日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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天然痘(smallpox)

病原体

痘瘡ウイルス/Variola virus

感染経路

飛沫感染・接触感染、ときに空気感染も生じうる

流行地域

1980年5月に世界根絶が宣言された。

発生頻度

現在は発生なし

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期は約12日(平均7-17日)である。病型は(1)通常型、(2)出血型、(3)扁平型、(4)不全型(修飾型)の4型が知られている。
  1. 通常型:2-4日の前駆期(急激な39℃台の発熱、頭痛、四肢痛、腰痛)を経ていったん解熱したのちに、再度の発熱と同時に発疹期(紅斑→丘疹→水疱→膿疱→痂皮→落屑と同期して規則正しく移行する)となる。発疹は約21日間持続する。発疹は、全身に出現するが、顔面と四肢遠位側に分布し、輪郭が明瞭で水疱には臍窩がみられる。(図1)
図1
  1. 出血型:潜伏期は通常型よりも若干短く、前駆症状がより重症である。すべての年齢で起こるが成人の方が多い。ワクチン既接種者でも発症すると言われている。発疹が出現する前から出血する早期出血型(図2)と、発疹出現後にその発疹から出血する晩期出血型(図3)とに分かれる。発症後5-6日目に死亡することが多い。
図2図3
  1. 扁平型:まれな型であるが予後は不良である。小児での発生が多い。発疹の出現が遅く、癒合しており、平坦で柔らか(ベルベット様)である。膿疱は形成しない。ワクチン接種によって予防可能である。(図4)
図4
  1. 不全型(修飾型):ワクチン既接種者における軽症型で比較的まれ。前駆症状は通常型と同様だが、発疹出現時には発熱はおさまり、しかも早く進行し10日以内で終了する。

予後

治癒した者の後遺症は、痘痕(色素脱出を伴うへこみ傷)が最も多い。そのほか、失明、脳炎、骨髄炎、死産と自然流産、男性不妊症(閉塞性無精子症)などが知られている。

感染対策

飛沫感染および接触感染対策を行う。空気感染の可能性を考慮し陰圧個室対応が望ましい。

法制度

「痘そう」は感染症法では1類感染症(患者、疑似症患者、無症状病原体保有者、死亡はただちに届出)、検疫法では検疫感染症。

診断

臨床や所見から天然痘が疑われ、行政検査による病原体診断を行う。類似疾患であるサル痘(4類感染症)がアフリカ諸国で再興しているために鑑別を要する

診断した(疑った)場合の対応

バイオテロである可能性が極めて高いために、保健所へ直ちに通報(相談)する。患者および疑似症患者、無症状病原体保有者は、特定および第一種感染症指定医療機関に入院となる。

治療(応急対応)

対症療法(重症例に対して鎮痛剤、水分補給、栄養補給、気道確保、皮膚の衛生保持など)。

専門施設に送るべき判断

特徴的な発疹を見たときに最寄りの保健所へ相談する。

専門施設、相談先

保健所

役立つサイト、資料

1)WHO:Clinical diagnosis, Emergency preparedness, response.
https://www.who.int/csr/disease/smallpox/clinical-diagnosis/en/

2)F. Fenner, D. A. HendersonI. Arita, Z. Jezek, I.D. Ladny i: Smallpox and its eradication, WHO, http://apps.who.int/iris/handle/10665/39485

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

防衛医科大学校防衛医学研究センター 加來浩器

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