日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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侵襲性A群レンサ球菌感染症(Invasive Group A streptococcal infection)

病原体

A群溶血性レンサ球菌(Group A Streptococcus; GAS、Streptococcus pyogenes

感染経路

飛沫感染が主であるが、接触感染による伝播もみられる。

流行地域

侵襲性A群レンサ球菌感染症のうち、多臓器不全を来す劇症型溶血性レンサ球菌感染症(Streptococcal Toxic Shock Syndrome: STSS)報告は、1987年に米国が最初で、その後ヨーロッパやアジアからも世界中で報告されている。

発生頻度

侵襲性GAS感染症の発症率は年間10万人に対して3人程度とされるがここ数十年増加傾向である。日本におけるSTSSは1992年に報告されて以来、2000年以降徐々に増加傾向にあり、その中でGASの症例は2018年312名、2021年177名、2023年277名、2024年は6月までに656名確認されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

GASによる侵襲性感染症としては菌血症、産褥期の敗血症、壊死性筋膜炎、STSSなどがある。いずれの侵襲性GAS感染症もSTSSの病態を呈することがあり、死亡率も高いため、その臨床像を把握することは極めて重要である。STSSの潜伏期間は不明だが、14時間という短い報告もある。症状が急速に進行し、ショックと多臓器不全を発症する。最も一般的な感染部位は皮膚軟部組織であるが、肺炎、髄膜炎、眼内炎、腹膜炎、心筋炎、関節炎、子宮内感染がみられることもある。表面的な細菌侵入口や皮膚・軟部組織感染の明確な所見が感染の初期段階で存在しない症例が50%程度あるとされる。しかし、患者の自覚症状としての疼痛が局所の感染徴候に12~24時間先行するとされ、明確な所見が初期に存在しない症例が半数程度だが、STSSの自覚症状が局所症状に先行することが多く、後に局在が明らかになることがしばしば生じる。

予後

死亡率は11.7% と報告されている。さらにSTSSの死亡率は約30%とされる。

感染対策

飛沫予防策+接触予防策を実施する。一般的な溶連菌感染は抗菌薬投与から24時間以上経過すれば標準予防策でよいとされるが、壊死性筋膜炎等の場合は接触感染でのアウトブレイク症例に基づき、滲出液が出なくなるか、または浸出液が多量の場合培養陰性が確認できるまで感染対策を継続することを推奨する報告もある壊死性筋膜炎等の場合、(検体採取は抗菌薬開始7~10日後が目安)は感染対策を継続することが望ましい。

法制度

劇症型溶血性レンサ球菌感染症については(A群溶血性レンサ球菌以外も対象となる)、感染症法に基づく五類感染症の全数把握疾患と定められているため、診断確定後7日以内に保健所への届出が必要である。

診断

無菌部位(血液、脳脊髄液、胸水、腹水、生検組織、手術創など)からGASが検出されるまたは ②創部からGASが検出されなおかつ壊死性筋膜炎あるいはSTSSを合併する場合に診断される。一般細菌培養検査で同定するが、迅速検査キットを応用し、早期に菌種推定を行うことも可能である(保険適用外)。

診断した(疑った)場合の対応

数時間単位で症状が進行することがあるため、抗菌薬治療と同時に、輸液による蘇生、外科医等にただちにコンサルテーションを行い、感染源のデブリードマンの必要性を評価し、必要であればデブリードマンを行うことが重要である。

治療(応急対応)

①迅速な抗菌薬治療は必須であり、感染初期には敗血症性ショックの原因がSTSSと断定できない場合もあることから、経験的な抗菌薬治療は広域抗菌薬の使用を考慮する。加えてSTSSが疑われる場合には毒素産生を抑制するためクリンダマイシンを追加する。GASが確定されたあとはペニシリン系抗菌薬が第一選択となる。②STSSや壊死性筋膜炎を合併している場合は外科的介入が重要であり、1)病原体評価のための検体採取、2)感染範囲の確認3)感染源の除去(デブリドマン・切断等)を行う、③リンゲル液などの晶質液の投与や、必要に応じて昇圧剤を使用しバイタルサインの安定化を図る。

専門施設に送るべき判断

重篤な合併症を認める場合や基礎疾患に免疫不全を有する場合は、専門施設における入院管理を検討する。ショックを伴うSTSS等では、集学的治療が行える医療機関での管理が必要となる。

専門施設、相談先

集学的治療が行える高度医療機関。

役立つサイト、資料

  1. 国立国際医療研究センター 国際感染症センター,劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の診療指針
    https://dcc-irs.ncgm.go.jp/material/manual/stss.html
  2. 国立感染症研究所 国内における劇症型溶血性レンサ球菌感染症の増加について(2024年6月時点)
    https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ka/stss/010/stss-2023-2024.html
  3. 厚労省 劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137555_00003.html
  4. UK Health Security Agency, UK guidelines for the management of contacts of invasive group A streptococcus (iGAS) infection in community settings
    https://assets.publishing.service.gov.uk/media/64071ec5d3bf7f25fa417a91/Management-of-contacts-of-invasive-group-a-streptococcus.pdf

(利益相反自己申告:
研究費・助成金など:アボット社 IDファーマ)

国立国際医療研究センター 岩元 典子

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