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パルボウイルスB19感染症(Human parvovirus B19 infection)
病原体
パルボウイルスB19
感染経路
主として飛沫感染である。稀に母子感染として経胎盤感染がある。
流行地域
世界中でみられる。
発生頻度
一般的なウイルス性疾患であり、明確な発生頻度は不明である。日本では1月から7月上旬にかけて増加して9月頃が最も少ない季節性を示すが、流行が小さい年の季節性は乏しい。年齢とともに罹患率は上昇し、概ね学童期に発症することが多い。
潜伏期間・主要症状・検査所見
潜伏期間は10~20日間であり、両頬に境界鮮明な紅斑が出現し、続いて手足に網目状、レース状の発疹が見られる。発疹は再発することがあり、日光、運動、暑熱、発熱、または精神的ストレス等によって増悪する。また、不顕性感染が全症例の4分の1程度でみられる。成人では関節痛や四肢の浮腫、頭痛の症状が前面に出て、関節炎から歩行困難になることがある。頬に紅斑が出現する7~10日前に、微熱や感冒症状がみられることが多いが、この時期にウイルス血症を起こしているため感染力を有する。特徴的な発疹が出現して、臨床的に診断される時期はすでにウイルス血症はなく、周囲への感染性はほとんどない。
母子感染で胎内感染をきたした場合、胎児期は赤芽球の分化、増殖が盛んなため、高度の貧血、心不全になり、胎児水腫に至ることがある。特に妊娠初期での初感染では胎児水腫の発症リスクが高い。
予後
通常は合併症もなく自然軽快する。一度感染すると、終生免疫が得られるため一般的に再感染はしない。妊婦が感染すると、約20%に経胎盤感染で、胎内感染から胎児水腫をきたすことがある。胎内感染した場合、約10%が流産あるいは死産となる。日本人妊婦の抗体保有率は20~50%と推定される。パルボウイルスB19はヒト赤芽球系細胞に感染するため、もともと遺伝性球状赤血球症やサラセミアなどの溶血性疾患を持つ人では重症の貧血発作になることがある。またステロイド内服中など、免疫抑制者ではウイルスが排除されず、ウイルス血症が持続して慢性の骨髄機能不全や貧血になることがある。
感染対策
特徴的な発疹によって臨床診断されることが多く、この時期にはすでにウイルス血症は消失しており感染力がないため、標準予防策で対応する。感染力を有するウイルス血症の時期に患者と接触するときは、飛沫感染によりヒトからヒトに伝播するため、飛沫予防策を実施する。
法制度
「伝染性紅斑」は定点報告対象(五類感染症)であり、指定届出機関(全国約3,000カ所の小児科定点医療機関)は週毎に保健所に届け出る。
診断
自然軽快する予後良好なウイルス感染症であるため、原則として臨床症状から診断する。その他血清抗体価を測定する方法がある。パルボウイルスB19に感染後、2週程でIgM抗体の上昇を認め、約3か月で陰性化する。一方でIgG抗体はIgMが陽性になった数日後より上昇し、生涯陽性が持続する。従って紅斑が見られる時期はIgM、IgGともに陽性であることが多い。妊婦や重症化しやすい人では、血液検査でパルボウイルスB19のIgM抗体を測定して診断することもある。かつては妊婦のみ保険適用であったが、2018年に改定され「紅斑が出現している15歳以上の成人」に対して保険適用が認められるようになった。
診断した(疑った)場合の対応
特徴的な発疹によって臨床診断されることが多く、この時期にはすでにウイルス血症は消失しており感染力がないため、標準予防策で対応する。感染力を有するウイルス血症の時期に患者と接触するときは、飛沫感染によりヒトからヒトに伝播するため、飛沫予防策を実施する。特に妊婦が初感染すると胎内感染をきたし得るため注意が必要である。
治療(応急対応)
抗ウイルス薬がなく特異的治療がないため、対症療法を行う。ワクチンも現時点ではない。免疫不全患者ではウイルス血症の抑制、赤血球産生促進を目的に免疫グロブリン投与を行うことがある。
役立つサイト、資料
- CDC Parvovirus and Fifth Disease
https://www.cdc.gov/parvovirus-b19/about/index.html - 国立感染症研究所.伝染性紅斑.IDWR 2004年第23号. https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ta/5th-disease/010/5th-disease.html
- 国立感染症研究所.ヒトパルボウイルスB19母子感染の実態.IASR Vol. 37 p. 7-8: 2016年1月号. https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/6180-dj4314.html
- Heegaard ED, et al. Human parvovirus B19. Clin Microbiol Rev 2002; 15: 485-505
- Servey JT, et al. Clinical presentations of parvovirus B19 infection. Am Fam Physician 2007; 75: 373-6
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
藤沢市民病院 清水 博之