日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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腎盂腎炎(Pyelonephritis)

定義

単純性腎盂腎炎と複雑性腎盂腎炎に大別される。前者は既往歴のない妊娠していない成人閉経前女性の腎盂腎炎であり、それ以外はすべて複雑性腎盂腎炎と考える。

病原体

大腸菌が大多数を占める。閉塞機転などが存在する複雑性尿路感染では大腸菌以外のProteus、Pseudomonas、Klebsiella、Enterobacterなどが原因となる率が高くなる。院内感染の場合には各施設特有の菌種や抗菌薬への感受性が重要であり、上記のような大腸菌以外の菌の割合が増える。

感染経路

ほとんどの尿路感染症は上行性である。上行能力の高いグラム陰性桿菌が原因菌として多い理由でもある。次いで頻度は少ないが、血行性感染にも注意が必要である。黄色ブドウ球菌による菌血症や心内膜炎では、頻繁に腎膿瘍を形成する。尿中にCandida、黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌を認めた時は特に注意する。

潜伏期間・主要症状・検査所見

軽度の腎盂腎炎は、肋骨脊柱角の疼痛の有無にかかわらない微熱を呈するが、重度の腎盂腎炎は高熱、悪寒、悪心、嘔吐、側腹部痛や腰背部痛を認める。通常は急性発症であり、膀胱炎の症状はみられない場合がある。尿検査所見として、膿尿(尿中白血球)の存在は尿路感染症が存在する指標であるが、尿路感染症以外の原因でも生じることがある。細菌が窒素を還元するときに生じる亜硝酸の存在も有用であるが、偽陰性が少なくなく、感度に問題がある。CT検査による腎周囲脂肪織濃度の上昇はあまり有用ではない。

予後

敗血症に進展した場合は予後不良である。

感染対策

標準予防策を行う。
患者には外陰部の衛生指導を行う。

法制度

腎盂腎炎自体に感染症法上の届出の必要はない。

診断

確立された診断基準は存在せず、病歴、身体所見、尿所見、画像所見を総合的に判断して診断する。

診断した(疑った)場合の対応

末梢静脈路を確保し、細胞外液による輸液を開始する。血液検査、尿検査を行う。培養は尿培養のみならず、血液培養も採取する。

治療(応急対応)

軽症であれば経口抗菌薬による治療も可能。入院適応であれば、輸液を行いながら二次あるいは三次医療機関へ転送する。

専門施設に送るべき判断

複雑性腎盂腎炎と診断したら転送。単純性腎盂腎炎の場合も重症であれば転送を考慮する。

専門施設、相談先

三次医療機関、あるいは泌尿器科のある二次医療機関

役立つサイト、資料

  1. Yamamoto Shingo, et alJAID/JSC Guidelines for Clinical Management of Infectious Disease 2015 − Urinary tract infection/male genital infection.Journal of infection and chemotherapy 2017; 23: 733-51
  2. 山本新吾、他.JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015-尿路感染症・男性性器感染症-.感染症誌 2016;90:1-30.

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

熊本医療センター救命救急センター 清水千華子

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