日本感染症学会

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施設内感染対策事業:平成14年度以前相談窓口(2003年3月公開分)Anser3

最終更新日:2003年3月31日

施設内感染対策相談窓口(2003年3月公開分)へ戻る

Q:病院の床は汚いもので,ものを直接置いたりしないよう指導してきました.傷の処置のあとにガーゼをとめるテープ類や包帯が落ちてしまったときはどのように対応すべきでしょうか?使用前の点滴のラインが床に触れた場合はいかがでしょうか?またラップされているもの(注射針,注射筒,点滴ラインなど)が落ちたときはどうでしょうか?

A:病院の床は汚れており,どのような処置を行っても無菌ではなく不潔です.床にテープや包帯が落ちてしまった場合ですが,それらは直接的に創部に触れる訳ではありませんので,眼に見える汚染がない限りそのまま使用しても構いません.
 皮膚に直接触れるものはノンクリティカルな物であり消毒する必要はありません.粘膜や縫合されている創に触れるもの,呼吸器回路などはセミクリティカルといい,高水準の消毒が必要です.注射の針や血管内に挿入するクリティカルな器材は滅菌が必要です.この分類を考慮すれば感染リスクに応じた対応ができると思います.

[参考文献・資料]

  1. Rutala WA: APIC guideline for selection and use of disinfectants. Am J Infect Control 1996; 24: 313-342.
(H14.3.31)
Q:MRSA感染(保菌)患者と外来受診者,保菌不明な入院患者が,リハビリ室で同時に同一の場所で訓練をしても良いのかどうか教えて下さい.
 現在,リハビリ室では保菌患者にマスクをしてもらっていますが必要でしょうか?

A:「MRSA保菌患者を他の患者と同一の場所でリハビリ訓練をさせてもよいか」という質問内容として,以下解答を記す.リハビリ訓練をされるMRSA保菌者は,排菌量は少ないものと判断します.排菌場所は鼻腔,咽頭,治癒した創部などと考えらえるが,この場合は,排菌箇所を何らかの手段で覆うことができれば,手洗いを教育し,訓練前にしっかり行っていただければ,他の患者と一緒に行うことは可能と考える.MRSAの感染経路は接触感染なので,排菌箇所を覆うこととしっかり手を洗うことが重要である.空気感染はしないので,それ以外のことの注意は不要である.なお,手洗いは流水石鹸で1分程度しっかり行うか,即乾式アルコール製剤を用いて行うこと.なお,鼻腔・咽頭保菌者は手を鼻に持っていくことを防ぐため通常のガーゼマスクを着用することを勧める.

(H14.3.31)
Q:MRSA感染患者の吸引チューブをつけておくボトル内の消毒液は必要なのでしょうか?必要だとすればどういう方法がよろしいですか(現在は精製水500mlにイソジン液5mlを入れたものを使用しています)?

A:気管内吸引チューブは使い捨てが望ましいが,頻回に吸引が必要な患者では以下のような消毒を行う.使用後の吸引チューブ内腔の粘液は滅菌精製水を吸って除去し,外側の粘液は消毒用エタノールで拭き取ります.その後,チューブは0.05%クロルヘキシジン(ヒビテングルコネートなど).または,0.1%塩化ベンザルコニウム(オスバンなど)の消毒液に浸しておきます.これらの消毒薬に消毒用エタノールを1/10容量の割合で添加しておく方法も勧められている.次の使用直前には,別に用意した滅菌精製水を吸引し,吸引チューブ内の消毒液を除去する.通常,吸引チューブと消毒液は24時間毎に,滅菌精製水は12時間毎に新しいものに交換する.

(H14.3.31)
Q:点滴ラインにおけるMRSA等接触伝播する感染の対策について
 CDC(米国疾病管理予防センター)では中心静脈ラインにおけるフィルターは感染防止のためには有効ではなく,むしろフィルター交換の際に感染の機会を増やしていると述べている.現実問題としても,フィルターは患者から三方活栓などの末梢側にある.また三方活栓より,ゴム膜を通すような閉鎖式側注システムが推奨されている.一方,ゴム膜を針で刺す場合は職業感染の可能性が生ずるが,最近は鈍針型のプラスチック製接続が市販されている.
 国内の現状は,感染対策の予算は限られており,世界エビデンスで効果あり,とされる器材を用いる場合には病院の出費となる.感染管理においても医療経済が問題となる現在,効果的な予備配備が必要である.国内の文献(Infection Control 1999; 8: 44-47)においても,フィルターを廃止し,その財源で閉鎖式側注システムに変更してカテーテル敗血症が減少したので,予算的にも感染管理的にも有効であったとされている.当院でも同様にフィルター廃止の財源で針を用いない側注法に変更したいと考えている.そこで次の2点質問させていただきたい.
  1. 感染管理で有効性の乏しい割にコストの高い中心静脈ラインのフィルターを廃止してよいか?
  2. どうしてもフィルターを使用せねばならないなら,どのように用いるべきか?現状の三方活栓の末梢側におく理由がありますか(側注部分の患者側では現実問題,詰まりやすく使用不可能です)?

A:

  1. フィルターの目的は感染予防に限らず,異物や薬液配合による沈殿物を除去する点にもあるため,FDAなどはIVHのフィルターを推奨しており,インラインフィルターは末梢静脈炎の頻度を下げることに関してはエビデンスがある.しかし,カテーテル関連感染症の頻度を下げるという証拠はないと考えるので,感染症の予防が目的であれば,フィルターを廃止して経過をみられて構わないと考えられる.ご指摘のように,感染のみに着目すれば,ラインの接続ポイントが増える分,感染リスクが増えると考えられる.ただし,針を用いないラインシステムに関しては現在の所,予防効果は不明と考えて戴きたい.フィルターの廃止後にカテーテル関連血流感染が増えないか,院内でサーベイランスをされるのは意義があると考える.
  2. フィルターは予めラインに組み込まれたシステムを使用すれば良いと考える.ラインの三方活栓は,ライン内の汚染の可能性が高いので,ICUや手術場以外では用いない方が望ましいと考えられており,沈殿物除去目的にも,三方活栓から側注する場合には,患者側にフィルターを用いる方が良いとされている.
(H14.3.31)
Q:病院から洗濯に出す一般リネン(シーツ類)の消毒について,現状を見直しています.現状に変わる方法の選択に苦慮しているところです.1週間に1回のシーツ類の交換後,消毒庫でホルマリンガスにかけ1昼夜した物を洗濯業者に渡している.業者は「温湯・次亜塩素酸の処理はしている.しかし病院,施設から持ち出す物は1次消毒をした物でなければならないと指導を受けている」との回答である.ホルマリンガスの有害性を考慮すると,他に変わる方法はないか.他院ではどのようにされているのか,良い方法があればご教示下さい.感染委員会でも色々検討してきましたが,医療監視や監査時の現状とのかねあいで判断しかねております.

A:現在,感染性リネン類の消毒については,国際的にも洗濯機を用いて温湯・熱湯による洗浄・消毒が一般的となっている(温湯で予備洗浄を行った後80℃10分で熱湯消毒を行う).1999年4月より施行された感染症新法においても最も厳重な対応が求められている1類,2類感染症でも上記の消毒でよいことになっている.通常の汚染リネンについては上記と同じ工程か洗剤を用いた通常の洗濯でも可とされている.
 感染性廃棄物については国の指導で業者への引き渡し時に施設内で非感染化して廃棄することが望ましい旨,ガイドラインに記載があるので,これと同列に扱われて感染性リネンも医療機関から業者への引き渡し時に,貴施設のように一次消毒をする施設が多いのが現状である.貴施設で用いているホルマリンガスは吸入毒性があり,またガスの浸透性の不均一性や濡れたリネン類は浸透性が低下するため消毒法としては不適とされてる.他施設での状況についての質問ですが,回答するにあたり,当院および複数の他の施設への委託業者への引き渡し前の消毒の現状について聞き取りをしたところ,ホルマリンガスや薬液による消毒,もしくは高圧蒸気滅菌などが大半を占めていた.委託業者が行う同じ消毒法を施設内で前もって行うことは大変不経済なので,今後然るべき学会などを中心として行政と検討を積み重ねてこの問題を改善していく努力が必要と思われる.このような改善が達成されるまでは,貴施設の場合は施設内でホルマリンガスに代わり温湯・熱湯による洗浄・消毒後に業者に引き渡されるのも一案かと考える.

(H14.3.31)
Q:ホルマリン消毒を中止すべき理由についてお教え下さい.

A:ホルマリンはホルムアルデヒド35~38%(およびメタノール10~15%)を含む水溶液で,細菌やウイルスなどに有効であるが,皮膚,粘膜(眼,鼻,咽喉など)に対する毒性が強いため,ほとんど使用されていない.アメリカでは「ホルムアルデヒドは強力な発癌物質として取り扱う」とのガイドラインが出されている.古くは,ホルマリンガスとして室内の消毒に使用されたことがあるが,現在では,「病室内で消毒薬を噴霧しないこと」が一般的で,毒性の面から消毒薬の室内噴霧は止めるべきである.また,ホルマリンボックスを内視鏡などの滅菌,消毒に使用されている施設があるが,ホルマリンガスはチューブの細い管腔内への浸透性は悪く,表面だけの消毒である.また,ドアの開閉の際にホルマリンガスを吸入あるいは皮膚に浴びたりすることがあるため,非常に危険である.ホルマリンガスによる室内薫蒸やホルマリンボックスの使用は中止すべきである.どうしても使用するのであれば,ガスの発生および中和が自動的に行える装置が必要で,さらにガスが室内に漏れないようにドラフト(換気装置)などがついたところで行い,取り扱う時も防毒マスク,ゴーグルなどの着用が必要である.

[参考文献・資料]

  1. Rutala. W. A.: APIC guideline for selection and use of disinfectants. Am. J. Infect. Control 24: 313-342, 1996
  2. 小林寛伊:院内感染対策の実際改訂4版院内感染対策テキスト(編集:日本感染症学会),p91-111(p94),へるす出版,2000
(H14.3.31)
Q:最近エチレンオキサイドガスの毒性が問題として上げられることが多くなってきている.当院ではエチレンオキサイドガス滅菌装置が近々更新の時期を迎える.そこでお尋ねしたいのは上記問題に鑑み,プラズマ滅菌装置はエチレンオキサイドガス滅菌装置に置き換わっていくものなのか,そこまでいかないとしてもプラズマ滅菌装置を導入をすべきか否か?現在のところEOG滅菌で充分機能しており,新たにプラズマ滅菌装置を導入するスペースの問題が発生する.また聞くところによると現在のプラズマ滅菌装置はあまり大きい装置はないようにも聞いている.どう対処したらよろしいかご教示下さい.

A:

  1. プラズマ滅菌装置が,エチレンオキサイドガス滅菌装置に全て置き換わるとは,現時点では考えられない.滅菌装置にはそれぞれの特徴がある.高圧蒸気滅菌が最も安価で効率も良いが,高圧蒸気滅菌に耐え得ない医療機器の滅菌については,我が国では通常,冷滅菌法としてエチレンオキサイドガス滅菌装置とプラズマ滅菌装置が使用されている.エチレンオキサイド滅菌装置は我が国では広く普及しているが,滅菌時間が長いことと,さらにその急性・慢性毒性が問題になっている.プラズマ滅菌は,毒性がないこと,排ガス処理が不要なこと,据え付けが容易であること(電源のみで稼動します),滅菌時間が短いこと(滅菌時間が機種容量によって異なりますが,最大容量200リットルで60~75分)が利点である.しかし,滅菌不適物があること(特に液体,セルロース),狭腔構造物の滅菌はブースターを使用するなど注意が必要なこと,プラズマ滅菌不能器具があること(プラズマ滅菌で器具が痛みます.しかし,現在,その機種数は極めて少なくなっています),缶体容量が小さいこと(200,100,50リットルの3機種)などが欠点である.従って,冷滅菌法としては,エチレンオキサイドガス滅菌装置とプラズマ滅菌装置が,それぞれの長所を生かして,また欠点を克服しながら当分の間共存することが予想される.ただし,エチレンオキサイドガス滅菌装置については,その発ガン性などのためにごく近い将来,強い規制が国からかかることになるであろう.現在,その規制をどのようなものにするか,検討が進んでいる.
  2. 高圧蒸気滅菌不能器具で,しかもエチレンオキサイド滅菌で間に合わない,高額な器具を,頻回に使用する施設では,プラズマ滅菌装置を導入するメリットがある.従って,その施設で使用する器具の種類,更に実際に医療機器の滅菌に携わる職種の方や手術部,救急部の看護婦の意見を参考に,その施設でのプラズマ装置導入のもたらすメリットを販売会社の協力で調査することを勧める.また,電源のみで使用可能なので,災害の際にも役立つ可能性が指摘されている.しかし,容量が最大200リットルですので,プラズマ滅菌をする対象器具を選定し,高圧蒸気滅菌,エチレンオキサイド滅菌と組み合わせるのが合理的な使用法であろう.設置スペースは,家庭用大型冷蔵庫程度のスペースなので,あまり問題にならないであろう.
(H14.3.31)
Q:当院では現在,定期的に年2回の間隔で全6病棟(350床),外来,薬局,MRSA隔離部屋の落下細菌を調べております.MRSA隔離部屋以外からは常在菌しか検出されませんが,隔離部屋からはMRSAが検出されます.このような細菌の環境汚染の調査は必要でしょうか?
 MRSAの落下細菌調査より接触感染の予防のため保菌者のベッド柵や吸引瓶の培養検査,医療スタッフの手指をふき取ったスワブの培養などのほうが効果があるでしょうか?

A:病室などの病院環境の微生物検査を行う意義として,まず環境微生物が患者さんに感染するかどうか,そして環境微生物検査を行う必要性を示す根拠があるかどうかについて考えてみなければならない.

1.環境から感染する可能性について
 病院において患者を取り巻く「環境」には,病室やベッド,室内整備,医療用水,気流や空気環境及び処置用器材などがある.これらの環境の微生物学的なモニタリングは,環境と感染とのかかわりを十分認識した上で対応しなくてはならない.誤った評価により不適切な殺菌処置や過剰な環境整備が行われることもある.易感染患者が増加している今日,病院内の環境汚染が患者に悪影響を及ぼすことは十分考えられるが,病院感染の多くは接触感染であり,感染防止には患者に直接接触する器材や手指をいかに清潔に保つかがポイントとなる.環境に存在する微生物が患者に感染を起こす要因は,(1)病原微生物が一定量存在し,(2)その菌のビルレンス(感染を起こす能力)が高く,(3)微生物が患者まで達する経路が存在し,(4)なおかつ患者の易感染性(もしくは易感染部位)があるということで,これらの全ての条件がそろってはじめて感染が起きる.このように環境は感染を起こすリスクは低いため,感染経路の遮断を確実に行えば,通常の環境から感染する可能性はない.

2.定期的な環境微生物検査を行うべきではないとする根拠について
 人が生活する空間は無菌ではなく,常に人から飛散する微生物に汚染されてる.また,環境常在菌も数多く存在している.このような環境の調査をして多数のコロニーを全て同定するには多大な費用も必要である.環境から検出される微生物は,周辺に存在する患者自身からの汚染菌である.また環境の汚染状況は常に変化しており,検査手技や検査担当者によっても微生物の検出率が異なり,常に同一条件では比較できない.さらに大切なことは,環境の微生物汚染のレベルと感染症が発症するかどうかのかかわりを数値で表わすことは不可能である.一定の領域にどれだけの微生物が存在すれば感染が起きるかという指標は存在しない1).以上の理由により病室の床はもちろん,移植病室,手術室環境,薬剤部無菌室などの清潔領域においても定期的な環境の微生物学的検索は行いません2),3).ベッド柵や吸引瓶,スタッフの手指検査も,教育目的で行うのであれば問題ない.

3.環境微生物検査が有用な場合とは
 特殊な感染症が発生し,その感染経路を特定するなど,疫学的な調査目的で行う環境微生物検査は非常に大切である.そのほか空調の超高性能フィルタの性能検査,蒸留水造装置の無菌試験などは,装置の劣化や汚染を判断する目的で行われる.薬剤耐性菌の中で,バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は,患者の排泄物によって病院環境が汚染されて感染が拡大することが知られているため,VRE感染患者が増加している施設では,患者の手が日常的に触れる部位(ベッドの枠,ドアノブ,床頭台など)のルーチン検査は必要ないが,疫学的見地から周辺患者の保菌状況や環境からのVRE検出状況を把握することは必要である4)

4.落下細菌検査について
 この検査は空気中の汚染状況を反映しているとはいえません.粗大粒子に付着している菌は早く落下しますが,小さい粒子に付着したものは空中に漂っているだけです.それを落下細菌で検査しても解析はできません.また,開放時間などのスタンダードな条件はありませんので,定期的な検査として行うべきものではありません.

[参考文献・資料]

  1. Mangram AJ. et al: Guideline for prevention of surgical site infection. Infect Control Hosp Epidemiol, 1999; 20: 247-278(大久保憲,小林寛伊訳:CDC手術部位感染防止ガイドライン,手術医学 1999;20:297-326)
  2. Garner JS, Favero MS: Guideline for handwashing and hospital environmental control, 1985. Am J Infect Control 1986; 14: 110-126
  3. 大久保憲:感染防止のための環境モニタリングと環境整備.感染対策ICT実践マニュアル.大阪:メディカ出版2001;98-108
  4. The Hospital Infection Control Practices Advisory Committee (HICPAC): Recommendation for preventing the spread of vancomycin resistance. Morbid Mortal Weekly Rep 1995; 44: RR12.
(H14.3.31)
Q:便CD(クロストリジウム・ディフィシル菌)抗原陽性の下痢症が多発し院内感染が疑われる.その予防法につき,教えていただきたい.
 当院では平成11年までは偽膜性腸炎は年に1~2例しか発生をみていなかったのですが,平成12年夏頃より徐々に増加し,本年4月頃には定員60名の病棟で7名と増加し,その後一時減少していたのですが,10月頃より再び7~8名と増加の傾向にあります.いずれも高齢者や衰弱した患者で,抗生剤投与後に多いのですが,抗生剤を全く投与していなくても発症する例がありました.発病する部屋も重症者が集まる部屋に多い傾向にあります.病室の清掃や看護職員の清潔操作などは,かなり気をつけているつもりでいます(便やオムツの処置には必ずゴム手袋を使用).

 1.院内感染でしょうか?
 2.病室の消毒をすべきでしょうか?
 3.消毒する時の薬剤は?
 4.職員の気をつける点は?
 5.患者の隔離の必要性は?

A:

  1. 院内感染だと思います.
     “便CD抗原陽性の下痢症”と記載されているので間違いないとは思われるが,念のため診断法(検査法)について確認して戴きたい.
    1)CDチェックD-1検査を用いる場合
     CDチェックD-1検査はディフィシル菌以外のクロストリジウム属菌にも一部交差反応(偽陽性)を示す.また,粘液性の高い糞便では非特異反応(偽陽性)を示すことがあるので,判定には注意が必要である.陽性結果が疑わしい場合には,便性状(ディフィシル下痢症の場合は悪臭を有する粘液性便のことが多い)および糞便のグラム染色(芽胞を有するぐラム陽性大桿菌が多数存在,白血球が認められることが多い)を実施し,同時に細菌培養にてMRSAやカンジダなどが検出されないことを確認する.
    2)ToxinA検出キットを用いる場合
     ToxinA検出キットは特異性の高い検査法なので,下痢便を対象に実施する場合には信頼性の高い結果が得られる.
  2. 通常は1日2回程度の十分な湿式清拭が行われている場合,病室等の消毒は不要である.しかし,貴施設のようにアウトブレイクが疑われる場合,または終息しない場合には,下痢症の患者の病室(床・ベッド柵・ドアノブ)および共同使用のトイレ(ドアノブ・蛇口・便器)や浴室(浴槽・ドアノブ)などの消毒が必要となる.なお,消毒剤としては,0.05~0.5%次亜塩素酸ナトリウムが有効とされている.
  3. C.difficile感染症の予防対策としては,(1)保菌させない,(2)発症させない,(3)伝播させないことが重要である.
    1)保菌させないためには?
     ディフィシル菌は芽胞を形成するため,一旦病院環境を汚染すると長期間に渡って生息することが可能で病院の便所や廊下などからも検出されることがある.実際に入院患者がどのような経路でディフィシル菌を獲得(保菌)するのかについては現在も不明な点が多いが,主に手指を介して環境あるいは保菌者(感染者)から伝播するものと考えられている.1週間以上の入院患者では10~20%が保菌し,入院日数が長くなる程保菌率が高くなる傾向にあります.米国の報告では,入院日数1~2週間で保菌率約15%,2~3週間で20~30%,4週以上では50%が保菌するという論文もある.実際に入院患者の保菌を阻止するためには,標準予防策の徹底(患者毎に十分な手洗いを実施,生体物質に触れる場合には手袋着用)が必要である.また,同時に患者にも手洗いを実施して頂かなければ阻止できない.医療従事者はディフィシル菌が病院環境に広く生息していることを認識し,手洗いを励行することが大切である.また,肛門体温計や消化管内視鏡などを介して伝播する例も報告されているので,汚染継続中は,使い捨て体温計の使用や,内視鏡の消毒(2%グルタールアルデヒドに10分間以上浸漬)を徹底する必要がある.
    2)発症させないためには?
     ディフィシル下痢症は抗生剤(特にセファロスポリン系薬剤,クリンダマイシン,ニューキノロン系薬剤等の経口投与薬剤)により誘発されることが多いため,不要な投薬や1週間をこえる長期投与は制限する必要がある.ただし,原疾患の治療上抗生剤長期投与が必要な場合や,抗癌剤・免疫抑制剤(これらの薬剤によっても誘発されることがあります)を使用している場合には使用制限が困難なケースが多いので,この場合は下痢症の有無(便量増加:200g/1日以上,回数増加,便性状:軟性化・水様性化)に十分注意を払い,定期的なモニタリング検査を実施することが発症防止に効果的である.
    3)伝播させないためには?(患者の隔離の必要性について)
     発症した患者の収容は,個室が使用可能であれば下痢症発症期間中は個室管理をお勧めする.一方,個室管理が不可能な場合は,同様な症状を有する患者を1室に収容し手洗いと病室消毒を徹底する.特に発症患者の分泌物・排泄物を取り扱う前には必ず手袋を着用し作業終了後に必ず手洗いを励行する.また,汚物による汚染が認められた場合にも即座に手洗いと消毒を実施する.スタッフの手袋の着用については,患者の誤解を招くことのないようにあらかじめ紙面にて丁寧に説明しておくことが大切である.

 以上のように,ディフィシル菌は伝播経路が不明なことが多いため,入院患者の保菌を完全に阻止することは容易ではない.従って,上述したようは保菌・発症・伝播における多様な対策が必要となる.

(H14.3.31)
Q:当院では,未だICU入室に対して,医師・看護婦が,マスク,帽子,ガウンの着用を行っています.実際の他病院での状況(アンケート調査等)についてお教え下さい.

A:集中治療室(ICU)における感染防止のガイドラインは存在しませんので,米国Centers for Disease Control and Prevention(CDC)から出された「手術部位感染(surgical site infection:SSI)防止ガイドライン」1,2)と日本の「造血細胞移植ガイドライン」3)などを参考にして解説する.
 「SSI防止ガイドライン」によれば,スタッフの毛髪や露出した皮膚および粘膜から微生物が落下するが4,5),手術時の服装とSSIの関係をしらべたコントロールスタディはほとんどない.しかし,手術中では会話による口からの飛沫感染を防止し,さらに皮膚や,毛髪をさらすことをできるだけ減らし,またスタッフを血液汚染から保護するためにもマスク,キャップ,手術着(スクラッブスーツ)の着用は有用である.マスク着用のSSI低減への有効性と費用効果について問題を提起した研究もある6)
 従って,手術中の部屋に入る時もしくは滅菌器機が展開されている時は手術用マスクを着用する.キャップについては手術中はもちろん,手術が行なわれていない時でも手術室に入る場合に着用する.
 一方,骨髄移植における日本のガイドラインでは,移植患者を収容する病室の空調が規定どおり(HEPAフィルタの設置,laminar air flow方式で管理,部屋が持続的に陽圧)となっている前提で,キャップ,マスク,スリッパの履き替えは感染対策上有効性が認められないため推奨していない.
 以上の諸ガイドラインおよび文献から判断して,ICUでのマスクは,基本的には血液,その他の感染性湿性生体物質の飛沫などがスタッフの鼻や口を汚染する可能性のある処置を行なう場合に飛沫予防策として着用する.さらにアイ・プロテクションやフェイス・シールドもパーソナル防護装備(personal protective equipment,PPE)として有効です.空気感染予防の目的ではタイプN95微粒子用マスクを着用します.それ以外の日常の状況ではマスクは不要である7)
 ガウン(清潔な非滅菌ガウン)については,直接または間接的に接触感染する病原体の伝播を防止するために使用する.患者ケアにおいてスタッフの皮膚や衣服が汚染される可能性の高い場合に,汚染を防ぐ目的でガウンは有効である.したがって日常的にICUに入室するたびにガウンテクニックを行なう必要はない.多剤耐性菌感染患者(MRSAやVRE感染患者など)と濃厚に接触する場合にはガウンを着用し,使用したガウンはその都度洗濯に出すか廃棄すること.アルコール噴霧や紫外線照射などの処理にてガウンを使い回ししてはいけない.湿性生体物質による汚染を最小限にする目的において,プラスチックエプロンの着用も有用である.
 キャップはICUにおいて特に感染防止との関わりは論じられていないし,感染対策上での有効性は認められていないので,入室毎にキャップを着用することは推奨されていない.しかし,手術室と同様に環境汚染を少なくする意味と飛沫汚染から頭髪を保護する意味で着用することは問題ない.
 結論として,ICUでのマスク,キャップ,ガウンの着用は日常的には必要ないが,飛沫汚染や接触感染防止の目的で必要な場合には着用する.

[文献]

  1. Mangram AJ. et al: Guideline for Prevention of Surgical SiteInfection.
    Infect Control Hosp Epidemiol 1999; 20: 247-278.
  2. 大久保憲,小林寛伊(訳):手術部位感染防止ガイドライン,1999.手術医学 1999;20:297-326.
  3. 日本造血細胞移植学会:造血細胞移植ガイドライン─移植後早期の感染管理─.2000年10月
  4. Dineen P, DrusinL: Epidemics of postoperative wound infections associated with hair carriers.
    Lancet 1973; 2 (7839): 1157-1159.
  5. Hardin WD, Nichols RL: Aseptic technique in the operating room. In: Fry DE, ed. Surgical Infections. Boston: Little, Brown and Co; 1995. p/109-118.
  6. Tunevall TG, Jarbeck H: Influence of wearing masks on the density of airborne bacteria in the vicinity of the surgical wound. Eur J Surg 1992; 158: 263-266.
  7. Garner JS: Guideline for isolation precautions in hospitals. Hosp Infect Control Practices Advisory Committee. Infect Control Hosp Epidemiol 1996; 17: 53-80.
(H14.3.31)
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