことができれば、コレラの一般的な予後は良好である。胃切除後や制酸剤内服者では重症化しやすくなるため注意が必要である。

感染対策

標準予防策で対応可能だが、排泄介助やおむつが必要な患者については接触予防策をとる。
二次感染を防ぐために排便後の十分な手洗いを行うように指導する。飲食物を扱う業務では病原体を保有しなくなるまで就業制限を行う必要がある。

法制度

コレラは、感染症法において3類感染症に指定されており、確定患者、疑似症患者、無症状病原体保有者、死亡者は直ちに最寄りの保健所へ届出を行う。基本的に抗菌薬の投与を行うこととなる。さらに菌の消失についても確認する必要がある。

診断

確定診断のためには、便培養によってコレラ菌を分離して、その血清型がO1かO139であることを確認する。さらに、毒素産生か毒素遺伝子を証明することが必要である。

診断した(疑った)場合の対応

患者には二次感染を防ぐための指導を行っておく必要がある。食品関係や保育など職種によっては就業制限も検討される。

治療

コレラの治療は、ニューキノロン系の抗菌薬が第一選択であり、抗菌薬の投与にて排菌期間の短縮化が期待できる。近年は、キノロン耐性のコレラ菌も増加しており、この場合にはアジスロマイシンの投与も検討される。
コレラにおいては、小腸性の大量の下痢に注意が必要であり、重症例では補液や電解質異常の補正をしっかりと行うことが重要である。医療資源の乏しい途上国の流行地域では、特に幼小児に対しての経口補水液(oral rehydration solution:ORS)の利用がすすめられている。

専門施設に送るべき判断

対応や診療に不安がある場合には、症状にかかわらず早めに専門の医療機関へ紹介してもかまわない。

専門施設、相談先

感染症指定医療機関や輸入感染症の経験が多い病院の感染症専門医に相談可能である。

役立つサイト、資料

  1. 一般社団法人日本感染症学会、公益社団法人日本化学療法学会 JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会 腸管感染症ワーキンググループ:JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ―腸管感染症―.感染症誌2015;90:31-65

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

がん・感染症センター東京都立駒込病院 今村顕史

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