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毒素性ショック症候群(toxic shock syndrome; TSS)
病原体
黄色ブドウ球菌により大量に産生されるtoxic shock syndrome toxin-1(TSS-1)と呼ばれる菌体外毒素(exotoxin)が原因。黄色ブドウ球菌はこのTSS-1以外にも15種類の異なる毒素を産生することができるとされている。レンサ球菌によるものをSTSS (streptococcal toxic shock syndrome)と称する。
感染経路
月経用タンポン使用時に伴うものが有名。術後感染症として生じることもある。黄色ブドウ球菌の人体への定着あるいは感染→毒素の産生→毒素の体内への吸収→中毒症状の発症
発生頻度
発症率0.03/10万人/年(英国のデータ)
潜伏期間・主要症状・検査所見
突然発症で、高熱、低血圧、びまん性斑状紅皮症を認める。症状は急速に進行し、嘔吐、下痢、錯乱、筋肉痛、腹痛を呈するようになる。これらの症状は肝臓、腎臓、消化管、中枢神経系などの多くの臓器を障害する特性を示している。レンサ球菌の場合は黄色ブドウ球菌と異なり、軟部組織に感染症が存在する。
予後
黄色ブドウ球菌による致死率は5%前後。レンサ球菌による致死率は50%程度。
感染対策
標準予防策を行う。
タンポン使用法の教育
法制度
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は5類感染症であり届出基準を満たす確定患者と死亡者については7日以内に届出が必要である。
診断
表に診断基準を示す。黄色ブドウ球菌は血液培養から検出されないことが多い一方で、レンサ球菌は軟部組織感染に合併し検出されやすい。
表:診断基準
I. | 体温:39°C以上 |
II. | 収縮期血圧:90mmHg以下 |
III. | 皮疹(紅斑がやがて剥脱。剥脱は特に手掌、足底で著明) |
IV. | 以下の臓器のうち少なくとも3か所に障害がある A)消化管(嘔吐、下痢) B)筋肉(筋肉痛、CK上昇:正常の2倍以上) C)粘膜(膣/結膜/咽頭)の発赤 D)腎臓(BUN、クレアチニン:正常の2倍以上、尿路感染症がないが、尿中白血球数が多い。) E)肝臓/肝炎(ビリルビン、AST・ALT:正常の2倍以上) F)血液像(血小板:10万/µL以下) G)中枢神経系(局所所見がなく意識障害あり) |
V. | 血清学的に麻疹、レプトスピラ症、リケッチア症が存在しない |
診断した(疑った)場合の対応
輸液療法、呼吸、循環動態の支持が必要である。培養検体はすべての病変、鼻腔、咽頭、膣、および血液から採取する。
治療(応急対応)
TSSが疑われる患者は直ちに入院させて、集中治療を行う。タンポン、ペッサリー、その他の異物は速やかに除去する。一次感染が疑われる部位に対して、洗浄、ドレナージ、壊死組織のデブリドマンを行う。培養結果が出るまでは、バンコマイシン、ダプトマイシン、リネゾリドを投与する。毒素抑制のためにクリンダマイシンを併用することも多い。静注用ヒト免疫グロブリン(IVIG)の有用性も示唆されている。
専門施設に送るべき判断
診断した(疑った)場合は全例三次医療機関(救命救急センター)へ転送する
専門施設、相談先
三次医療機関(救命救急センター)
役立つサイト、資料
- トキシックショック症候群 医療従事者向けガイド
http://www.jhpia.or.jp/standard/tss/img/guide.pdf
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
熊本医療センター救命救急センター 清水千華子