日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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デング熱(Dengue fever)

病原体

フラビウイルス科デングウイルス(Dengue virus)。

感染経路

ネッタイシマカやヒトスジシマカなどが媒介する蚊媒介感染症。

流行地域

東南アジア、南アジア、アフリカ、中南米などの熱帯・亜熱帯地域。

発生頻度

世界で毎年3億9千万人がデング熱に感染していると推定される。日本では年間約300例の輸入例が報告されている。2014年には代々木公園を中心に日本国内でデング熱に罹患した症例が160例報告された。グローバル化に伴い、今後も海外からの輸入例をきっかけに国内でアウトブレイクが起こる可能性がある。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期は4-7日(最大3-14日)であり発熱は5-7日続くのが典型的な経過である。発熱以外には頭痛、関節痛の頻度が高く、筋肉痛、下痢、嘔気・嘔吐といった症状がみられることもある。またデング熱といえば皮疹をイメージしやすいが、全例で皮疹が現れるわけではなく、特に発熱期には皮疹はみられないことが多い。多くの症例で解熱する時期と前後して紅斑が出現してくる。
血液検査では白血球と血小板が低下するのが典型的であり、発症から第7-8日病日まで低下することが多い。またこの時期には血管透過性亢進、出血症状が強くなり、ショック、臓器障害(意識障害、呼吸不全、高度肝障害など)、DICがみられ重症デングへと移行することがある。警告徴候として腹痛・圧痛、持続する嘔吐、臨床的な体液貯留、粘膜出血、嗜眠・不穏、2cm以上の肝腫大、急速な血小板減少を伴うヘマトクリット値の上昇があり、これらの所見がみられる場合は入院の上、輸液管理および慎重な経過観察を行うことが望ましい。

予後

デング熱の予後は良好であり致死率は1%未満である。入院を要する重症デングでは致死率2-5%程度となる。

感染対策

予防として、流行地域に渡航の際や、帰国後にデング熱を発症した際には、蚊の刺咬を防ぐため忌避剤としてDEETが20%以上含まれた製品を用いるべきである。病院内での特殊な感染対策は不要である。標準予防策で対応する。ただし医療従事者の針刺し曝露による感染例が報告されている。

法制度

感染症法で4類感染症に指定されており、医師はデング熱の確定患者、無症状病原体保有者、死亡者を直ちに最寄りの保健所に届出を行わなければならない。

診断

熱帯・亜熱帯地域への海外渡航歴がある発熱患者で、白血球や血小板の減少がみられる患者ではデング熱を疑い検査を行う。なお、デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症は臨床症状や血液検査所見では鑑別が困難であり、これら3つの疾患をまとめて検査することが望ましい。
デング熱を診断する方法は主に 1. PCR法によるデングウイルスの検出 2. 非構造蛋白(NS1)抗原の検出 3. IgM抗体の検出(ペア血清による抗体陽転または優位な上昇)の3つである。このうちPCR法は地方衛生研究所や国立感染症研究所での行政検査として行われる。NS1抗原やIgM抗体はELISA法やイムノクロマト法によって測定可能である。

診断した(疑った)場合の対応

上記のNS1抗原、IgM測定の保険適応のためには「入院を要するほどの重症度である」、「集中治療が行える施設である」などの要件がある。その他の輸入感染症との鑑別などを含め、デング熱を疑った場合には最寄りの感染症指定医療機関や蚊媒介感染症専門医療機関に紹介が望ましい。

治療(応急対応)

デング熱に有効な薬剤はない。治療は対症療法が中心となり、重症度によっては集中治療を要する。NSAIDsはデング熱による出血症状を助長させる可能性があるため、解熱剤にはアセトアミノフェンを用いる。

専門施設に送るべき判断

デング熱を疑った場合、最寄りの感染症指定医療機関や蚊媒介感染症専門医療機関に紹介する。

専門施設、相談先

国立国際医療研究センター 国際感染症センター

役立つサイト、資料

  1. WHO. Dengue: guidelines for diagnosis, treatment, prevention and control: WHO; 2009.
    https://www.who.int/tdr/publications/documents/dengue-diagnosis.pdf
  2. 国立感染症研究所. 蚊媒介感染症の診療ガイドライン(第5版).
    https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/dengue/Mosquito_Mediated_190207-5.pdf

(利益相反自己申告:研究費・助成金等(栄研化学株式会社))

国立国際医療研究センター 忽那賢志

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