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敗血症(Sepsis)
定義
感染症により生命を脅かす臓器障害が引き起こされる状態。
病原体
病原体は黄色ブドウ球菌を代表とするグラム陽性球菌(GPC)と大腸菌を代表とするグラム陰性桿菌(GNR)が大半を占める。
感染経路
病原微生物により感染侵入門戸は異なるが、頻度の高い感染巣(呼吸器、尿路、腹腔内、皮膚軟部組織)と見逃しやすい感染巣(前立腺、胆管、関節、感染性心内膜炎)がある。
潜伏期間・主要症状・検査所見
潜伏期間は病原微生物により様々である。
臓器障害の表現型として以下の症状が重要である。
①呼吸不全:呼吸困難・頻呼吸
②凝固能異常:出血傾向・皮膚の紫斑
③肝機能異常:黄疸
④循環不全(ショック):頻脈・血圧低下・皮膚の異常(温かいこともあれば冷たいこともある)
⑤中枢神経異常:意識障害
⑥腎機能障害:尿量の低下あるいは無尿
検査所見としては、上記臓器不全を示唆する検査所見(P/F比の低下、血小板の減少、ビリルビンの増加、クレアチニンの増加)とともに、炎症反応、血清乳酸値が重要である。
予後
敗血症の予後は病原微生物、感染した患者の背景因子、治療介入の質により様々であり、一概にはいえないが、本邦では10万人/年が死亡していると推定されている。
感染対策
①予防:ワクチン接種(インフルエンザウイルスや肺炎球菌)および衛生管理の徹底(手指衛生・マスクの着用)
②早期認知と早期治療介入
法制度
原因微生物に応じて、感染症法に基づき、規定された届出を行う。
診断
非ICU患者(外来や救護所を独歩受診した患者、救急車で搬入された患者)で感染症を疑った場合、まずqSOFA(quick SOFA)基準(呼吸数≧22回/分、意識変容あり、収縮期血圧≦100mmHg)でスクリーニングを行う。2項目以上該当するようであれば、敗血症の可能性があるため、続いてSOFAスコアで臓器障害の有無を評価し、2点以上の急上昇を認めれば敗血症と確定診断する。敗血症と診断した後、十分な輸液を行ったにも関わらず平均血圧65mmHgを維持するために血管作動薬を必要とし、かつ血清乳酸値が2mmol/L(18mg/dL)以上のものを敗血症性ショックseptic shockと診断する。
診断した(疑った)場合の対応
モニター装着の上、呼吸循環監視を開始する。晶質液(リンゲル液など)による十分な輸液(30mL/kg以上を目安とする)を開始する。可能ならば、採血(末梢血、生化学、凝固、血液ガス分析)、血液培養2セット、必要に応じて喀痰培養、尿培養、髄液培養を採取する。
治療(応急対応)
十分な輸液とともに血液培養採取後に広域抗菌薬投与empiric therapyを行うのが望ましいが、高次医療機関へ転送する場合は輸液を行うのみで十分である。
専門施設に送るべき判断
敗血症と診断した(疑った)場合は、全例三次医療機関(救命救急センター)へ転送する。
専門施設、相談先
三次医療機関(救命救急センター)
役立つサイト、資料:
- 日本版敗血症診療ガイドライン2016. 日本集中治療医学会雑誌 Vol.24 Supplement 2, Feb 2017.
- 敗血症情報サイト. http://敗血症.com/index.html
- Global Sepsis Alliance. https://www.global-sepsis-alliance.org/
- World Sepsis Day. https://www.worldsepsisday.org/?MET=HOME&vLANGUAGE=EN
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
熊本医療センター救命救急センター 渋沢崇行