日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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薬剤耐性菌(Antimicrobial resistant bacteria)

病原体

薬剤耐性は様々な病原体で存在する。なかでも日和見感染症を起こす薬剤耐性細菌は感染症を発症せず保菌状態のことも多いため、気づかれないまま病院内で感染が拡大することがある。ここでは、海外滞在歴がある患者を何らかの疾患で受け入れる場合に、持込みにより薬剤耐性菌が院内で拡散するのを防ぐことに焦点を当てる。主な菌種としては、諸外国で比較的頻度が高いカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)などが想定される。

感染経路

感染の伝播は主に直接的な接触により起こる。医療従事者の手を介したり、汚染された共有物品や器材を介して拡散する。

流行地域

発展途上国では概して様々な菌種で薬剤耐性率が高い。特に感染対策が十分でない医療機関では入院患者で薬剤耐性菌の保菌率が高いとされる。

発生頻度

日和見感染を起こすいくつかの代表的な菌種の薬剤耐性率について、2017年の日本のデータ1)と、外国の例として大規模なサーベイランスに基づく中国のデータ2)を紹介する。アシネトバクターのカルバペネム耐性率は、中国では56.1%、日本ではイミペネム耐性で2.5%である。腸内細菌科細菌の一つである肺炎桿菌では、カルバペネム耐性率は中国では9%、日本では1%未満である。緑膿菌のカルバペネム耐性率は、中国では20.7%、日本ではイミペネム耐性で16.9%である。多くの発展途上国では、サーベイランスの規模が小さいなどの理由でしっかりした情報は限られるが、いずれも日本と比較すると薬剤耐性菌はかなり多い傾向にある。各国のデータはWHOから公開されている3)

潜伏期間・主要症状・検査所見

無症状で腸管等に長期間にわたり保菌される場合が多いが、感染防御機能の低下した患者では尿路感染症や敗血症など様々な感染症を起こすことがある。

予後

感染症を発症した場合は有効な抗菌薬が限られるため治療に困難をきたすことがある。感染対策を適切に実施しないと、院内やさらに地域で感染が拡大する可能性がある。

感染対策

まず受け入れ時に海外での入院歴について聴取することが重要である。海外の医療機関に直近まで入院していたなど、薬剤耐性菌の保菌リスクが高い場合は耐性菌のスクリーニング検査を実施するとともに、個室隔離と接触予防策を実施し、またこれらの情報が院内のICT等と情報共有されるようにすること、また対策が円滑にできるように感染対策マニュアルなどを整備しておくことが望ましい。なお、海外での入院時期が直近でない場合や入院以外でも外来手術など侵襲的処置を受けた受診歴がある場合など、患者の状況は様々と思われる。どの程度までを感染対策の対象とするかについては一律的な切り分けは難しいが、国立国際医療研究センターから発行されている海外からの薬剤耐性菌の持ち込み対策に関するガイダンス4)や日本環境感染学会のポジションペーパー5)などを参考に、患者の状況や入院させる病棟の実情に応じて予め対応手順を策定しておくのが望ましい。

法制度

5類感染症として、CRE感染症、VRE感染症、MDRA感染症、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)感染症については全ての医師に届出が求められる。その他指定された医療機関が届出を行う5類感染症として、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症、MDRP感染症がある。届出が求められるのはいずれも感染症を発症した場合に限られ、保菌のみの場合は届出対象とはならない。

診断した場合の対応

薬剤耐性菌では感染拡大を防ぐ観点から、感染症を発症している場合だけでなく、保菌の場合も注意が必要である。厚生労働省は平成26年12月19日付通知6)で、特にCREなど治療に困難をきたしやすい薬剤耐性菌では保菌も含め1例目の発見をもってアウトブレイクに準じて厳重な感染対策を実施するように求めている。

専門施設、相談先

国立国際医療研究センター 総合感染症科/AMR臨床リファレンスセンター

役立つサイト、資料

  1. 厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS), https://janis.mhlw.go.jp
  2. China Antimicrobial Resistance Surveillance System, http://www.carss.cn
  3. WHO Global Antimicrobial Resistance Surveillance System, https://www.who.int/glass/resources/publications/early-implementation-report-2017-2018/en/
  4. 医療機関における海外からの高度耐性菌持ち込み対策ガイダンス,国立国際医療研究センター国際感染症センター, http://dcc.ncgm.go.jp/prevention/resource/resource05.pdf
  5. 多剤耐性グラム陰性菌感染制御のためのポジションペーパー第2版,日本環境感染学会,http://www.kankyokansen.org/modules/publication/index.php?content_id=6
  6. 医療機関における院内感染対策について,厚生労働省医政局地域医療計画課,医政地発1219第1号,https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc0640&dataType=1&page

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立感染症研究所 細菌第二部 柴山恵吾

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