日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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伝染性単核球症(infectious mononucleosis)

病原体

大半がEpstein-Barrウイルス(EBV)による。その他、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、トキソプラズマ原虫、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)などが原因となることもある。

感染経路

EBVは主に唾液を通じて伝播するが、血液や精液を通じて感染することもある。

流行地域

世界中で発生が報告されており、特定の流行地域はない。

発生頻度

日本では届出の義務はないため正確な患者発生数は不明である。米国の報告では年間10万人当たり約50人の患者が発生し、好発年齢は10~20代である。

潜伏期間・主要症状・検査所見

EBV感染では約4~6週間の長い潜伏期を経て、以下のような症状・徴候を来たすことがある。

症状・徴候発症頻度(%)症状・徴候発症頻度(%)
リンパ節腫脹83~100%倦怠感42~76%
咽頭炎、扁桃炎68~90%頭痛22~67%
発熱60~100%肝腫大6~15%
咽頭痛50~87%腹痛、悪心、嘔吐5~25%
脾腫43~64%皮疹0~25%

発熱は2週間程度の軽度なものが多いが、1か月以上続くこともある。発症から2週間は頸部リンパ節腫脹と咽頭炎が最も目立つ。後頚部や腋窩、鼠径リンパ節腫大の有無は、他の咽頭炎との鑑別に有用とされる。脾腫はほぼ全例で発症2~3週頃にみられる。

検査所見としては白血球数が通常増加し、発症してから2~3週で10,000~20,000/μLのピークに達する。リンパ球と異型リンパ球の増加も認められる。異形リンパ球の割合が10%以上で陽性尤度比が9.0、20%以上で28、40%以上で50と報告されており、異形リンパ球の割合が高いほど伝染性単核球症の可能性が上がる。また発症から1ヶ月は軽度の好中球減少と血小板減少がよくみられる。90%以上の症例で肝機能障害を認め、第2週頃をピークとして300~500IU/L程度のことが多いが、なかにはAST、ALTが数千IU/Lと著明な肝機能障害を伴うことがある。

予後

良好であり2~3週間で自然軽快する。合併症に脾破裂、脳炎などの中枢神経合併症(1%以下)、自己免疫性貧血(0.5~3%)などがある。

感染対策

標準予防策で対応する。

法制度

伝染性単核球症による急性肝炎で、病原体が抗体価など検査診断された場合には、五類感染症の「ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)」として7日以内に届け出る。

診断

症状や血液像に血清診断を加えて総合的に診断する。90%以上の患者において発症時点でVCA(virus capsid antigen)IgMとIgGが上昇する。VCA-IgM抗体は発症から2~3ヶ月のみ上昇するため、急性伝染性単核球症の診断に最も有用である。一方、VCA-IgG抗体は生涯陽性となるため、過去の感染既往の確認に用いられる。EBNA(EBV nuclear antigen)に対する抗体陽転も急性EBV感染の診断に有用である。抗EBNA抗体はEBV急性感染のほぼ全例で発症から3~6週経って陽性となり、一旦陽性となると生涯続く。

診断した(疑った)場合の対応

思春期から若年青年期の患者で発熱、咽頭痛、倦怠感を訴え、リンパ節腫脹、咽頭炎が認められる場合には伝染性単核球症を疑うべきである。病歴聴取、身体診察と共に急性期はまずVCA-IgG、VCA-IgM、EBNAを測定する。CMVも原因の5~10%を占めるため、CMV IgM、IgGの測定も検討する。
脾腫が認められる場合、脾破裂のリスクとなるため発症3週間は運動を避けるよう指示する必要がある。通常、腹痛は稀であり左側腹部痛が出現した場合は脾破裂を精査する必要がある。
ペニシリン系抗菌薬により滲出性紅斑様皮疹や丘疹などが出現することがあるため、使用は避ける。

治療(応急対応)

特異的な治療法は現時点では存在しないことと、一般的には自然軽快する疾患であるため、対症療法で経過観察することが多い。通常は2~4週間で改善するが、一部の患者で倦怠感が数週間持続することがある。

専門施設に送るべき判断

入院が必要となる重症例は専門施設へ紹介する。

専門施設、相談先

近隣の高次医療機関

役立つサイト、資料

  1. Eric C. Johannsen and Kenneth M. Kaye: Epstein-Barr Virus (Infectious Mononucleosis, Epstein-Barr Virus-Associated Malignant Diseases, and Other Disease) In Mandell, Douglas and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 8th ed (Bennett JE, Dolin R, Blaser MJ ed) , vol.2, pp.1754-71, Churchill Livingstone, Philadelphia, 2015.
  2. Jeffery I.Cohen:伝染性単核球症を含むEpstein-Barrウイルス感染症.ハリソン内科学.日本語版監修;福井次矢ほか.第5版.メディカル・サイエンス・インターナショナル.2017;1229-33.
  3. 国立感染症研究所.伝染性単核症.IDWR 2003年第25号
    https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ta/im/010/im-intro.html
  4. CDC. Epstein-Barr Virus and Infectious Mononucleosis.
    https://www.cdc.gov/epstein-barr/about/mononucleosis.html
  5. Jullian E. Sylvester, Benjamin K. Buchanan, et al. Infectious mononucleosis: Rapid Evidence Review. Am Fam Physician. 2023; 107(1): 71-78.

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

新宿なないろクリニック 井手  聡

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