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2021-2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方

最終更新日:2021年9月29日

2021-2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方

<内容>
2021-2022年シーズンもインフルエンザワクチンの積極的な接種を推奨
インフルエンザワクチン接種の時期
特定の集団へのインフルエンザワクチン接種について
1)高齢者
2)小児
3)妊婦
4)COVID-19罹患者または濃厚接触者19)
肺炎球菌ワクチンについて
文献

2021-2022年シーズンもインフルエンザワクチンの積極的な接種を推奨

 2019年12月に中国湖北省武漢にて発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、急速に世界中に拡散し、2021年9月中旬の段階で、全世界で感染者は2億2400万人を超え、死亡者は約 460万人と報告されています1)。わが国においては、2020年1月15日に最初の患者が報告されて以降、数次の流行の波を繰り返し、2021年9月12日の時点で感染者は累計で166万人を超え、死亡者は17046人となっています2)
 一方、2019-2020年シーズンのインフルエンザについては、2019年末から2020年初頭にかけてA(H1N1)pdmの小流行がみられ、2020年に入ってB型が散見されたものの、COVID-19の流行が始まった2月以降は、急速に患者報告数が減少しました3)。しかしながら、2020年冬季にはインフルエンザとCOVID-19との同時流行も危惧され、両者の鑑別が問題となりました4), 5)。日本感染症学会では、2020年8月に、「今冬のインフルエンザと COVID-19 に備えて」と題する提言を発表し、冬季に発熱や上気道炎症状を呈する患者に対しては、インフルエンザとCOVID-19の両方の検査を検討することを推奨しました6)。幸いなことに、2020-2021年シーズンは、インフルエンザウイルスの検出報告はほとんどなく7)、心配されていた同時流行はみられませんでした。これは、COVID-19対策として普及した手指衛生やマスク着用、三密回避、国際的な人の移動の制限等の感染対策がインフルエンザの感染予防についても効果的であったと考えられます。またインフルエンザウイルスとSARS-CoV-2との間にウイルス干渉が起こった可能性もあります。
 では、2021-2022年シーズンについてはどうでしょうか。北半球の冬季のインフルエンザ流行の予測をするうえで、南半球の状況は参考になります。オーストラリアからの報告によると、2021年流行シーズンにおいて、インフルエンザ確定患者数は昨年同様きわめて少数です8)。このことより、2021年冬季は北半球での流行を認めないのではないかとも考えられますが、アジアの亜熱帯地域においては様相が異なります。WHOからの報告によると、例えばバングラデシュでは、2020年後半にA(H3N2)、2021年初夏よりB(ビクトリア)の流行を認めています。また、インドでも、2021年夏季にA(H3N2)の流行を認めています9)。これらの国々では、インフルエンザワクチン接種が普及しておらず、社会全体のインフルエンザに対する免疫が低かったと思われます。ただし小流行を繰り返すことで、これらの地域でウイルスが保存され、今後国境を越えた人の移動が再開されれば、世界中へウイルスが拡散される懸念があります。前シーズン、インフルエンザに罹患した人は極めて少数であったため、社会全体の集団免疫が形成されていないと考えられます。そのような状況下で、海外からウイルスが持ち込まれれば大きな流行を起こす可能性もあります。英国政府は、今年のインフルエンザは早期に流行が始まり、昨年流行がなかったために例年の1.5倍の大きさの流行になる可能性があるとして、インフルエンザワクチン接種を呼び掛けています10)
 以上の点を鑑みて、当委員会では、2021-2022年シーズンにおいても、インフルエンザワクチンの積極的な接種を推奨します。また、COVID-19はいまなお猖獗(しょうけつ)を極めており、今年の秋以降も多くの新規患者が発生することが予想されます。そのような中で、ワクチンで予防できる疾患については可及的に接種を行い、医療機関への受診を抑制して医療現場の負担を軽減することも重要です。

インフルエンザワクチン接種の時期

 インフルエンザシーズンの時期と現行の不活化ワクチン効果の減弱11)を考慮すると、ワクチン接種は理想的には10月末までに行うことが推奨されています12)。しかしながら、現在我が国の多くの医療機関は、COVID-19の診療とワクチン接種に忙殺されています。米国CDCのthe Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP)は、効率的にワクチンを接種し接種率を高めるために、インフルエンザワクチンとCOVID-19ワクチンの同時接種も可としており12)、米国では両者の混合ワクチンの開発も始まっています。一方、わが国では、現時点で、COVID-19ワクチンとその他のワクチンとは、互いに片方のワクチンを受けてから2週間後に接種することになります。COVID-19ワクチンをまだ接種していない人には、まずそちらを優先せざるを得ないかと思われますが、並行してインフルエンザワクチンの接種もご検討いただきたいと考えます。両方のワクチン接種のためには、医療機関を複数回受診する必要がありますが、その負担のためにワクチン接種頻度が低下するような事態は避けていただきたいと存じます。
 COVID-19の影響により、インフルエンザ流行の時期がずれる可能性もありますが、ワクチンが使用可となる時期が到来すれば、速やかに接種を行うことが望ましいです。ワクチンの供給に関して、厚生労働省の発表によりますと、2021-2022年度ワクチンの供給量は、製造効率の高かった昨年度に比すると2割程度減少するものの、ほぼ例年通りとのことです13)。ワクチンを効率的に使用するためにも、昨年同様、13歳以上は原則1回接種となります。

特定の集団へのインフルエンザワクチン接種について

 従来から、下記の因子を有する人は、インフルエンザに罹患した場合の合併症のリスクが高いとされています12), 14)。これらの因子を有する人を含めて、生後6か月以降で禁忌でない方すべて(因子を有する方々に接する医療従事者や介護者を含む)にワクチン接種を推奨します。

  • 6か月以上5歳未満
  • 65歳以上(50歳以上とするもの12)もある)
  • 慢性呼吸器疾患(気管支喘息やCOPDなど)
  • 心血管疾患(高血圧単独を除く)
  • 慢性腎・肝・血液・代謝(糖尿病など)疾患
  • 神経筋疾患(運動麻痺、痙攣、嚥下障害を含む)
  • 免疫抑制状態(HIVや薬剤によるものを含む)
  • 妊婦
  • 長期療養施設の入所者
  • 著しい肥満
  • アスピリンの長期投与を受けている者
  • 担がん患者

1)高齢者

 現在、わが国の高齢者の大半はすでにCOVID-19ワクチンの2回接種を完了していますので、10月以降にインフルエンザワクチンの供給が始まり次第、速やかに接種を行うことが望ましいと考えます。COVID-19に対するブースターとしての3回目のワクチン接種も検討されていますが、現在のところ未定であり、インフルエンザワクチンを優先すべきであると考えます。なお、高齢者はワクチン効果の減弱が起こりやすく、特にA(H3N2)に対して顕著であることが報告されています11), 15)

2)小児

 前述したように、6か月以上5歳未満の小児はハイリスク群として扱われますが、インフルエンザワクチンは6か月以上の全年齢小児を接種対象にすることが推奨されています16)。インフルエンザワクチン接種は、昨シーズン同様、13歳以上の小児で1回、12歳以下で2回です。今後、12歳以上にCOVID-19ワクチン接種が拡がると、両方のワクチンを近接した時期に接種することになります。特に12歳では、COVID-19ワクチン2回、インフルエンザワクチン2回の計4回のワクチン接種を要し、接種時期の調整を検討する必要があります。

3)妊婦

 妊娠中の季節性インフルエンザワクチン接種により、母体および新生児のインフルエンザ感染を減らすことが可能です17)。妊娠中の季節性インフルエンザワクチン接種の、小児期の健康への影響と関連の証拠は限られていますが、カナダでのデータベースコホート研究では、妊娠中の母体インフルエンザワクチン接種は、幼児期の健康への影響は認められませんでした18)

4)COVID-19罹患者または濃厚接触者19)

 COVID-19罹患者または濃厚接触者へのインフルエンザワクチン接種については、以下の方針を推奨いたします。

  • COVID-19に罹患したものの、無症状あるいは軽症で自宅またはホテルで待機中の人は、観察期間が終了してから、インフルエンザワクチンの接種を行います。
  • COVID-19に罹患して、中等症以上の症状で入院している人は、観察期間が終了し、かつ症状の軽快を認め、急性期症状から完全に回復してから接種を行います。
  • COVID-19患者の濃厚接触者と認定された方は、観察期間が終了してから接種を行います。

肺炎球菌ワクチンについて

高齢者やリスク因子を有する人は、インフルエンザ罹患後の続発性細菌性肺炎の予防も重要です。これらの方には、肺炎球菌ワクチンの接種も奨められます。詳細は、日本感染症学会ワクチン委員会の提言「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版 )20)および「6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方21)を参照ください。

文献

1)Johns Hopkins University Coronavirus Research Center. COVID-19 dashboard. https://coronavirus.jhu.edu/map.html
2)厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症国内の発生状況.
https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html#h2_1
3)Sakamoto H, Ishikane M, Ueda P: Seasonal influenza activity during the SARS-CoV-2 outbreak in Japan. JAMA 2020; 323: 1969-71. doi: 10.1001/jama.2020.6173.
4)Piroth L, Cottenet J, Mariet AS, Bonniaud P, Blot M, Tubert-Bitter P, et al.: Comparison of the characteristics, morbidity, and mortality of COVID-19 and seasonal influenza: a nationwide, population-based retrospective cohort study. Lancet Respir Med 2021; 9: 251-259. doi: 10.1016/S2213-2600(20)30527-0.
5)Jiang C, Yao X, Zhao Y, Wu J, Huang P, Pan C, et al.: Comparative review of respiratory diseases caused by coronaviruses and influenza A viruses during epidemic season. Microbes Infect 2020; 22: 236-244. doi: 10.1016/j.micinf.2020.05.005.
6)日本感染症学会 インフルエンザ-COVID-19 アドホック委員会. 今冬のインフルエンザと COVID-19 に備えて. 2020年8月1日作成、2020年12月11日一部改訂
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2012_teigen_influenza_covid19.pdf
7)国立感染症研究所. 週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数.
https://nesid4g.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data2j.pdf
8)Australian Government Department of Health. Australian influenza surveillance report No.11、2021.
https://www1.health.gov.au/internet/main/publishing.nsf/Content/cda-surveil-ozflu-flucurr.htm/$File/flu-11-2021.pdf
9)World Health Organization. FluNet.
https://www.who.int/tools/flunet
10)UK government Department of Health and Social Care. JCVI interim advice: potential COVID-19 booster vaccine programme winter 2021 to 2022.
https://www.gov.uk/government/publications/jcvi-interim-advice-on-a-potential-coronavirus-covid-19-booster-vaccine-programme-for-winter-2021-to-2022/jcvi-interim-advice-potential-covid-19-booster-vaccine-programme-winter-2021-to-2022
11)Ferdinands JM, Gaglani M, Martin ET, Monto AS, Middleton D, Silveira F, et al.: Waning vaccine effectiveness against influenza-associated hospitalizations among adults, 2015-2016 to 2018-2019, United States Hospitalized Adult Influenza Vaccine Effectiveness Network. Clin Infect Dis 2021; 73: 726-9. doi: 10.1093/cid/ciab045.
12)Grohskopf LA, Alyanak E, Ferdinands JM, Broder KR, Blanton LH, Talbot HK, et al.: Prevention and control of seasonal influenza with vaccines: recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices, United States, 2021-22 influenza season. MMWR Recomm Rep 2021; 70: 1-28. doi: 10.15585/mmwr.rr7005a1.
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/rr/pdfs/rr7005a1-H.pdf
13)厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会. 2021/22シーズンのインフルエンザワクチンの供給等について. 2021年9月1日
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000825764.pdf
14)厚生労働省成人の新型インフルエンザ治療ガイドライン(第2版)作製委員会. 成人の新型インフルエンザ治療ガイドライン 第2版. 2017年11月
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000190793.pdf
15)Belongia EA, Sundaram ME, McClure DL, Meece JK, Ferdinands J, VanWormer JJ: Waning vaccine protection against influenza A(H3N2) illness in children and adults during a single season. Vaccine 2015; 33: 246-251. doi: 10.1016/j.vaccine.2014.06.052.
16)Committee on Infectious Diseases. Recommendations for Prevention and Control of Influenza in Children, 2021-2022. Pediatrics. 2021 Sep 7:e2021053745. doi: 10.1542/peds.2021-053745.
17)Madhi SA, Cutland CL, Kuwanda L, Weinberg A, Hugo A, Jones S, et al.: Influenza vaccination of pregnant women and protection of their infants. N Engl J Med 2014; 371: 918-31. doi: 10.1056/NEJMoa1401480.
18) Mehrabadi A, Dodds L, MacDonald NE, Top KA, Benchimol EI, Kwong JC, et al.: Association of maternal influenza vaccination during pregnancy with early childhood health outcomes. JAMA 2021; 325: 2285-93. doi: 10.1001/jama.2021.6778.
19)Centers for Disease Control and Prevention. Interim guidance for routine and influenza immunization services during the COVID-19 pandemic. 2021 June 4
Routine and Influenza Immunization Services During the COVID-19 Pandemic: Interim Guidance | CDC
20)日本呼吸器学会 呼吸器ワクチン検討WG委員会/日本感染症学会 ワクチン委員会・合同委員会. 65 歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版) 2019年10月30日
https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=38
21)日本呼吸器学会 呼吸器ワクチン検討委員会/日本感染症学会 ワクチン委員会/日本ワクチン学会・合同委員会. 6 歳から64 歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方. 2021年3月17日
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/210317_teigen.pdf

 

2021年9月28日
一般社団法人日本感染症学会 インフルエンザ委員会
青木洋介、川名明彦、國島広之、佐藤晶論、新庄正宜、菅谷憲夫、関 雅文、永井英明、
廣津伸夫、藤田次郎、三鴨廣繁、石田 直(委員長)

 

利益相反自己申告
青木洋介はMSD(株)、塩野義製薬(株)、ファイザー(株)から講演料を受けている。
青木洋介は塩野義製薬(株)から奨学(奨励)寄附金を受けている。
國島広之はアステラス製薬(株)、アリーアメディカル(株)、MSD(株)、塩野義製薬(株)、第一三共(株)、ミヤリサン製薬(株)から講演料を受けている。
菅谷憲夫は塩野義製薬(株)、第一三共(株)から講演料を受けている。
関 雅文はMSD(株)、サノフィ(株)、塩野製薬(株)、第一三共(株)、大正製薬(株)、大日本住友製薬(株)、ファイザー(株)、Meiji Seikaファルマ(株)から講演料を受けている。
関 雅文は扶桑薬品工業(株)から研究費を受けている。
永井英明はサノフィ(株)、塩野義製薬(株)から講演料を受けている。
廣津伸夫は塩野義製薬(株)から講演料を受けている。
藤田次郎は杏林製薬(株)、塩野義製薬(株)、第一三共(株)、ファイザー(株)から講演料を受けている。
藤田次郎は大塚製薬(株)、第一三共(株)から奨学(奨励)寄附金を受けている。
三鴨廣繁は旭化成ファーマ(株)、アステラス製薬(株)、MSD(株)、杏林製薬(株)、ギリアド・サイエンシズ(株)、サノフィ(株)、サラヤ(株)、塩野義製薬(株)、第一三共(株)、大正医薬品(株)、大日本住友製薬(株)、(株)ツムラ、日本ベクトン・ディッキンソン(株)、ファイザー(株)、富士フイルム富山化学工業(株)、ミヤリサン製薬(株)、Meiji Seikaファルマ(株)から講演料を受けている。
三鴨廣繁はあすか製薬(株)、MSD(株)、(株)大塚製薬工場、サラヤ(株)、積水メディカル(株)、(株)ティ・アシスト、東ソー(株)、富山化学工業(株)、ニットーボーメディカル(株)、バイエル薬品(株)、ファイザー(株)、(株)フコク、ブルカージャパン(株)、ミヤリサン製薬(株)、Meiji Seikaファルマ(株)、ロシュ・ダイアグノスティクス(株)から研究費を受けている。
三鴨廣繁は旭化成ファーマ(株)、アステラス製薬(株)、MSD(株)、塩野義製薬(株)、第一三共(株)、大正富山医薬品(株)、大日本住友製薬(株)、富士フイルム富山化学工業(株)、ミヤリサン製薬株式会社から奨学(奨励)寄附金を受けている。
石田 直は塩野義製薬(株)から講演料を受けている。

 

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