日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

75
レプトスピラ症(Leptospirosis)

病原体

病原性を持つレプトスピラ属細菌(Leptospira spp.)による。好気環境で生育し、淡水中や湿った土壌中で数カ月生存する。22種のレプトスピラのうち15種が病原性を保持していると考えられている。

感染経路

げっ歯類をはじめとする多くの野生動物や家畜(牛、馬、豚など)、ペット(犬、猫など)などの保菌動物の尿中に排泄される。レプトスピラで汚染された水や土壌、尿から経皮的感染や、汚染された水や食物の飲食による経口感染がある。国内では河川での感染や農作業、ネズミとの接触による感染報告が多い。ネズミの尿への直接曝露は農業など職業関連の曝露によることが多い一方、淡水曝露ではカヌー、ウインドサーフィン、水泳、水上スキーなどの活動が原因と考えられる事例が多い。

流行地域

世界中の熱帯・亜熱帯に流行し、しばしば大規模な集団感染が起こる。日本では沖縄県で発生頻度が多いが、国内の推定感染地は25都府県に渡り病原体は国内に広く分布していると考えられる。

発生頻度

日本では、2007-2016年にかけて30都府県から284例の届出があった。国内感染例は15-42例発生し、発生月別では9月の発症が最も多く、7月から10月に集中していた。国内の推定感染地は沖縄県、東京都の順に報告数が多かった。国内では散発的な発生のほか、台風や洪水後の集団感染や、2014年に沖縄県の米軍訓練での淡水曝露による239人の大規模な流行報告もある。輸入症例は届出数の1割を占めている。推定感染地はインドネシア、タイ、マレーシアなど東南アジアが大半を占める。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は通常5-14日、まれに3週間にわたる。感冒様の軽症型から黄疸や出血、腎不全を伴う重症型(ワイル病)まで多彩な臨床症状をとる。初期症状は38-40℃の発熱、悪寒、頭痛、筋痛、結膜充血などで、腓腹筋の筋痛は比較的特徴的である。重症型では初期症状に続いて5-8病日目に黄疸や出血傾向が出現し、第2病週にその症状が強まる。出血傾向の部位は皮下や鼻出血から致死率の高い肺出血まで多岐にわたる。臨床症状が非特異的であることから、保菌動物の尿に汚染された水やネズミとの接触、淡水曝露、流行地への渡航などの情報が診断において重要な手がかりとなる。

予後

軽症型の予後は一般的に良好だが、重症型では適切な治療がなされなかった場合の致死率は20-30%である。

感染対策

診療時には標準予防策をとる。手袋、マスク、ゴーグル、ガウンなどを装着し汚染水のエアロゾルへの曝露にも注意を要する。曝露後には流水、石鹸での手洗いを徹底する。流行地では淡水曝露や汚染水の飲水を避けること、レクリエーションで淡水曝露する際には特に足などの傷の保護に努めることが推奨される。

法制度

「レプトスピラ症」は感染症法上、4類感染症であり、確定患者、無症状病原体保有者、死亡者を診断した医師はただちに最寄りの保健所へ届け出る。

診断

血液、髄液、尿を用いて分離培養が可能であるが、専用の培地が必要である。実臨床では血液、血清、髄液、尿からのレプトスピラ遺伝子検出と顕微鏡下凝集試験法(Microscopic Agglutination Test:MAT)によるペア血清を用いた抗体の検出が診断に用いられる。詳細は最寄りの保健所に相談のこと。

診断した(疑った)場合の対応

早期の抗菌薬投与は重症化を防ぐのに有効であるため、疑った時点で診断に必要な検体を保存し、確定診断を待たずに抗菌薬を開始する。

治療(応急対応)

一般的にドキシサイクリン内服、重度例ではペニシリン系の静注を用いる。なお、ペニシリンを用いた場合はJarisch-Herxheimer反応(抗菌薬投与により破壊された菌体成分が引き起こす発熱、倦怠感、ショックを主症状とする反応。通常は投与1-数時間で出現、24時間で軽快する)の出現に留意し観察する。

専門施設に送るべき判断

重症型では多臓器不全を呈し、透析や人工呼吸管理など全身管理を要することもあるため、適切な経過観察と必要時の搬送に備える必要がある。

専門施設、相談先

4類感染症であり最寄りの保健所に相談することができる。

役立つサイト、資料

  1. 国立感染症研究所,レプトスピラ症とは IDWR 2003年第1.2号
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/531-leptospirosis.html
  2. 東京都感染症情報センター.レプトスピラ症
    http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/leptospirosis/
  3. Renee L. Galloway et, al. CDC. Traveler’s health. Chapter3. Leptospirosis.
    https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2018/infectious-diseases-related-to-travel/leptospirosis
  4. レプトスピラ症 2007年1月~2016年4月 IASR 2016;37:103-5.

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

東京都保健医療公社荏原病院 感染症内科 田宮 彩

Share on Facebook Twitter LINE
このページの先頭へ