日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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腎盂腎炎(Pyelonephritis)

病原体

腎盂腎炎の原因菌は、大腸菌(Escherichia coli)が大半を占めるが、ほかにKlebsiella pneumoniaeProteus mirabilisがよく見られる。患者背景や医療曝露歴次第で、腸球菌などのグラム陽性球菌や、緑膿菌をはじめとした“SPACE菌”と呼ばれるグラム陰性桿菌が見られることもある。また近年、キノロン系抗菌薬やスルファメトキサゾール・トリメトプリムに耐性をもつ大腸菌や、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼをもち多数の抗菌薬に耐性化した大腸菌がみられる頻度も増えており、注意を要する。

感染経路

膀胱炎等の下部尿路からの上行性感染が大半である。一方、頻度は少ないものの血行性感染も見られ、特に黄色ブドウ球菌による菌血症や感染性心内膜炎では頻繁に腎膿瘍を形成する。尿検査で黄色ブドウ球菌やカンジダが検出された場合は、上行性感染よりも血行性感染の可能性について検討する必要がある。

流行地域

全世界で普遍的にみられる感染症である。

潜伏期間・主要症状・検査所見

典型的には発熱、悪寒戦慄、嘔吐、下部尿路症状(頻尿、排尿時痛、残尿感)などの症状がみられ、身体診察では肋骨脊椎角叩打痛(CVA叩打痛)が陽性になることが多い。しかし、これらが揃わないことも多く、悪心嘔吐などの消化器症状や、意識障害など非特異的な症状のみで受診することもある。血液検査では白血球数上昇や高CRP血症がみられるが、急性発症ではこれらの変化がはっきりとは現れていないこともある。尿検査では通常膿尿、細菌尿がみられるが、これらは必ずしも尿路感染症を示唆せず、また亜硝酸については、特異度は比較的高いが感度は不十分であることに注意を要する。

予後

敗血症及び敗血症性ショックに進展した場合の予後は不良と考えられる。

感染対策

標準予防策を行う。

法制度

感染症法上、届出等の対応の必要はない。

診断

確立された診断基準はなく、病歴、身体所見、尿検査所見、画像所見などから総合的に判断する。膿尿や細菌尿は必ずしも尿路感染症の成立を示唆せず、他の感染症や感染症以外の要因について丁寧に除外を行う姿勢が重要である。

診断した(疑った)場合の対応

腎盂腎炎を診断するための診察及び諸検査と並行して、尿、血液を微生物検査(グラム染色、培養、薬剤感受性検査等)に提出する。初期治療を速やかに開始するため、末梢静脈路は確保しておくのが望ましい。

腎盂腎炎と診断した場合は、尿路閉塞の有無について検討する。腎結石の既往、新規の腎障害、尿pH ≧ 7.0などがあれば、画像検査(超音波検査やCT検査)を追加する。

治療(応急対応)

軽症であれば外来で経口抗菌薬による治療も考慮されるが、全身状態不良な場合、状態悪化のリスクが少しでもある場合、尿路閉塞を伴う場合は、入院で経静脈的抗菌薬による治療を行う必要がある。また尿路閉塞を合併する場合は、緊急で泌尿器科的処置(尿管ステント留置や経皮的腎瘻増設など)を検討する必要がある。ほか、緊急で泌尿器科的処置を検討すべき病態に、気腫性腎盂腎炎、膿腎症、腎膿瘍を認識しておく。

抗菌薬選択は、大腸菌(E. coli)、K. pneumoniaeP. mirabilisを中心とした腸内細菌目細菌に加え、重症度、患者背景(抗菌薬使用歴、過去の尿培養検査歴、デバイス留置の有無など)に応じて、グラム陽性球菌や緑膿菌をはじめとした他のグラム陰性桿菌を治療対象として追加する。尿のグラム染色や地域及び施設のアンチバイオグラムも参考にすると良い。

治療期間は、全身状態、患者背景、合併症の有無により様々だが、大体7-14日間程度と考えておくと良い。

専門施設に送るべき判断

敗血症及び敗血症性ショックに至っている場合、状態悪化のリスクがある場合、尿路閉塞を伴う場合は、速やかに高次医療機関へ搬送する必要がある。

専門施設、相談先

泌尿器科、集中治療が可能な設備及び診療科を有する施設での治療が望ましい。

役立つサイト、資料

  1. Shingo Yamamoto, et al. JAID/JSC Guidelines for Clinical Management of Infectious Disease 2015 − Urinary tract infection/male genital infection. Journal of infection and chemotherapy 2017; 23: 733-51
    https://www.jiac-j.com/article/S1341-321X(17)30029-6/fulltext
  2. James R. Johnson, et al. Acute Pyelonephritis in Adults. New England Journal of Medicine 2018; 378(1): 48-59
    https://www.nejm.org/doi/10.1056/nejmcp1702758?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立病院機構東京医療センター救急科 藤沢 篤夫

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