この度、日本感染症学会の理事長に就任いたしました。感染症関連の学会は数多く存在しておりますが、日本感染症学会はその歴史やこれまでの活動を含めて、中心的な役割を果たしてきました。そのような学会の理事長に選任されたことは身に余る光栄であり、同時に責任の重さを深く感じております。
本学会は大正15年(1926年)に日本伝染病学会として創設され、昭和49年(1974年)に日本感染症学会と改称して現在に至っております。そして来年、本学会は創立100周年という記念すべき節目を迎えます。1世紀にわたり、多くの先輩方が築き上げてこられた輝かしい歴史と伝統を受け継ぎ、今後も学会を発展させていく必要があると思います。
その一方で、私たちは感染症を取り巻く状況の変化に対応し、新たな課題の解決に向けて取り組む必要性も生じています。近年、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、私たちの生活を一変させ、感染症対策の重要性を改めて認識しました。さらに、薬剤耐性菌の増加、新興・再興感染症の脅威、薬剤の安定供給、高齢化社会における感染症対策など、私たちが直面する課題は多岐にわたります。
これらの課題に対して、感染症に適切に対応できる体制作りは必須と思われます。2025年4月に国立感染症研究所(NIID)と国立国際医療研究センターが統合してできた国立健康危機管理研究機構(JIHS)は、国の組織として感染対策の司令塔の役割を担うものと期待されます。日本感染症学会もアカデミアの立場からJIHSと連携していく所存です。
さしあたっての本学会の取り組みとしては、人材育成を重視しています。コロナのパンデミック対応時には、感染症の専門家がいないことで各医療機関が混乱しました。しかし、感染症専門医はそのニーズに応えられるだけの十分な数には達しておらず、専門医を増やすことは喫緊の課題と考えます。また、基礎研究においても感染症の研究基盤が脆弱であることが露呈されました。これも国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)など研究助成に関わる団体と連携して、感染症研究の強化を図りたいと思います。また、他の医学会や関連団体とも密接な関係を保ちながら、感染症対策における学会の使命を果たしていく所存です。
会員の皆様におかれましては、これまでと変わらぬご支援とご協力を、どうぞよろしくお願い申し上げます。
令和7年5月
一般社団法人日本感染症学会
理事長 松本 哲哉