日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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赤痢アメーバ症Entamoeba histolytica

病原体

腸管寄生原虫であるEntamoeba histolyticaが病原性を持ち、赤痢アメーバ症を発症させる。E. disparもヒトに感染するが病原性を持たない。

感染経路

感染者の糞便に排泄されるシスト(嚢子)の経口感染による。汚染された水や飲食物を介した感染と、また、同性間・異性間性的接触(口腔・肛門性交)でも感染を引き起こす。

流行地域

発展途上国を中心に世界中で流行しており、日本では、流行地域への渡航・滞在による感染(特に6か月以上の滞在でリスクが高い)、男性同性愛者間、知的障害者施設入所者での感染が多い。

発生頻度

日本での発症数は2000年以降増加傾向が続いた後、2015年以降でやや減少に転じたが、年間800件程度の発症が報告されている、その内、約8割が国内感染、約2割が国外感染であり、渡航先別では中国、タイ、インドネシアの順に多い。男女比は約9割が男性である。世界では3,400万から5,000万人が感染しており、そのうち、約10万人死亡していると推定される。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は通常2-4週間であるが、数か月-数年に及ぶこともある。感染者のうち5-10%が発症し、主要症状はイチゴゼリー状の粘血便、下痢、テネスムス、排便時の下腹部痛、体重減少であり、発熱は比較的少ない。数日から数週間の間隔で増悪緩解を繰り返すことが多いが、全身状態は保たれており、通常の社会生活を送れる場合も多い。病変の首座は、盲腸から上行結腸、S状結腸から直腸にかけての大腸であり、時に肉芽腫様病変(ameboma)が形成されたり、潰瘍部が壊死性に穿孔することがある。

予後

治療に反応した赤痢アメーバ症の予後は良好だが、重症化に関連する因子として、糖尿病、アルコール中毒、悪性腫瘍、妊娠、ステロイド投与、免疫不全状態が挙げられる。また、潰瘍性大腸炎など他の大腸疾患と考えられ、副腎皮質ステロイド剤が投与されたり、無効な抗菌薬が投与されている症例で腸穿孔を合併して予後不良となることがある。

感染対策

予防接種はない。特に衛生環境の整っていない発展途上国では、生水、生肉、生野菜からの感染に注意し、経口感染を防ぐために手指衛生を行うようにする。また、国内感染例の多くが性的接触のため、口腔・肛門性交を避けるなど性感染症対策も予防の一貫となる。医療機関において赤痢アメーバ症患者を診療する際には、標準予防策に加えて接触予防策で対応し、手袋、エプロンを装着し、手指衛生を励行することが重要である。

法制度

「アメーバ赤痢」は感染症法5類感染症に定められており、確定患者、死亡者を診断した医師は診断後7日以内に最寄りの保健所へ届け出ることが義務付けられている。

診断

糞便検査で原虫(嚢子もしくは栄養体)が検出されれば確定診断となる。栄養体は1-2時間以内に観察する必要があり、保温しながらの検体処理と速やかに検鏡することが重要となる。また糞便検査の感度は25-60%と低いため、3回以上の検査が勧められる。E. histolycaE. disparのシストは形態的に区別できない。また、内視鏡検査では、多発する潰瘍性病変を認め、潰瘍底にクリーム状の白苔を付着した赤痢アメーバ潰瘍が大腸粘膜面に散在し、潰瘍間の粘膜は正常である。潰瘍性大腸炎との鑑別が必要になることもあるが、潰瘍性病変部位の生検で栄養体を認められれば診断できる。また、E. histolycaに対する血清抗体検査も有用であったが、試薬製造中止に伴い2019年3月時点で検査不可能となっている。また、E. histolycaの抗原検出法やPCR法による検出は一部の施設に依頼可能である。

診断した(疑った)場合の対応

シスト(嚢子)保有者の中で、E. histolycaは駆除の対象であり、また赤痢アメーバ症の有症状者は治療を開始する。

治療(応急対応)

メトロニダゾール内服が第一選択である。内服もしくは経口摂取が不能の場合は静注で治療を開始する。治療効果判定のために治療終了1-2週間後に糞便検査で赤痢アメーバの陰性化を確認する。メトロニダゾール治療後に、パロモマイシンによる根治療法が推奨される。

専門施設に送るべき判断

赤痢アメーバ症による壊死性大腸炎や大腸穿孔が疑われる場合は開腹手術が必要になる可能性があるため、対応可能な施設に速やかに送る。

専門施設、相談先

日本寄生虫学会では寄生虫病に関する診断・治療のコンサルテーションを受け付けている(医療従事者限定、http://jsp.tm.nagasaki-u.ac.jp/academic/consultation/)。

役立つサイト、資料

  1. 熱帯病治療薬研究班. 寄生虫症薬物治療の手引き2019.https://www.nettai.org/資料集/
  2. 国立感染症研究所. アメーバ赤痢とは. IDWR 2002年第30号.
  3. 国立感染症研究所. アメーバ赤痢 2007年第1週~2016年第43週. IASR Vol.37 p239-240: 2016年12月号.
  4. CDC. Amebiasis.
    https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2018/infectious-diseases-related-to-travel/amebiasis

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

東京都福祉保健局 松平 慶

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