日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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破傷風(tetanus)

病原体

嫌気性グラム陰性桿菌Clostridium tetaniによる。

感染経路

土壌に存在するC. tetaniの芽胞がヒトの損傷した組織から侵入することで感染する。

流行地域

全世界。途上国では、破傷風はまだまだ稀ではない。

発生頻度

世界で年間100万人が発症し、30万-50万人が死亡している。日本では毎年100例ほどの報告がある。地震や津波などの自然災害の後に増加する傾向にある。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は3日-3週間で、通常1週間程度が多い。受傷部位が中枢神経から遠いほど潜伏期間は長くなるとされている。特有の症状はヒト体内で増殖したC. tetaniが産生する神経毒テタノスパスミンによる。病期はⅠ-Ⅳ期に分けられ、通常4-6週間続く。
Ⅰ期: 典型的な症状として、歯が噛み合わされた状態で口を開けにくくなる開口障害がある。開口障害は半分以上の症例で出現するが、頭部や局所の症状にとどまることもある。自律神経の亢進症状もよくみられ、早期症状としてイライラや、落ち着きのなさ、発汗や頻脈などがある。
Ⅱ期: 開口障害の程度が徐々に強くなり、あたかも苦笑いするような痙笑(ひきつり笑い)がみられるようになる。
Ⅲ期: 頸部から背筋の筋肉に緊張が拡大し、頸部の硬直や背部の強直をきたして発作的に強直性痙攣を生じ始める。大きな音や接触、光などの感覚刺激によって、時に激烈な筋痙攣が惹起される。全般性の収縮が起こると無呼吸になり、上肢は外転、下肢は伸展し、こぶしをにぎり、背を反らしたような姿になる(後弓反張)。意識障害はなく、強い筋収縮が生じると痛みが伴う。腱反射の亢進やバビンスキー反射などの病的反射も認める。
Ⅳ期: 諸症状が時間経過とともに次第に軽快していく。

予後

集中治療管理が行える先進国では死亡率は比較的低いが、それらが整わない途上国では死亡率が高い。またⅠ期からⅢ期の症状出現までの時間をオンセットタイムといい、これが48時間以内の場合は予後不良とされる。

感染対策

ワクチン接種歴の確認、外傷の程度に応じた創処置および破傷風トキソイドやヒト破傷風グロブリン(TIG)の投与が必要である(表)。日本では1968年以前に生まれた世代では基礎免疫がないことがほとんどであり、ささいな外傷であってもトキソイドの接種が必要である。基礎免疫があっても、定期的なトキソイドの接種がほとんど行われていないのが実情であるため外傷治療の際は局所の感染対策と同時に破傷風トキソイドの接種を追加することが重要となる。患者に対しては標準予防策で対応する。

●創傷処置における破傷風予防指針

破傷風の予防接種歴 破傷風をおこす可能性の高い創 破傷風をおこす可能性の低い創
沈降破傷風トキソイド 抗破傷風人免疫グロブリン 沈降破傷風トキソイド 抗破傷風人免疫グロブリン
不明 + + +
0~1 + + +
2 + + +
3~ −*① −*②

*最後のトキソイド注射から①では5年以上、②では10年以上経過している場合は必要

法制度

「破傷風」は5類感染症であり、確定患者、死亡者を診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出なければならない。

診断

特異的な検査はなく、受傷部位からの細菌培養も困難なことが多い。経過や特徴的な症状からの臨床診断となる。

診断した(疑った)場合の対応

明らかな外傷がない場合の初期診断は難しいが、疑った時点で速やかにTIG投与を行う。自施設での対応が困難な場合、集中治療管理ができる施設への搬送を進める。また患者に本症の臨床経過を伝えることも肝要となる。

治療(応急対応)

TIG投与を行う。ペニシリンGやメトロニダゾールなどの抗菌薬の投与、適切な創処置やデブリードマン、人工呼吸管理および鎮静、鎮痙、不整脈など自律神経亢進に対する全身管理。

専門施設に送るべき判断

疑った時点で集中治療管理ができる施設へ搬送する。

専門施設、相談先

集中治療室のある二次救急医療機関や救命救急センターなどの三次救急医療機関。

役立つサイト、資料:

  1. 国立感染症研究所。 破傷風とは。
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/466-tetanis-info.html
  2. 一般社団法人 日本血液製剤機構。『Tetanus 臨床医のための破傷風の予防・診断・治療』

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

東京都保健医療公社荏原病院 感染症内科 佐原利典

 

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