65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第4版 2023年3月24日)
目次
1)はじめに
2)PPSV23による定期予防接種
3)PCV13およびPCV15の位置づけ
4)PCV13/PCV15-PPSV23連続接種
5)PPSV23とPCV13/PCV15の連続接種時の接種間隔
6)定期予防接種を中心とした肺炎球菌ワクチン接種
7)ハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種
8)おわりに
1)はじめに
2014年10月1日から23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23; ニューモバックスⓇNP)の65歳以上の成人を対象とした予防接種法に基づく定期接種(B類疾病)が開始され、65歳の者及び60歳以上65歳未満で日常生活が極度に制限される程度の基礎疾患を有する者を対象に、PPSV23を1回接種とすることとなった。また、2014年10月~2019年3月までの5年間の経過措置として、各年度に65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳および100歳となる者を接種対象とした。その後、2019年1月10日に開催された第27回厚生労働省予防接種・ワクチン分科会基本方針部会において、2019年度以降も5年間の経過措置を継続することが決定された1)。
これまでに日本呼吸器学会ワクチン検討WG委員会及び日本感染症学会ワクチン委員会はその合同委員会を組織し、「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」(以下、「考え方」とする)を実地臨床医家に対し公表してきた(2015年1月に第1版、2017年10月に第2版、2019年10月に第3版)。今回、国内で成人を対象とした沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV15; バクニュバンスⓇ)が2022年9月に販売承認されたことを受け、「考え方」第4版を公表する。
2)PPSV23による定期予防接種
1. ワクチン効果
65歳以上を対象とするPPSV23による定期接種が開始されてから8年が経過し、この間にPPSV23の効果に関する複数のエビデンスが報告されている。
「考え方」第3版において、65歳以上の高齢者における市中発症肺炎を対象とし、Test-negative designを用いた多施設、前向き共同研究でのPPSV23ワクチン効果の推定値が報告された。PPSV23接種によるすべての肺炎球菌性肺炎に対する効果は27.4%、ワクチン血清型の肺炎球菌性肺炎は33.5%であった2)。
厚生労働省研究班では、成人の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)サーベイランスデータ(2013~2017年)をBroome’s法で解析し、PPSV23接種によるワクチン効果を検討した。その結果、PPSV23含有血清型によるIPDに対する予防効果は42.2%であり、PPSV23-非PCV13血清型に対する効果は44.5%であった3)。年代別解析では65歳以上では39.2%、20~64歳では59%であった。PPSV23接種は65歳以上のIPDに対して中等度の予防効果を示すことが明らかになった。
2.原因菌のワクチンカバー率
前述の厚生労働省研究班において、2013~19年の成人IPDサーベイランスデータを用いて65歳以上の原因菌血清型の解析を行った。その結果、PCV13-非PCV7型血清型の割合は有意に減少したのに対し、PPSV23-非PCV13血清型の割合には有意な変化が認められなかった4)。PCV13-非PCV7型血清型の有意な減少については、小児のPCV13の定期接種導入に伴う間接効果によると考えられた。また、2014年から実施された65歳以上を対象としたPPSV23による定期接種によって、実質的な同年代のIPD症例の減少は認められていないと考えられた。この所見に関して、定期接種率の低下を含めた複数の要因の関与が推察されている4)。また、本調査における65歳以上のIPDの原因菌の2018~2019年におけるPCV13、PCV15の血清型の割合は30%、38%であった。
また、同研究班はCOVID-19流行後の成人IPDの罹患率と臨床像の変化についても解析した5)。COVID-19流行前(2017~19年)と比較して、流行後にはIPD罹患率は58%の減少が認められた。血清型、年齢による罹患率の減少の違いは認められなかった。また、COVID-19流行前(5.3%)に比べIPD発症10日以内にインフルエンザを併発した頻度(1.2%)が有意に減少した。臨床像では菌血症を伴う肺炎が有意に減少し、一方、巣症状を伴わない菌血症が有意に増加した。このようなCOVID-19流行後のIPDの罹患率の顕著な減少は、COVID-19対策としての医薬品以外による対策(対人距離の確保、マスク着用等の国民の行動変容)が影響した可能性が考えられる。また、流行後の2020/21・2021/22シーズンにはインフルエンザ流行が認められなかったことから、インフルエンザ後の二次感染に伴うIPD罹患率の減少も一因となった可能性が考えられた。
次に、2011~2020年に実施された肺炎球菌性肺炎の国内多施設共同研究において、65歳以上の肺炎球菌性肺炎の原因菌のPCV13血清型の割合は、2011~14年の55.5%から2016~20年の32.2%に減少したことが報告されている6)。著者等は、この減少は小児定期接種へのPCV13導入によると結論している。また、2018~20年の65歳以上の肺炎球菌性肺炎の原因菌のPCV13、PCV15血清型の割合はそれぞれ38.5%、43.3%であった。一方、同期間のPPSV23-非PCV13血清型は18.4%(2011~14年)から12.7%(2016~20年)と有意な変化は認められなかった。
3)PCV13およびPCV15の位置づけ
1.ワクチン効果、安全性
2013年6月にPCV13は5歳未満の小児に対して製造販売承認され、その後、2014年6月に接種適応年齢が65歳以上に拡大された。これまでの国内外の報告から、65歳以上の成人に対するPCV13の安全性はPPSV23とほぼ同等、またPCV13の免疫原性は同等もしくはPPSV23より優れていると考えられた7-9)。また、オランダで実施された65歳以上を対象としたプラセボ対照二重盲検比較(CAPiTA)試験において、PCV13はワクチン血清型による市中肺炎を45.6%予防し、ワクチン血清型による菌血症を伴わない市中肺炎を45.0%予防し、ワクチン血清型によるIPDを75.0%予防したと報告された10)。
一方、2022年9月に国内で製造販売承認されたPCV15に関して、肺炎球菌ワクチン未接種の50歳以上を対象とし、PCV15とPCV13の安全性と免疫原性を比較した第3相、多施設プラセボ対照二重盲検比較試験が日本を含む複数国で実施された11)。その結果、両ワクチンの有害事象は注射部位の疼痛、易疲労感と筋肉痛であり、PCV15はPCV13に対し非劣性を示した。免疫原性(オプソニン活性、IgG抗体)に関しては、PCV15はPCV13に対して、共通する13血清型については非劣性を示した。一方、PCV15はPCV13の含有血清型に22F、33Fの2血清型が追加されているため、PCV15はPCV13に対し、22F、33Fの2血清型に関して優位性を示した。さらに、PCV15はPCV13に対し、血清型3に対しても優位性が示された。また、日本における65歳以上を対象としたサブグループ解析においても、同様の安全性と免疫原性の結果が報告された12)。
2.原因菌のワクチンカバー率
2013~19年の成人IPDサーベイランス(厚生労働省研究班)における原因菌1,995株の解析では、2013~15年、2016~17年、2018~19年の3期間のPCV13およびPCV15の血清型カバー率の推移はPCV13で47%、36%、30%、PCV15で60%、46%、38%であった4)。また、成人IPDサーベイランスにおける2022年のPCV13およびPCV15の血清型カバー率は26%、29%であった13)。一方、前述の肺炎球菌性肺炎の国内多施設共同研究において、2011~14年、2016~17、2018~20年の3期間のPCV13およびPCV15の血清型カバー率は、PCV13で52.7%、30.4%、38.5%、PCV15で55.8%、34.5%、43.3%であった6)。
以上のように、PCV13とPCV15は安全性、免疫原性、ワクチンカバー率において大きな違いはないことから、PCV13とPCV15はほぼ同等と考えられた。
4)PCV13/PCV15-PPSV23連続接種
PCV13-PPSV23の連続接種の利点は、成人ではPCV13接種後に、被接種者に13血清型ワクチン血清型特異的なメモリーB細胞が誘導され、その後のPPSV23接種によって両ワクチンに共通な12血清型に対する特異抗体のブースター効果が期待されることである14)。
2022年1月に米国CDCは65歳以上の全ての成人、PCVを未接種あるいは接種歴が不明で19~64歳の慢性疾病のある成人に対してPCV15-PPSV23の連続接種を推奨した15)。これまでの研究成績からは、PCV-PPSV23の接種間隔が長い場合に免疫応答が高まることが示唆されている7)。
最近、国内の65歳以上を対象とし、PCV13-PPSV23の連続接種の間隔が半年と1年の場合のPPSV23接種後の抗体応答の違いが報告された16)。本研究では、両ワクチンに共通する12血清型のうち8血清型の抗体を測定した。その結果、1年間隔の連続接種が8血清型の全てで、顕著にオプソニン活性が増加し、半年間隔では4血清型でのみ増加した。ワクチン関連の有害事象は注射部位の疼痛と腫脹であり大半は2~3日で軽快した。ワクチン接種に関連する死亡を含む重篤な事象は認められなかった。また、半年および1年の接種間隔による有害事象の頻度の違いは認められなかった。PCV13-PPSV23の連続接種では、半年より1年の接種間隔のほうが、より高いブースター効果を獲得できることが示唆された。
また、肺炎球菌ワクチン未接種の50歳以上を対象として、PCV15-PPSV23とPCV13-PPSV23の連続接種(接種間隔は12ヵ月)の安全性と免疫原性に関する無作為比較試験が実施された17)。本試験において、ワクチン接種後の最も頻度の高い有害事象としては接種部位の疼痛であった。重度の有害事象は稀であり、ワクチン関連死も認められなかった。PCV15-PPSV23群とPCV13-PPSV23群間のワクチン接種30日後と12ヵ月後の抗体応答は共通する13血清型については同等で、PCV15に特異的な血清型(22F、33F)ではPCV15-PPSV23群が高かった。50歳以上の健常者におけるPCV15-PPSV23連続接種の認容性が認められ、連続接種後の抗体応答もPCV13-PPSV23と同等であったと結論されている。
さらに、最近、韓国から65歳以上の肺炎球菌ワクチン未接種者におけるPCV13-PPSV23連続接種の肺炎球菌性肺炎に対する有効性が報告された18)。多施設前向きtest-negative designによる研究が1,525例の市中肺炎の入院例を対象に実施され、167例の肺炎球菌性肺炎が検出された。65歳以上の肺炎球菌性肺炎に対するPCV13、PPSV23の調整後のワクチン効果は40%、11%であったのに対し、65~74歳の肺炎球菌性肺炎に対するPCV13-PPSV23の連続接種による調整後のワクチン効果は80.3%と高かった。本研究はPCV-PPSV23の連続接種によるリアルワールドにおけるワクチン効果を示した最初の研究であるが、75歳以上に対していかにしてワクチン効果を高めるかについて研究が必要と結論されている。
5)PPSV23とPCV13/PCV15の連続接種時の接種間隔
①PPSV23の再接種間隔
PPSV23接種後5年以上の間隔をおいてPPSV23を再接種することが可能である19)。
②PCV13/PCV15接種後のPPSV23の接種間隔
PCV13/PCV15とPPSV23の接種間隔については、その安全性と両ワクチンに共通な血清型特異抗体のブースター効果が確認されている1年から4年以内に行うことが推奨される16,20,21)。
③PPSV23接種後のPCV13/PCV15の接種間隔
PPSV23接種後のPCV13/PCV15接種について、PCV13/PCV15接種によって先行するPPSV23接種後以上の免疫応答は得られないものの、1年の間隔が保たれれば、その安全性には問題が無いことが確認されている20)。
6)定期予防接種を中心とした肺炎球菌ワクチン接種
2023年度の接種について(図)
1.PPSV23未接種者について
a. PPSV23の定期接種
PPSV23未接種で、令和5年度に65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳の成人は、PPSV23の定期接種の対象となる。PPSV23接種後5年以上の間隔でPPSV23の再接種19)、もしくは1年以上の間隔でPCV13/PCV15-PPSV23の連続接種をすることも考えられる20)。PCV13/PCV15とPPSV23の接種間隔については、1年から4年が適切と考えられる16,20,21)。
b. PPSV23の任意接種
PPSV23未接種で、当該年の定期接種対象でない65歳以上の成人は、PPSV23を任意接種として接種できる。自治体によっては、65歳以上の成人に公費助成を行っている。PPSV23接種後5年以上の間隔をおいてPPSV23の再接種19)、もしくは1年以上の間隔をおいてPCV13-PPSV23の連続接種をすることも考えられる20)。PCV13/PCV15とPPSV23の接種間隔については、1年から4年が適切と考えられる16,20,21)。この場合もPPSV23の再接種間隔は5年以上が必要である。
c. PCV13/PCV15の任意接種
PPSV23未接種で、2023年度の定期接種対象者については、PCV13/PCV15の任意接種を終了し、その1~4年後にPPSV23の定期接種あるいはPPSV23の任意接種を受けることが望ましい。PCV13/PCV15接種後にPPSV23を接種する場合には、1年から4年が適切と考えられる16,20,21)。
2.PPSV23既接種者について
PPSV23既接種者は定期接種の対象外となる。PPSV23接種後5年以上の間隔をおいてPPSV23の再接種19)、もしくはPPSV23接種後1年以上の間隔をおいてPCV13/PCV15の接種をすることも考えられる20)。PCV13/PCV15接種後にPPSV23を再接種する場合には、1年から4年が適切と考えられる16,20,21)。この場合もPPSV23の再接種間隔は5年以上が必要である。
7)ハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種
国内で2013~19年に実施した成人IPDサーベイランスにおいて、総患者数1,995例中、65歳以上のIPD患者は1,382例(69.2%)であった。このうち基礎疾患のあるIPD患者は659例(47.7%)、免疫不全状態のあるIPD患者は450例(32.6%)であった4)。表に65歳以上のIPD患者の基礎疾患別、免疫不全状態別の頻度を示した。基礎疾患では頻度の高い順に糖尿病、慢性心疾患、アルコール依存症、慢性肺疾患、慢性肝疾患であった。免疫不全状態では頻度の高い順に、固形癌、ステロイド療法、抗がん剤治療、慢性腎疾患・透析、自己免疫性疾患、機能的・解剖学的無脾症、免疫抑制剤治療、生物学的製剤治療、血液幹細胞移植後等が続いた。これらのIPDで頻度の高い基礎疾患や免疫不全状態を有する者は肺炎球菌感染症のハイリスク者と考えられる。
これらの基礎疾患のある患者はその重症度に応じてPCV13/PCV15-PPSV23による連続接種を検討することが望ましい。また、免疫不全状態のある患者はPCV13/PCV15-PPSV23による連続接種が推奨される。また、これらのハイリスク者においては、その感染リスクを考慮してPCV13/PCV15接種後1年以内のPPSV23接種を検討することも考えられる22)。これらのハイリスク者の病態の詳細については、本合同委員会で公表した「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方」を参照のこと23)。
表.65歳以上の基礎疾患および免疫不全状態別のIPD症例数と割合
疾患名* | 症例数(%) |
---|---|
基礎疾患あり | 659(47.7) |
糖尿病 | 233(16.9) |
慢性肺疾患 | 206(14.9) |
アルコール依存症 | 201(14.5) |
慢性心疾患 | 192(13.9) |
慢性肝疾患 | 44(3.2) |
免疫不全あり | 450(32.6) |
固形がん | 154(11.1) |
ステロイド療法 | 106(7.7) |
抗がん剤治療 | 105(7.6) |
慢性腎疾患・透析 | 93(6.7) |
自己免疫性疾患 | 85(6.2) |
機能的・解剖的無脾症 | 35(2.5) |
免疫抑制剤治療 | 27(2.0) |
生物学的製剤治療 | 13(0.9) |
血液幹細胞移植後 | 3(0.2) |
*1症例あたりの疾患名に重複あり、**総症例数n=1,382(文献4より改変)
8)おわりに
2022年9月に成人を対象としたPCV15が販売承認されたことを受け、本合同委員会は「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチンに関する考え方」をアップデートした。また、基礎疾患および免疫不全を有するハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種についても触れた。この「考え方」第4版は2023年度末までの5年経過措置に対応しており、本稿が実地臨床医家の65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種の参考になれば幸いである。
(参考資料)合同委員会の見解
1.第1版の「考え方」における見解(2015年1月)
65歳以上の成人に対するPCV13の免疫原性、安全性に関する国内・国外のデータは認められるが7-9)、臨床効果の成績はオランダにおける一報のみである10)。また、2014年当時はその費用対効果の解析も未実施であった。このため、合同委員会としては、現時点では65歳以上の成人におけるPCV13を含む肺炎球菌ワクチンのエビデンスに基づく指針を提示することは困難と判断した。また、2014年9月に米国ACIPは成人のPCV13-PPSV23連続接種の65歳以上の成人に対する推奨について発表した。尚、この65歳以上の成人に対するPCV13の推奨については2018年に再評価するとされていた。一方、米国でPCV13を定期接種とする根拠となった65歳以上の成人に対するPCV13の臨床効果、費用対効果の推定については、米国における65歳以上の成人における侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)、肺炎球菌性肺炎の罹患率、原因血清型の分布等が利用されたと考えられる。しかしながら、わが国の成人におけるPCV13の背景は、小児におけるPCV7/PCV13の導入時期の違い等から、米国における背景とは異なると考えられる。このため、2015年1月の時点で合同委員会はわが国の肺炎球菌ワクチンに関する考え方に、米国ACIPのPCV13接種を含む推奨内容を全面的には取り入れるべきではないと判断した。一方、本合同委員会としては、わが国の実地臨床医家に対してPCV13接種の可能な選択肢を示すことが必要であるが、日本独自の臨床的、医療経済的エビデンスは確定していないため、主に安全性の観点から「65歳以上の成人における肺炎球菌ワクチン接種の考え方」として提示することとした。
2. 第2版の「考え方」における見解(2017年10月)
2017年10月時点で、第1版の「考え方」を公開(2014年9月)後の65歳以上の成人に対するPCV13の臨床効果に関する追加情報はない。わが国の成人におけるIPD原因菌及び65歳以上の成人の肺炎球菌性肺炎の原因菌のPCV13とPPSV23による血清型カバー率はいずれも不変またはやや減少傾向である。米国CDCが示した65歳以上の成人に対するPCV13追加接種の費用対効果の妥当性に関して、2014年時点での検討には、PCV13による小児定期接種導入の集団免疫効果(65歳以上の成人における肺炎球菌性肺炎患者数の減少)並びにPPSV23の65歳以上の成人における肺炎球菌性肺炎に対するワクチン効果(直接効果)が反映されていない。
以上より、本合同委員会としては、2017年10月時点においても米国ACIPのPCV13-PPSV23連続接種の推奨を全面的には受け入れるべきではないと結論した。
3.第3版の「考え方」における見解(2019年10月)
2018年度の厚生科学審議会予防接種ワクチン分科会において、65歳以上の成人に対してPPSV23による定期接種を継続し、2014~2018年度に実施した5年経過措置を引き続き2019~2023年度に実施することを決定した。また、同分科会は65歳以上の成人に対する定期接種としてはPCV13を位置づけないことを決定した。
一方、2019年6月に開催された米国ACIP会議において、65歳以上の成人に対するPCV13-PPSV23の連続接種は推奨されなかった。また、今回の米国ACIP会議資料にはPCV13-PPSV23の妥当性を示すデータは確認できなかったものの24)、合同委員会はPCV13-PPSV23連続接種の考え方自体が否定された訳ではないと考える。
このような背景から、合同委員会としては第3版の「考え方」において、第2版の「考え方」に引き続き、定期接種対象者がPPSV23の定期接種を受けられるよう接種スケジュールを決定することを推奨する。また、65歳以上の成人に対し、PCV13を接種後にPPSV23接種(定期接種もしくは任意接種)を受ける連続接種スケジュールについても可能な選択肢とする。
(参考文献)
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(https://www.cdc.gov/vaccines/acip/meetings/live-mtg-2019-06.html)
令和5年3月24日
日本呼吸器学会 感染症・結核学術部会ワクチンWG/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン学会・合同委員会
(大石和徳*、西 順一郎**、岡田賢司***、岩田 敏、神谷 元、川名 敬、齋藤昭彦、関 雅文、多屋馨子、朝野和典、永井英明、中野貴司、中村茂樹、丸山貴也、宮下修行、迎 寛、渡辺 彰)
*日本呼吸器学会 感染症・結核学術部会ワクチンWG長
**日本感染症学会ワクチン委員会委員長
***日本ワクチン学会理事長