日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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風疹(Rubella)

病原体

風疹ウイルス。

感染経路

飛沫感染。

流行地域

アフリカ、アジアを中心に流行しているが、世界中どの地域でも発生が見られる。

発生頻度

日本における2017年の報告数は合計93例(暫定値)であったが、2018年は夏頃から報告数が増加しており、感染症法上の5類感染症全数把握疾患に指定されて以降2番目に多い報告数となっている。先天性風疹症候群は2015年以降、日本では報告がなかったが、2019年には2例報告されている。(2019年5月時点)

潜伏期間・主要症状・検査所見

14-21日の潜伏期間(範囲:12~23日)の後、発熱、発疹、リンパ節腫脹(特に耳介後部、後頸部など)が出現するが、発熱は風疹患者の半数程度である。不顕性感染も15-30%程度存在するとされる。発疹は小紅斑や丘疹が顔面から始まり、融合することなく全身に広がる。3日程度で色素沈着せず治癒する。関節症は小児で20%、成人では約75%認めるほか、血小板減少性紫斑病(3,000~5,000人に1人)、急性脳炎(4,000-6,000人に1人)などの合併症がある。また風疹に感受性のある妊婦(特に妊娠初期)が風疹に罹患した場合、流産・死産したり、児が先天性心疾患、難聴、白内障を三徴とする先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome: CRS)になることがある。

予後

成人が罹患しても一般的に軽症で予後良好だが、特に妊娠初期(20週ごろまで)の妊婦が罹患した場合は、流産・死産したり、CRSの児が生まれてくる可能性がある。

感染対策

接触および飛沫予防策。基本再生産数(R0)は6-7と感染力が強い。発症の約1週間前から発症後1週間程度は感染力があるため、感染対策が必要である。曝露後予防としてのワクチン接種などは確立していない。

法制度

「風しん」は感染症法上の5類感染症全数把握疾患であり、確定患者、死亡者は直ちに届出が必要である。

診断

風疹特異的IgM抗体高値、ペア血清でのIgG抗体の有意な上昇で行うほか、リアルタイムPCR法による風疹ウイルスRNAの検出やウイルス分離・培養により診断する。原則として全例で風疹ウイルスの遺伝子検査を実施することが望ましい。

診断した(疑った)場合の対応

患者にマスク着用を依頼し、速やかに他の患者・面会者等に曝露しないよう、別室へ誘導する。入院が必要な場合、個室への入院が勧められるが、施設の制約等により難しい場合でも、妊婦や免疫能が低下した患者等との同室は避ける。さらに、患者の行動調査を行い、発疹出現前後1週間の接触者を把握する。接触者への対応等は、管轄保健所とも協力のうえ行う。

治療(応急対応)

特異的な治療法はなく、対症療法が中心となる。曝露後予防のためのワクチン接種は確立していない。稀ながら、血小板減少性紫斑病や急性脳炎などの合併症を認めた場合は、入院可能施設で対応をする。

専門施設に送るべき判断

急性脳炎などの合併症を認めた場合は、集中治療医や神経科医がいる専門施設での診療が望ましい。患者が妊婦の場合は産婦人科医に相談する。

専門施設、相談先

感染症指定医療機関などの感染症専門医がいる施設に、また妊婦の場合は、速やかに産婦人科医に相談する。公衆衛生対応は管轄保健所に相談する。

役立つサイト、資料

  1. WHO. Immunization, Vaccines and Biologicals: Measles and Rubella Surveillance Data (last update: 15 November 2018)
    http://www.who.int/immunization/monitoring_surveillance/burden/vpd/surveillance_type/active/measles_monthlydata/en/
  2. 厚生労働省。風しんについて
    https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/
  3. 国立感染症研究所.風疹 https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/rubella.html
  4. 日本小児総合医療施設協議会(JACHRI)小児感染管理ネットワーク、こどもの医療に携わる感染対策の専門家がまとめた小児感染対策マニュアル監修:五十嵐隆、じほう、2015年
  5. 先天性風疹症候群(CRS)診療マニュアル(日本周産期・新生児医学会編)
  6. 医療機関における風疹対策ガイドライン(国立感染症研究所編)
    https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/rubella/kannrenn/iryoukikann-taisaku.pdf#search='%E9%A2%A8%E7%96%B9+%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%A9%9F%E9%96%A2'
  7. FORTH, 厚生労働省検疫所、風しん
    https://www.forth.go.jp/useful/infectious/name/name64.html
  8. CDC, Yellow book Chapter 3, Rubella
    https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2018/infectious-diseases-related-to-travel/rubella
  9. Committee on Infectious Diseases, Rubella, edited by David W. Kimberlin et al., Red Book 2018, 31st ed., American Academy of Pediatrics, IL, p705-711, 2018

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立成育医療研究センター 船木孝則

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