日本感染症学会

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一般社団法人日本感染症学会 提言 2022-2023年シーズンのインフルエンザ対策について(一般の方々へ)

最終更新日:2022年8月9日

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一般社団法人日本感染症学会 提言 2022-2023年シーズンのインフルエンザ対策について(一般の方々へ)

 新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19と略します)は、2022年7月24日の時点で、全世界で累計5億6964万人以上の感染者と638万人以上の死亡が報告されています1)。また、我が国における感染者と死亡者は、2022年7月19日時点で、それぞれ1014万1,894名と3万1,663名となっており2)、すでに第7波の最中にあります。
 一方、インフルエンザについては、国内でCOVID-19の流行が始まった2020年2月以降、患者報告数は急速に減少し、2020-2021年シーズンおよび2021-2022年シーズンの現在まで、インフルエンザウイルス検出の報告はほとんど見られておらず3)、危惧されていたCOVID-19とインフルエンザの同時流行もありませんでした。これは、COVID-19対策として普及した手指衛生やマスク着用、3密回避、国際的な人の移動の制限等の感染対策がインフルエンザの感染予防についても効果的であったためと考えられます。しかしながら、2021年後半から2022年前半にかけて、北半球の多くの国ではインフルエンザの小ないし中規模の流行がみられています4)
 以上のことから、当委員会では、今季のインフルエンザ対策について、以下の見解を述べたいと思います。

<内容>
1. 2022-2023年シーズンは、インフルエンザの流行の可能性が大きいです
2. A香港型の流行が予想されます
3. 今季もインフルエンザワクチン接種を推奨します
4. ワクチン接種が是非必要な人
5. 例年通りのインフルエンザ対策が必要です
参考文献

1. 2022-2023年シーズンは、インフルエンザの流行の可能性が大きいです

 北半球の冬季のインフルエンザ流行の予測をするうえで、南半球の状況は参考になります。オーストラリア政府は定期的にインフルエンザの発症状況を報告しています5)が、2020年および2021年は、わが国同様、インフルエンザ患者は極めて少数でした。しかしながら、2022年は4月後半から報告数が増加し、例年を超えるレベルの患者数となっており、医療の逼迫が問題となっています。今後、海外からの入国が緩和され人的交流が増加すれば、国内へウイルスも持ち込まれると考えられ、わが国においても、今秋から冬には、同様の流行が起こる可能性があります。
 一方、過去2年間、国内での流行がなかったために、社会全体のインフルエンザに対する集団免疫が低下していると考えられます。そのため、一旦感染がおこると、特に小児を中心に社会全体として大きな流行となるおそれがあります。
 このようななかで、6月22日、東京都内の小学校において、2年3か月ぶりにインフルエンザによる学年閉鎖が発表されました6)。冬季のシーズンに入る前に、このような季節外れの流行が起こる可能性もあります。

2. A香港型の流行が予想されます

 2021-2022年には、欧米では、インフルエンザウイルスのタイプのうち、主としてA香港型と呼ばれるウイルスによる流行がみられています。中国でも、今年になってA香港型が増加しています4)。また、オーストラリアで本年度に検出されたインフルエンザウイルスの型が判明したもののうち、約80%がA香港型でした。そのため、今シーズンは、わが国でもA香港型の流行が主体となる可能性があります。A香港型が流行すると、インフルエンザによる死亡や入院が増加することが知られているので、特に警戒が必要となります。

3. 今季もインフルエンザワクチン接種を推奨します

 インフルエンザワクチンには、4種類(A型2種類、B型2種類)のウイルス型が含まれており、A香港型もそのうちの一つです。一般に、ワクチンは、発症予防効果とともに重症化防止効果が期待できます。欧州からの報告では、65歳以上の高齢者において、ワクチンを接種した場合は、接種しなかった場合に比べて、A香港型感染による入院を抑制したと報告されています。
 また、わが国においてはCOVID-19の発症者は再増加が続いています。そのような中で、ワクチンで予防できる疾患についてはできるだけ接種を行い、医療機関への受診を抑制して医療現場の負担を軽減することも重要です。
 よって、当委員会は、今季も例年通りに、小児、妊婦も含めて、接種できない特別な理由のある方を除き出来るだけ多くの方に、インフルエンザワクチンの積極的な接種を推奨します。

4. ワクチン接種が是非必要な人

 ワクチン接種が是非必要な人は、65歳以上の高齢者、5歳未満のお子さん、そして年齢には関係なく、心臓や肺などに慢性の持病のある方、悪性腫瘍で治療中の方、高度の肥満の方です。また、これらの方と一緒に生活されておられる方、学校や職場で人との接触の多い方も積極的に受けて頂きたいと思います。
 65歳以上の高齢の方は、インフルエンザから肺炎を起こすリスクが高いので、是非ワクチンの接種を受けて下さい。忘れてはいけないのが、小さなお子さんです。インフルエンザが流行すると、たくさんのお子さんが高熱を出して、救急外来を受診します。中には、気管支炎、肺炎、熱性痙攣などで入院することもあり、稀にインフルエンザ脳症をおこすこともあります。最近2年間、インフルエンザが流行しなかったので、特に小さなお子さんでは免疫が低下していると思われ、ワクチン接種はとても重要となります。

5. 例年通りのインフルエンザ対策が必要です

 今季は、発熱された患者さんでは、ワクチン接種歴に関わらずCOVID-19とインフルエンザを見分けることが重要となります。また両者が合併して重症になる場合もあります。したがって、発熱者では両方のウイルスに対する検査が必要となることがありますので、医療機関の受診をお勧めします。
 インフルエンザと診断されたときは、抗ウイルス薬による治療を検討することとなります。抗ウイルス薬は、インフルエンザの重症化、死亡を抑制します。高齢者、小さなお子さんなど重症化のリスクのある方は当然治療の対象となりますが、リスクを持たない健康な人でも重症化することはあり、その予測は困難です。
 インフルエンザに対しては、他の呼吸器感染症と同様に、一般的な予防も大切です。手洗い、マスク、咳エチケットを普段から心がけることが重要です7)
 わが国のインフルエンザ診療は、早期診断、早期治療の体制が確立しており、世界の中でも進んだ国の一つと言えます。国民全体が、従来通りのインフルエンザ対策を行っていただきたいと思います。

参考文献

  1. Johns Hopkins Coronavirus Resource Center. COVID-19 Map
    https://coronavirus.jhu.edu/map.html
  2. 厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症国内発生動向
    https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html
  3. 国立感染症研究所. 週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数.
    https://nesid4g.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data2j.pdf
  4. World Health Organization. FluNet.
    https://www.who.int/tools/flunet
  5. Australian Government Department of Health. Australian influenza surveillance report No. 07, 2022.
    https://www1.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/8475D410D4090874CA2588780083317A/$File/flu-07-2022.pdf
  6. 東京都教育委員会. 都内公立学校のインフルエンザによる学年閉鎖について.
    https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/press/press_release/2022/release20220622_02.html
  7. 日本呼吸器学会. ストップ!肺炎(一般用).
    https://www.jrs.or.jp/activities/guidelines/file/stop_pneumonia_2021.pdf

2022年7月24日

一般社団法人日本感染症学会 インフルエンザ委員会
青木洋介、川名明彦、國島広之、佐藤晶論、新庄正宜、菅谷憲夫、関 雅文、永井英明、
廣津伸夫、藤田次郎、三鴨廣繁、石田 直(委員長)

利益相反自己申告
青木洋介はMSD(株)、塩野義製薬(株)、ファイザー(株)から講演料を受けている。
青木洋介は塩野義製薬(株)から奨学(奨励)寄附金を受けている。
國島広之はアステラス製薬(株)、MSD(株)、塩野義製薬(株)、ミヤリサン製薬(株)から講演料を受けている。
菅谷憲夫は第一三共(株)から講演料を受けている。
関 雅文はMSD(株)、杏林製薬(株)、サノフィ(株)、塩野義製薬(株)、第一三共(株)、大正製薬(株)、大日本住友製薬(株)、ファイザー(株)、Meiji Seikaファルマ(株)から講演料を受けている。
永井英明は塩野義製薬(株)から講演料を受けている。
廣津伸夫は塩野義製薬(株)から講演料を受けている。
藤田次郎は杏林製薬(株)、ギリアド・サイエンシズ(株)、塩野義製薬(株)、第一三共(株)、ファイザー(株)、日本ベーリンガーインゲルハイム(株)から講演料を受けている。
藤田次郎は大塚製薬(株)から奨学(奨励)寄附金を受けている。
三鴨廣繁はアステラス製薬(株)、MSD(株)、杏林製薬(株)、ギリアド・サイエンシズ(株)、グラクソ・スミスクライン(株)、興和(株)サノフィ(株)、サラヤ(株)、塩野義製薬(株)、第一三共(株)、大日本住友製薬(株)、(株)ツムラ、日本ベクトン・ディッキンソン(株)、ファイザー(株)、(株)フコク、富士フイルム富山化学工業(株)、ミヤリサン製薬(株)、Meiji Seikaファルマ(株)から講演料を受けている。
三鴨廣繁はあすか製薬(株)、アボットダイアグノスティクスメディカル(株)、オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス(株)、杏林製薬(株)サラヤ(株)、積水メディカル(株)、東ソー(株)、ファイザー(株)、(株)フコク、ブルカージャパン(株)、ミヤリサン製薬(株)、Meiji Seikaファルマ(株)、ロシュ・ダイアグノスティクス(株)から研究費を受けている。
三鴨廣繁は旭化成ファーマ(株)、塩野義製薬(株)、第一三共(株)、大日本住友製薬(株)、(株)フコク、富士フイルム富山化学工業(株)、(株)モリイから奨学(奨励)寄附金を受けている。
石田 直は杏林製薬(株)、塩野義製薬(株)から講演料を受けている。
川名明彦、佐藤晶論、新庄正宜については申告すべきものなし。

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