日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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プレジオモナス感染症Plesiomonas infection)

病原体

Plesiomonas shigelloidesを原因菌とする感染症である。グラム陰性、オキシダーゼ陽性の通性嫌気性桿菌で、河川や湖などの淡水域の土壌や水、生息する魚介類等に分布している。菌の増殖には8℃以上である必要があるため、暖かい時期に多い。Plesiomonasの名称は、隣人を意味するギリシャ語を由来としているが、これは過去にAeromonas属と近い菌種と考えられていたためである1)

感染経路

経口感染により感染する。汚染された魚介類や甲殻類、牡蠣などの貝類、間接的に汚染された食品、汚染した飲料水や氷入り飲料、海水や河川水の誤飲により感染する。環境に分布する菌であるため、創部からの侵入による蜂窩織炎も報告されている。

流行地域

現代では日本国内での感染例は少なく、ほとんどが渡航者下痢症である。熱帯や亜熱帯地域で多い。

発生頻度

1999年の検疫法の改正により、渡航者下痢症の検査件数が激減し、現在は渡航者下痢症の詳細な把握が難しくなっている。東京都立衛生研究所で行われた1978-2001年の腸管系病原菌検査において、下痢現症者6,812件のうち6.1%、下痢既往者・健康者41,518件のうち3.3%からP. shigelloidesが検出されている2)。また稀ではあるが、国内において食中毒による集団下痢症も報告されている3)

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は 24-48 時間が典型的である。主たる症状は下痢と腹痛で、発熱は微熱にとどまる。1日数回程度の水様性下痢であることが多いが、稀に赤痢様の血便を呈することもある。腸管外感染については、菌血症への波及や、創部からの蜂窩織炎、新生児の髄膜炎などが報告されている。いずれも新生児または基礎疾患のある患者での報告がほとんどである。

予後

多くは軽い下痢のみで、抗菌薬の使用なしでも2-3日で軽快する。重症例では脱水やアシドーシスを呈し、補液や抗菌薬治療を要する。例外的に新生児の髄膜炎は予後不良であるが、本稿を読まれる方々が対応する可能性は低いと思われる。

感染対策

伝染性は低く、基本的にヒト-ヒト感染はしないため、標準予防策で対応可能である。ただし他の細菌やウイルスとの共感染も多いため、排泄の介助やおむつを必要とする患者については接触感染予防策をとる。特にロタウイルスや病原性大腸菌との共感染で下痢が多いとの報告がある4)。殺菌条件は、60℃、30分間の低温殺菌である。

法制度

感染症法での規定はない。食中毒が疑われる場合は、食品衛生法で24時間以内に最寄りの保健所へ届け出ることが定められている。

診断

確定診断には便培養による菌の分離が必要となる。糞便からのP. shigelloidesの分離培養検査には、SS培地およびDHL寒天培地などを使用できる。同定のためには、提出時に細菌検査室へ渡航歴があることを伝えることが重要である。

診断した(疑った)場合の対応

本菌を疑っての特別な対応は必要ない。食中毒が疑われる場合は、24時間以内に最寄りの保健所に届け出る。

治療(応急対応)

対症療法が基本となる。軽症の下痢のみで軽快するため、P. shigelloidesと判明する時期には既に改善していることが多い。
他の下痢症と同様に、脱水や臓器障害を認める場合には、補液や抗菌薬を投与する。また、新生児や基礎疾患のある患者は重症化しやすく、積極的な治療を検討する。
治療する場合は、多くがβラクタマーゼを産生しているため、レボフロキサシンやアジスロマイシン、クラブラン酸/アモキシシリン、重症例ではセフトリアキソン、メロペネムを使用する。小児においてはアジスロマイシン、セフトリアキソンを選択する5)
治療期間は腸管感染症であれば3-5日を目安とする。腸管外感染症では臨床経過によるが、より長期間の投与を要する。

専門施設に送るべき判断

特別な対応は不要であるが、重症例では高次医療機関への搬送を検討する。

専門施設、相談先

専門施設への相談は基本的に不要である。必要であれば、感染症科のある施設への相談を検討されたい。

役立つサイト、資料

  1. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases (Eighth Edition) 2015;2674-5
  2. 甲斐明美, 渡航者下痢症, 臨床検査 2006;50(11):1245-1250
  3. 児玉博英, 他 Plesiomonas shigelloidesによる集団下痢症.国立感染症研究所:病原微生物検出情報月報 1992;13:150
  4. Escobar J, et al. Plesiomonas shigelloides infection, Ecuador, 2004-2008. Emerg Infect Dis. 2012 Feb;18(2):322-4.
  5. Janda JM, et al. Plesiomonas shigelloides Revisited. Clin Microbiol Rev. 2016 Apr;29(2):349-74.
  6. 国立感染症研究所. プレジオモナス・シゲロイデス感染症とは https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/512-p-shigelloides.html
  7. 一般社団法人日本感染症学会、公益社団法人日本化学療法学会 JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会 腸管感染症ワーキンググループ:JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ―腸管感染症―.感染症誌2015;90:31-65

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

東京都立駒込病院 藤原 翔

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