日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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細菌性肺炎(bacterial pneumonia)

病原体

肺炎はウイルス、細菌、真菌などの病原体によって起こる急性の肺実質の感染性炎症である。肺炎球菌Streptococcus pneumoniaeやインフルエンザ桿菌Haemophilus influenzaeなどが主要な病原微生物であるが、原因微生物は多岐にわたる。

感染経路

一般的には患者由来の飛沫や、病原体の付着した手指の接触により伝播する。

流行地域

全世界でみられる。

発生頻度

わが国における15歳以上の市中肺炎の患者数は年間188万人(市中肺炎以外も一定数含まれる)で、その70%が入院し、年間約74,000人が病院で死亡していると推定される。国により多少の差があるものの、特に成人における細菌性肺炎では肺炎球菌によるものが最多である。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期は病原体によって異なり、肺炎球菌の場合は1-3日程度である。肺炎の一般的な症状は発熱、湿性咳嗽、呼吸困難、全身倦怠感などで、外来で対応できる軽症のものから、集中治療が必要な臓器不全・呼吸不全を呈するものまで様々である。免疫不全、慢性の臓器障害、喫煙、無脾症などが重症化のリスク因子となる。胸部X線やCT画像上新規の異常陰影がみられ、血液検査では炎症所見や低酸素血症を伴う。

予後

わが国における市中肺炎の致死率は6.3%である。肺炎の致死率は加齢とともに上昇し、重症例ではさらに上昇する。

感染対策

一般の市中肺炎では非定型肺炎を除き標準予防策のみでよいが、A群溶血性レンサ球菌Streptococcus pyogenes、小児におけるH. influenzae type bについては飛沫予防策を講じる。

法制度

病原体によっては病型により届出が必要である。血液や髄液などの無菌部位から菌が検出される侵襲性肺炎球菌感染症や侵襲性インフルエンザ菌感染症では5類感染症として診断7日以内に保健所に届け出る(当該項目参照)。

診断

発熱と呼吸器症状を有し、新規の異常陰影が確認された場合肺炎を考える。病原微生物の同定のため、喀痰のグラム染色、培養同定検査を可能な限り行う。一部の病原体についてはイムノクロマト法による抗原検出キットや迅速核酸増幅検査が利用可能である。

診断した(疑った)場合の対応

市中肺炎ではA-DROPシステム(表1)による重症度評価およびqSOFAスコア(表2)による敗血症スクリーニングを行う。中等症以上の肺炎の場合には入院による治療を考慮し、特に敗血症を合併している場合や重症以上ではICUまたはこれに準じた病室での集中治療を考慮する。

表1 A-DROPシステム(成人肺炎診療ガイドライン2017より引用)

A (Age):男性70歳以上、女性75歳以上
D (Dehydration):BUN 21mg/dL以上または脱水あり
R (Respiration):SpO2 90%以下(PaO2 60 torr以下)
O (Orientation):意識変容あり
P (Blood Pressure):血圧(収縮期)90mmHg以下

軽症:上記5つの項目のいずれも満たさないもの。
中等症:上記項目の1つまたは2つを有するもの。
重症:上記項目の3つを有するもの。
超重症:上記項目の4つまたは5つを有するもの。ただし、ショックがあれば1項目のみでも超重症とする。

表2 qSOFAスコア(成人肺炎診療ガイドライン2017より引用)

1)呼吸数22回/分以上
2)意識変容*
3)収縮期血圧100mmHg以下

*:厳密にはGlasgow Coma Scale (GCS) <15を指す。

日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017作成委員会. 成人肺炎診療ガイドライン2017. 一般社団法人日本呼吸器学会. 2017

治療(応急対応)

症状や検査所見からまずは非定型肺炎との鑑別を行う。原因菌が確定できない場合、頻度の高いものを想定し経験的治療を行う。この場合ペニシリン系抗菌薬(クラブラン酸/アモキシシリン)やマクロライド系抗菌薬が用いられることが多い。キノロン系抗菌薬(レスピラトリーキノロン)は結核菌にも有効であり、結果的に結核の診断の遅れにつながることがあるため安易な使用を慎む。

専門施設に送るべき判断

敗血症を合併している場合、重症以上の肺炎では高次医療機関への転送を検討する。

専門施設、相談先

呼吸器内科を有する、あるいは集学的治療ができる施設。

役立つサイト、資料

  1. 日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017作成委員会. 成人肺炎診療ガイドライン2017. 一般社団法人日本呼吸器学会. 2017
  2. 国公立大学附属病院感染対策協議会. 病院感染対策ガイドライン2018年版. 株式会社じほう. 2018

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

防衛医科大学校内科学講座(感染症・呼吸器) 藤倉雄二

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