39
水痘(Varicella)
病原体
水痘帯状疱疹ウイルス(Varicella-zoster virus)。
感染経路
空気・飛沫・接触感染。発疹が出現する1~2日前から全ての発疹が痂皮化するまで感染性を有する。
流行地域
2020年の時点で、22%の国が定期的な水痘ワクチン接種プログラムを導入しており、さらに5%の国がリスクグループに限定した水痘ワクチン接種プログラムを導入している。本邦においては2014年から水痘ワクチンが定期接種プログラムに含まれたが、東南アジアやアフリカ諸国の多くは未導入であり、水痘は今日においても日本を含む世界中で発生している。
水痘ワクチンが普及していない状況では、温帯地域居住者においては10歳までに自然罹患し終生免疫を獲得していることが多いが、熱帯地域居住者においては思春期から成人においても未感染のまま感受性を有している場合がある。
発生頻度
国内外とも正確な患者数は不明であるが、WHOは最低でも1億4,000万人が罹患し、4,200人が亡くなっていると試算している。国内における小児科定点施設からの年間報告数は、水痘ワクチン定期接種化前の2000~2011年においては平均81.4人/年であったが、2014年の定期接種化後、2015年は24.7人/年、2020年は10.1人/年まで減少した。一方で、2014年以前に出生し、水痘ワクチンの定期接種機会を提供されなかった10–19歳における小児科定点報告数は、定期接種導入以後も2000~2011年平均と比べて微増している。
潜伏期間・主要症状・検査所見
通常、感染後14~16日(範囲:10~21日)の潜伏期間を経て、小児においては発熱と同時に頭皮、顔面、体幹などに掻痒を伴う紅斑が出現する。発疹はその後、丘疹から小水疱へ変化し、最終的には1~3日かけて痂皮化する。水痘は様々な進行段階の発疹が同時に認められるのが特徴であり、一部の患者において溶連菌による皮膚感染症などを合併することもある。一方、成人においては発疹が出現する1~2日前に発熱や倦怠感が先行することがある。稀な合併症として、脳炎、髄膜炎、小脳失調症、肺炎、血小板減少などが挙げられる。水痘に特異的な検査所見は乏しいが、特徴的な皮膚所見による臨床診断が可能である。
予後
正常な免疫を有する小児においては、多くの場合自然軽快する。一方、成人は小児と比べて重症化しやすく、特に肺炎などを合併しやすい。また、免疫不全患者においては、多臓器不全、凝固障害などを伴う重症水痘へ進行し、最悪の場合は死亡する場合もある。
感染対策
空気・飛沫・接触感染予防策が必要である。免疫不全患者に対しては、重症水痘の発症予防を目的としていずれも健康保険適応外であるが、1)曝露後96時間以内のなるべく早期に免疫グロブリンの静脈内注射、2)曝露後7~10日目から抗ウイルス薬の7日間内服を考慮する。水痘の感受性を有するまま曝露を受けた免疫正常者に対しては、3日以内(遅くとも5日以内)に水痘ワクチンの接種を検討する。
法制度
水痘入院例は感染症法5類の全数把握疾患であり7日以内に全例を届けなければならない。一方で、入院を要さない水痘は、小児科定点医療機関(全国約3,000カ所の小児科医療機関)が週単位で、翌週の月曜日に届け出する。
診断
水痘はその典型的な臨床症状から多くの場合、容易に臨床診断が可能であるとされてきたが、近年は水痘ワクチン接種歴のある患者における、比較的皮膚症状が軽症で、時に臨床診断が困難となることがあるbreakthrough水痘が増加している。水疱擦過物を用いた診断として、モノクロナール抗体を使用して水痘帯状疱疹ウイルスの有無を確認できる直接蛍光抗体法のほか、イムノクロマト法を測定原理としたVZV抗原キットも市販されている。血清学的診断としては、IAHA法やELISA法によるペア血清でIgG抗体の有意な上昇を確認するか、IgM抗体を検出する。その他、PCR法によりVZV DNAの検出も可能である。
診断した(疑った)場合の対応
全身状態に問題がなければ隔離を目的とした入院措置は不要であり、外来管理が可能である。ただし、感染力の強い空気感染疾患であり、痂皮化するまでは感受性者への接触を回避するよう十分な説明をする必要がある。一方で、重篤な合併症を認める場合や基礎疾患に免疫不全を有する場合は、専門施設における入院管理を検討する。
治療(応急対応)
基礎疾患のない小児においては自然軽快が見込めるため抗ウイルス薬を使用する必要はない(ただし国内における実臨床においては抗ウイルス薬が使用されていることが多い)。新生児、乳児(生後12か月未満)、生後12か月以上の小児かつ慢性皮膚疾患/慢性肺疾患/ステロイド常用/サリチル酸常用、13歳以上の非妊婦、家族内二次発症の水痘症例に対しては、発疹出現後24時間以内の抗ウイルス薬内服導入が推奨されている。
専門施設に送るべき判断
重度の合併症を認めなければ、通常の医療機関で外来対応が可能である。
専門施設、相談先
入院管理を要する場合は陰圧個室を備える医療機関を準備する必要がある。
役立つサイト、資料
- 国立感染症研究所.水痘.IDWR 2001年第24号
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/sa/varicella/010/varicella-intro.html - 国立感染症研究所.水痘・帯状疱疹の動向とワクチン.IASR Vol. 39 p129-130: 2018年8月号
https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/varicella-m/varicella-iasrtpc/8223-462t.html - 国立感染症研究所,IASR,水痘ワクチン定期接種化後の水痘発生動向の変化~感染症発生動向調査より・2021年第26週時点~
https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/varicella-m/varicella-idwrs/10892-varicella-20220113.html - FORTH,厚生労働省検疫所,水痘(Chicken pox)
https://www.forth.go.jp/useful/infectious/name/name59.html - CDC, Yellow book 2024, Varicella
https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2024/infections-diseases/varicella-chickenpox - AAP, Red book 2024-2027; 938-951, Varicella-Zoster Virus Infections
- WHO, Varicella.
https://www.who.int/teams/health-product-policy-and-standards/standards-and-specifications/norms-and-standards/vaccine-standardization/varicella
(利益相反自己申告:
講演料:Sanofi株式会社、MSD株式会社)
聖マリアンナ医科大学小児科 勝田 友博