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アフリカ紅斑熱(African tick-bite fever)
病原体
Rickettsia africae
感染経路
節足動物媒介性リケッチア症のひとつで、キララマダニ(Amblyomma)属により媒介される。ヒトへはダニの刺咬により感染する。キララマダニ属は、主にウシ、イノシシ、シカなどの有蹄類に寄生しており、草原地帯で感染しやすい。
流行地域
サハラ以南アフリカ、東カリブ海、レユニオン島で流行がみられる。
発生頻度
微生物学的に確定された症例は、1983年から2003年までに171例が報告されている。このほかに、後方視的にアフリカ紅斑熱と考えられる78例の症例報告がある。サハラ以南アフリカへの渡航者のうち4%に本症を発症したとの報告もあり、診断されずに見逃されている可能性もある。日本国内では、本症を発症した渡航者10例のreviewが2022年に報告されている。
潜伏期間・主要症状・検査所見
潜伏期間は5~7日で、長くても10日以内である。突然のインフルエンザ様症状(発熱、嘔気、倦怠感、頭痛、筋肉痛)で発症する。54%までの患者で刺し口が多発し、本症に特徴的とされる。43%の患者で所属リンパ節腫脹がみられるが、刺し口は明らかでないこともある。全身性の皮疹は、15~46%の患者にみられる。自然軽快することも多いが、持続する発熱や反応性関節炎、心筋炎、精神神経症状などの合併症がみられることもある。
予後
ほとんどの例で予後は良好だが、重症化が6%、死亡例が2.5%にみられるとの報告もあり、注意が必要である。
感染対策
ヒト-ヒト感染はなく、標準予防策で対応する。流行地域での感染予防にはダニとの接触をさけるため、草原を歩行しない、皮膚の露出しない衣類を着用する、DEETを含有する外用剤を使用する、上着や作業着は家の中に持ち込まないようにする、屋外活動後はシャワーや入浴をしてダニが付いていないかチェックする、などの対策が重要である。
法制度
感染症法上の届出疾患には指定されていない。
診断
国内では商業的に利用可能な検査はない。国内の報告例では血清抗体検査と刺し口の痂皮を用いた遺伝子検査が用いられている。抗体検査はウインドウピリオドによる偽陰性や他の紅斑熱群リケッチアとの交差反応による偽陽性に注意する必要がある。遺伝子検査は有用だが、検査可能な施設が限られている。渡航地域や臨床徴候から本症を疑うことが重要である。
診断した(疑った)場合の対応
渡航歴や臨床徴候から本症が疑われる場合、抗菌薬治療を開始する。抗菌薬の投与前に血清や刺し口の痂皮を保存し、抗体検査や遺伝子検査を検討する。
治療(応急対応)
ドキシサイクリンなどのテトラサイクリン系抗菌薬が有効である。
専門施設に送るべき判断
出血傾向、肝腎機能障害、心筋炎、髄膜脳炎、肺炎などの重症化の徴候があれば、高次医療機関への搬送を検討する。
専門施設、相談先
各自治体の地方衛生研究所、国立健康危機管理研究機構など
役立つサイト、資料
- Angelakis E et al, Tick-borne rickettsial diseases, Oxford Textbook of Zoonoses, Palmer SR, second edition, Oxford University Press, United States, 94-95, 2011.
- Ando N et al, Imported african tick bite fever in Japan: a literature review and report of three cases. Intern Med 2022; 61: 1093-8.
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
東京都立墨東病院 感染症科 鷲野 巧弥