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百日咳(pertussis)
病原体
百日咳菌(Bordetella pertussis)による。
感染経路
咳やくしゃみによる飛沫感染、または接触感染であり、感染力が強い。
流行地域
世界中で発生している。百日咳含有ワクチンの接種率は、先進国で約95%、開発途上国で約85%である。しかし、診断精度の差異やワクチン忌避などにより、先進国でも多くの症例が報告されている。
発生頻度
コロナ禍以前において、わが国では年間1.2~1.6万人、世界では年間15万人以上(人口10万人あたり約2.3人)の症例が報告された。ただし、各国により診断基準や診断精度が異なる。
潜伏期間・主要症状・検査所見
潜伏期間:1~3週間(特に7~10日間)である。
主要症状:かぜ症状で始まり、咳嗽を伴う(カタル期;1~2週間)。その後、発作性の激しい咳嗽が現れ、咳込み後に嘔吐を伴うことがある(痙咳期;約3~6週間)。典型的には短い咳嗽が連続し(staccato)、直後に吸気性笛声(whoop)を伴い、この咳嗽発作を反復する(reprise)。その後、咳嗽は徐々に軽快する(回復期;数週間)。ワクチン未接種または未完了の乳児早期では、特徴的な咳嗽が目立たず無呼吸発作やチアノーゼ、脳症、突然死など重篤な合併症を引き起こすことがある。ワクチン既接種の年長児や成人では、発作性咳嗽の頻度は低い。
検査所見:乳児では、末梢血液検査でリンパ球優位の白血球増多を認めることがある。
予後
生後6か月未満の乳児は死亡率が最も高い。
感染対策
標準予防策および飛沫感染対策を行う。
法制度
感染症法では、2018年に百日咳は五類の定点把握疾患から全数把握疾患に変更され、診断した医師には7日以内の届出が義務付けられている。学校保健安全法では、「特有の咳が消失するまで、または5日間の適正な抗菌薬療法が終了するまで」が出席停止期間とされている。
診断
年齢に応じた臨床診断を行い、かつ検査診断で陽性となった場合や、検査確定例との接触者を確定例とする。咳嗽発症後4週未満では、百日咳菌の分離や遺伝子検査(LAMP法、PCR法)、抗原検査(イムノクロマト法)などを用いた微生物診断が行われる。4週間以上経過した場合や微生物検査が陰性であった場合は、IgM/IgA抗体やPT-IgG抗体検査などの血清診断を行う。
診断した(疑った)場合の対応
感染対策に加えて患者の治療を行う。濃厚接触者にはマクロライド系薬等の予防投与が推奨される(保険適用外)。
治療(応急対応)
症状の期間短縮および周囲への伝播防止を目的に、発症1~2週以内のカタル期にマクロライド系薬を投与する。マクロライド系薬に対する耐性菌はまれだが、中国では近年70~100%の耐性株が報告されており、イランやフランス、わが国でも少数ながら報告がある。
専門施設に送るべき判断
乳児患者は入院が望ましい。重症例では高次医療機関への移送が必要となる。
専門施設、相談先
特になし。
役立つサイト、資料
- 国立感染症研究所.百日咳.
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/pertussis/010/pertussis.html - World Health Organization. Pertussis
https://www.who.int/health-topics/pertussis#tab=tab_1 - Centers for Disease Control and Prevention. Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases. Chapter 16: Pertussis
https://www.cdc.gov/pinkbook/hcp/table-of-contents/chapter-16-pertussis.html - 日本呼吸器学会.百日咳診断基準フローチャート(咳嗽喀痰の診療ガイドライン2019)
https://www.jrs.or.jp/activities/guidelines/publication/20191205170450.html - 小児呼吸器感染症診療ガイドライン作成委員会,百日咳・ジフテリア,小児呼吸器感染症診療ガイドライン,石和田稔彦/新庄正宜,協和企画,東京,98-101,2022
- 日本環境感染学会ワクチン委員会,百日咳ワクチン,日本環境感染学会誌 2020;35:S23-S28頁
http://www.kankyokansen.org/modules/publication/index.php?content_id=17 - 厚生労働省.感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について.百日咳
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-23.html
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
川崎医科大学小児科 田中 孝明