感染症アトラス

一般社団法人日本感染症学会

侵襲性肺炎球菌感染症 電撃性紫斑病

病歴

  • 52歳 男性
  • 悪性リンパ腫のため脾摘、化学療法の既往あり
  • X月1日昼より発熱あり近医受診、対症療法
  • X月3日午前3時に高熱、意識障害が出現し地域の救急病院に救急搬送
  • 搬送時ショックバイタルで、全身に紫斑を認めた

搬送時身体所見

  1. 気管挿管
  2. SpO2末梢冷感が強くて測定不能
    人工呼吸器管理
  3. BP 64/40 mmHg,PR 140 b.p.m.
    (ノルアドリナリン 0.4γ投与下)
  4. GCS E3VTM4
  5. 36.4℃, 眼瞼結膜に点状出血、全身に紫斑
    (皮膚所見は次に示す)

搬送時皮膚所見


搬送時皮膚所見

経過①

  • 尿中肺炎球菌抗原検査で陽性であり、脾摘後の侵襲性肺炎球菌感染症、電撃性紫斑病の疑いで初期治療(CTRX+DAP, 敗血症管理)を継続
  • 程なく、血液培養で肺炎球菌(PSSP)が発育し、上記確定診断
  • 約48時間の経過で循環動態は安定化するも、皮膚壊死が徐々に進行

皮膚壊死の進行(右臀部)第7病日


皮膚壊死の進行(右臀部)第7病日

経過②

  • 入院7日後、一旦低下した炎症反応が再増悪、発熱、血圧低下を来す
  • 血清βDグルカン高値であり、CPFGを開始
  • 血液培養よりC. albicansが発育
  • CPFG開始後も循環動態は安定せず、再検した血液培養でC. albicansは消失したものの、S. maltophiliaが発育
  • ST合剤(TMP/SMX)を開始するが菌血症持続

皮膚壊死の進行 第21病日


皮膚壊死の進行 第21病日

経過③

  • 顔面、四肢は皮膚壊死に至り、皮膚生検の結果壊死は皮下組織にまで及ぶ
  • 壊死組織がエントリーとなるS. maltophilia持続菌血症となり、壊死組織除去が検討されるが、この場合四肢切断(両前腕以下、両大腿以下)を要することになり、非現実的
  • 保存治療を継続するが、多臓器不全が進行し、入院1ヶ月あまりの経過で死亡

侵襲性肺炎球菌感染症

  • 肺炎球菌が血液中に侵入し無菌部位から検出される感染症(髄膜炎、菌血症など)
  • 脾摘後重症感染症(OPSI: overwhelming postsplenectomy infection)の原因菌として肺炎球菌は最も重要な起炎菌
  • 予防的抗菌薬投与やワクチンにより死亡率は低下傾向にあるが、依然として電撃的な経過で死に至ることも多い

電撃性紫斑病

  • 髄膜炎菌や肺炎球菌による侵襲性感染症では紫斑を伴うことがあり、急激な経過をたどることが多い
  • 脾摘などの脾機能消失がリスクファクターとなる
  • Symmetric peripheral gangrene(SPG)を呈し、最終的に四肢末端が虚血性壊死に陥り、救命しえても切断を要する頻度が高い

本症例から

  • 近年の敗血症の集中治療管理の成績向上もあり、従来電撃的な経過で死亡するような侵襲性感染症も急性期には死亡しない症例が増えてきている
  • 急性期管理後は、電撃性紫斑病からの皮膚壊死が問題となり、皮膚壊死が広範となれば、重症熱傷と同様の病態となり、壊死組織からの二次感染が深刻な問題となる

【Summary】

A 52-year-old man transferred to our hospital because of refractory shock accompanying disseminated intravascular coagulation. His family noticed his high grade fever that lasting for 6 hours. He had splenectomy due to malignant lymphoma 4 years previously. At presentation, his initial blood temperature, pulse rate, blood pressure , and respiratory rate, were 36.4℃, 140 beats/min, 64/40 mmHg (with noradrenaline of 0.4γ), and 38 breaths/min, respectively, along with altered mental status. Physical examination showed cold limbs, cyanosis, and gravity-independent impalpable petechial rash that rapidly emerged on almost whole body. Blood culture yielded Streptococcus pneumoniae, he was diagnosed as having acute infective purpura fulminans. With the vigorous treatment, his condition gradually improved and blood culture once sterilized in relatively short period, however skin necrosis progressed, and resulted in systemic gangrene like deep burn. It drawn down secondary sustain septic shock with Stenotrophomonas maltophilia, he died in 40 days.

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