日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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麻疹(Measles)

病原体

麻疹ウイルス

感染経路

飛沫核(空気)感染、飛沫感染、接触感染である(麻疹患者が去った後も2時間程度ウイルスは感染力を有する)。

流行地域

アフリカ、アジアを中心に流行しているが、2017年はイタリアやルーマニアなどヨーロッパ諸国でも、また2018年はベネズエラを中心とした南米諸国でも大規模な流行がみられた。

発生頻度

最近5年間では、全世界で毎年15-30万人程度が発症したと推計(2016年データで89,780人死亡)されている。日本は2015年3月にWHOより麻疹の排除状態であると認定されたが、以後も輸入例を発端とした集団感染事例があり、年間100-500例程度は報告されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

一般に8-12日の潜伏期間の後、発熱、咳嗽、結膜充血、眼脂などのカタル症状が2-3日続き、頬粘膜にコプリック斑が出現する。その2-3日後(呼吸器症状のピーク時)に、前頭部や後頭部から斑状紅斑が出現し、3日以内に体幹および四肢に広がる。紅斑は、やがて暗赤色の丘疹となり、融合傾向を示しながら、最終的に色素沈着を残して治癒する。小児では、嘔吐・下痢、腹痛を合併することも多い。

予後

麻疹肺炎(6%)、麻疹脳炎(0.1%)が二大死因となる合併症であり、罹患後長期間を経て発症する亜急性硬化性全脳炎等の重篤な合併症もある。先進国でも麻疹患者の約1,000人に1人の割合で死亡する可能性がある。

感染対策

空気、接触および飛沫予防策が必要。麻疹に感染した患者は、発疹出現の4日前から出現後4日目まで感染力がある。また感染力は基本再生産数(R0)が12-18と極めて強く、徹底的な感染対策が必要である。

法制度

「麻しん」は感染症法上の5類感染症全数把握疾患であり、確定患者、死亡者は直ちに届出が必要である。

診断

麻疹特異的IgM抗体高値、ペア血清でのIgG抗体の有意な上昇で行うほか、リアルタイムPCR法による麻疹ウイルスRNAの検出やウイルス分離・培養により診断する。原則、全例で麻疹ウイルスの遺伝子検査を実施することが望ましい。

診断した(疑った)場合の対応

患者は陰圧個室に隔離する。また患者の行動調査を行い、発症前日から患者が個室管理されるまでの感染可能期間の接触者を把握し、必要があれば曝露後予防処置を行う。接触者への対応等は、保健所とも協力のうえ行う。

治療(応急対応)

特異的治療薬はなく、対症療法が中心である。途上国では、ビタミンA欠乏児ではビタミンA投与による重症度の軽減が報告されている。麻疹に対する免疫がない人が麻疹患者と接触後、72時間以内に麻疹含有ワクチンを接種することで、発症を予防できる可能性がある。ただし、妊婦や免疫不全者に麻疹含有ワクチンは接種できない。また、免疫不全者等のワクチン接種が適応とならない場合でも、罹患患者との接触から6日以内であれば、免疫グロブリン製剤の投与を考慮する。

専門施設に送るべき判断

重症肺炎や脳炎などの重症例は、感染症指定医療機関や集中治療が可能な施設での診療が望ましい。

専門施設、相談先

感染症指定医療機関等の感染症専門医がいる施設、重症例(脳炎や重症肺炎の症例など)については集中治療が可能な医療機関に相談する。また、公衆衛生対応は管轄保健所に相談する。

役立つサイト、資料

  1. WHO. Immunization, Vaccines and Biologicals: Measles and Rubella Surveillance Data (last update: 15 November 2018)
    http://www.who.int/immunization/monitoring_surveillance/burden/vpd/surveillance_type/active/measles_monthlydata/en/
  2. 厚生労働省.麻しんについて
    https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html
  3. 国立感染症研究所.麻疹 https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ma/measles.html
  4. 日本小児総合医療施設協議会(JACHRI)小児感染管理ネットワーク、こどもの医療に携わる感染対策の専門家がまとめた小児感染対策マニュアル、監修:五十嵐隆、じほう、2015年
  5. 医療機関での麻疹対応ガイドライン(第七版)
    https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/guideline/medical_201805.pdf#search='%E9%BA%BB%E7%96%B9+%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%A9%9F%E9%96%A2
  6. FORTH, 厚生労働省検疫所、麻しん(はしか)
    https://www.forth.go.jp/useful/infectious/name/name62.html
  7. CDC, Yellow book Chapter 3, Measles (Rubeola)
    https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2018/infectious-diseases-related-to-travel/measles-rubeola
  8. Committee on Infectious Diseases, Measles, edited by David W. Kimberlin et al., Red Book 2018, 31st ed., American Academy of Pediatrics, IL, p537-550, 2018

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立成育医療研究センター 船木孝則

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