日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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非定型肺炎(atypical pneumonia)

病原体

一般的にはMycoplasma属菌、Chlamydophila属菌、Legionella属菌による肺炎を非定型肺炎と呼ぶ。マイコプラズマ肺炎はMycoplasma pneumoniae、クラミジア肺炎はChlamydophila pneumoniaeによる。Chlamydophila psittaciはオウム病の原因となる。Legionella属菌は感染経路や病状が他の非定型病原体と異なるため別項で解説する。

感染経路

M. pneumoniaeC. pneumoniaeは飛沫感染によりヒト-ヒト伝播をする。C. psittaciは鳥の排泄物に含まれる病原体の吸入により感染するが、まれに口移しでの給餌や噛まれて感染することもある。

流行地域

非定型病原体はいずれも世界中に広く分布する。C. psittaciは鳥との接触歴が重要であり、特に飼育している鳥が死んでいる場合にはより強く疑われる。

発生頻度

日本からの報告も含めたメタアナリシスにおいて、市中肺炎におけるM. pneumoniaeの割合は 10.1%, C. pneumoniaeは3.5%である。わが国の国内研究を対象としたメタアナリシスでは市中肺炎に占める割合はM. pneumoniaeは2.7%、C. pneumoniaeは2.8%である。
わが国の感染症発症動向調査では、「マイコプラズマ肺炎」および「クラミジア肺炎(オウム病を除く)」は基幹定点医療機関により報告され、これによると2017年はマイコプラズマ肺炎8,366件、クラミジア肺炎は263件であった。オウム病は全数把握されているが、2017年の国内報告ではわずかに13件にとどまる。

潜伏期間・主要症状・検査所見

M. pneumoniaeの潜伏期は比較的長く1-4週間であり、C. pneumoniaeも潜伏期3、4週間で肺炎を発症する。一方、C. psittaciの場合はやや短く潜伏期は5-14日でオウム病を発症する。
M. pneumoniaeC. pneumoniaeは上気道症状から発症することも多く、発熱や全身倦怠感などの症状に加え、特にC. pneumoniaeではしばしば咽頭痛を伴う。肺炎を発症した場合、頑固な乾性咳嗽を伴うことが多く、適切な抗菌薬治療を行っても数週間持続することがある。いずれも症状が軽微であることが多く、正確な診断がなされないままに治癒(一部は自然軽快する)している可能性がある。このように非定型肺炎は一般に症状が軽度であることが多いが、まれに脳症などの重篤な合併症を発症し致死的経過をたどることもある。

予後

一般に非定型肺炎の予後は良好であり、自然軽快例も認められる。

感染対策

M. pneumoniaeはヒト-ヒト感染をするために、罹病期間中は飛沫感染予防策を講じる。C. pneumoniaeは病院感染対策ガイドライン(国公立大学附属病院感染対策協議会)では標準予防策と記載しているが、ヒト-ヒト感染を示し、閉鎖集団での集団発生の報告があるため、濃厚接触時には飛沫感染予防策が望ましい。C. psittaciはヒト-ヒト感染はせず、標準予防策で良い。

法制度

マイコプラズマ肺炎およびクラミジア肺炎は全国約500カ所の病床数300以上の基幹定点医療機関が5類感染症として週単位で届け出る。オウム病は感染症法で4類感染症に分類され、確定患者、無症状病原体保有者、死亡者を診断後直ちに届け出る。

診断

日本呼吸器学会の成人肺炎診療ガイドライン2017では、①年齢60歳未満、②基礎疾患がない、あるいは軽微、③頑固な咳、④胸部聴診所見が乏しい、⑤痰がない、あるいは迅速診断法で原因菌らしいものがない、⑥末梢白血球数が10,000/μL未満である、のうち4項目以上合致すれば非定型肺炎を疑う。いずれも遺伝子検査が可能ではあるが、現状では抗体検出による診断が主体である。マイコプラズマ肺炎ではイムノクロマト法による迅速抗原キットも利用できるため診断に有用である。また、特にマイコプラズマは濃厚接触で伝播し、集団発生することがあるため、家庭や職場など周囲の状況から疑うこともある。

診断した(疑った)場合の対応

多くは軽症であることから、抗菌薬を投与しながら外来で対応するのが一般的である。

治療(応急対応)

マイコプラズマ肺炎ではマクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンやアジスロマイシン)が第一選択であり、ほかにミノマイシン、キノロン系抗菌薬も使用可能である。クラミジア肺炎、オウム病も同様であり、マクロライド系抗菌薬が主体である。

専門施設に送るべき判断

ときに重症化し、合併症として心内膜炎、肝炎、脳炎・脳症、喘息発作などを生じることがあり、程度により高次医療機関への転送を考慮する(重症の指標は細菌性肺炎の項参照)。

専門施設、相談先

呼吸器内科を有する、あるいは集学的治療ができる施設。

役立つサイト、資料

  1. Marchello C, et al. Prevalence of Atypical Pathogens in Patients with Cough and Community-Acquired Pneumonia: A Meta-Analysis, Ann Fam Med 2016; 14: 552-556
  2. 日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2017作成委員会. 成人肺炎診療ガイドライン. 一般社団法人日本呼吸器学会. 2017
  3. 国立感染症研究所. 感染症発生動向調査. https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr.html
  4. 国公立大学附属病院感染対策協議会. 病院感染対策ガイドライン2018年版. 株式会社じほう. 2018

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

防衛医科大学校内科学講座(感染症・呼吸器)藤倉雄二

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