21結核性髄膜炎(tuberculous meningitis)
病原体
結核菌(Mycobacterium tuberculosis)
感染経路
一次結核または活性化結核に続発して結核菌血症が起こり、脳、髄膜などに菌が粟粒結核病巣様に髄腔内に播種して発症する。
流行地域
結核の流行地域ではそのまま髄膜炎の合併患者も流行するため、サハラ以南アフリカ、インド、東南アジアおよびミクロネシア(結核罹患率100以上/10万人)。中国、中南米、東欧、およびアフリカ北部(結核罹患率26~100/10万人)等に多く、欧米では少ない傾向にある。
発生頻度
結核性髄膜炎の全結核患者に占める割合は0.3~1.0%程度だが、肺外結核の3.5~6.3%程度であり、この数値は年齢が低くなるほど多くなる。BCG未接種国の1歳未満児なら結核罹患者中の10~20%とされる。国内では年間90例前後が報告される。
潜伏期間・主要症状・検査所見
結核感染から髄膜炎の合併までの期間は症例によるため明確なものはないが、HIV合併結核患者では20%に認められるともいわれる。主要症状は数日から数週間に渡り進行する緩徐進行の頭痛、易刺激性、嘔吐、発熱、項部硬直、痙攣、局所神経症状、意識障害、嗜眠などであり、無菌性髄膜炎や非感染性疾患との鑑別が重要になる。
疑われた場合は髄液検査で結核菌の塗抹・培養、PCR検査を行う。髄液の外観は透明、単核球優位の細胞数増多(10~1,000/µL)、蛋白上昇(50~300mg/dL)、糖低下(髄液糖/血糖比<0.5)などが特徴的である。ただし、初回髄液の28%は多核球優位を示すことや、免疫抑制患者では典型的でないことがあり、特に治療歴がある場合には“改善しつつある細菌性髄膜炎”との鑑別が必要である。髄液ADAは流行状況に応じてカットオフ値が検討され、流行地では9.5IU/L、非流行地では11.5IU/L程度が有用とされている。しかし特異性は高くなく、他の中枢神経系感染症でも上昇する場合がある。リンパ球のインターフェロンγ放出試験は髄液検体では感度81%、特異度89%という報告もあるが保険収載がないため参考所見となる。
予後
医療資源が整った国であっても致死率は14~28%とされている。結核性髄膜炎は治癒しても高い確率で水頭症、脳神経障害、視力障害などの後遺症を残す。
感染対策
肺結核を合併していることが多く、喀痰からの排菌陰性化が確認されて感染性がないと言えるまでは肺結核に準じた空気予防策が推奨される(空気予防策については「結核」の項参照)。肺結核(気管、気管支結核を含む)がない場合は標準予防策で対応可能である。
法制度
感染症法における二類感染症に分類されるため、診断された場合は直ちに地域の保健所への届出が必要となる。
診断
上記症状を1つ以上呈し、①髄液の塗抹での抗酸菌陽性(感度10~37%)、②培養での結核菌同定(43~52%)、③PCRによる結核菌遺伝子の検出(nested PCRの感度75~100%/特異度89~100%)、のいずれかが陽性の場合確定診断となる。菌が検出されなくとも疫学・病歴・身体所見・検体検査・画像検査を総合して判断する。
診断した(疑った)場合の対応
感染症法第12条に基づき、直ちに最寄りの保健所に届け出る。結核菌血症を想定し、血液抗酸菌培養、尿検査・培養、喀痰検査・培養、胸部X線・CTなどから他臓器の合併をスクリーニングする。また、世界的には全体の13%程度にHIV感染症の合併があり、スクリーニングを要する。
治療(応急対応)
イソニアジド・リファンピシン・ピラジナミド・エタンブトールを2か月間治療のあと、イソニアジド・リファンピシンで10か月治療を行う。加えて、致死率と後遺障害を減少させる副腎皮質ステロイド薬の併用が推奨される。
専門施設に送るべき判断
致死率・後遺症の残る確率の高い病態であり、疑い例も含めて専門施設に積極的に相談した上での治療が検討される。
専門施設、相談先
保健所、結核床を保有する最寄りの医療施設、公益財団法人結核予防会結核研究所など。
役立つサイト、資料
- 日本神経治療学会治療指針作成委員会.標準的神経治療:結核性髄膜炎,神経治療2015,32:4:513-532.
- Leonard JM. Central nervous system tuberculosis. Baron EL ed. Up to date.
http://www.uptodate.com/contents/central-nervous-system-tuberculosis - Ben J. Marais, et al. :Childhood Pulmonary Tuberculosis Old Wisdom and New Challenges. Am J Respir Crit Care Med 2006; 173: 1078–90.
- Parra-Ruiz J et al. Rational application of adenosine deaminase activity in cerebrospinal fluid for the diagnosis of tuberculous meningitis. Infection. 2015 Oct; 43(5) :531
- 齋藤瑳智子ら.過去10年間に当院に入院した結核性髄膜炎の臨床的検討.感染症学雑誌2024年98巻1号 p.1-7.
- 日本神経学会「細菌性髄膜炎診療ガイドライン」作成委員会.細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014
http://www.neuroinfection.jp/pdf/guideline101.pdf
(利益相反自己申告:
講演料:MSD株式会社)
公立陶生病院感染症内科 武藤 義和