69非定型肺炎(atypical pneumonia)
病原体
非定型肺炎の病原体は主にLegionella属菌,Mycoplasma pneumoniae,Chlamydia pneumoniae,Chlamydia psittaciである。それぞれを起因菌とする感染症がレジオネラ肺炎、マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎、オウム病である。Legionella属菌については感染経路や症状が他の病原体と異なるので別項で解説する。
感染経路
M. pneumoniaeは飛沫感染によりヒト-ヒト伝播をする。C. pneumoniaeもヒト-ヒト伝播を起こすと考えられるが、感染経路はよく分かっていない。C. psittaciは人畜共通感染症であり、トリの排泄物に含まれる病原体の吸入により感染するが、まれに口移しでの給餌や噛まれて感染することがある。
流行地域
いずれの病原体も世界中に分布している。C. psittaciは鳥との接触歴が重要であり、特に飼育鳥が死亡している時は疑いが濃い。他にペットショップに立ち寄った、公園でハトと接触した、などの接触歴がある場合が多い。
発生頻度
わが国の市中肺炎患者を対象としたメタ・アナライシスでは、市中肺炎に占める起因菌の割合はM. pneumoniaeが7.5%で3番目に多く、次いで4番目がC. pneumoniaeの3.3%であった。マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎は2020年から2021年の新型インフルエンザウイルス流行期は報告数が著明に減少した。2024年はマイコプラズマ肺炎の大きな流行を認め、第1~35週の定点当たりの累積報告数は周期的な大流行の年となった2016年に次いで多かった。オウム病の年間報告数は1999年から約10-50例の間で推移しており、2022年は12例だった。
潜伏期間・主要症状・検査所見
マイコプラズマ肺炎の潜伏期間は1~4週間、クラミジア肺炎の潜伏期間は3~4週間で比較的長い。一方、オウム病の潜伏期間はやや短く5~14日である。
マイコプラズマ肺炎とクラミジア肺炎は上気道症状から発症することも多く、発熱や全身倦怠感などの症状に加え、特にクラミジア肺炎ではしばしば咽頭痛を伴う。肺炎を発症した場合、頑固な乾性咳嗽を伴うことが多く、適切な抗菌薬治療を行っても数週間持続することがある。いずれも症状が軽微であることが多く、正確な診断がなされないままに治癒(一部は自然軽快する)している可能性がある。
予後
一般に非定型肺炎の予後は良好であるが、まれに脳症など重篤な合併症を発症し致死的な経過をたどることがある。
感染対策
M. pneumoniaeはヒト-ヒト伝播をするために、罹病期間中は飛沫予防策を講じる。C. pneumoniaeは病院感染対策ガイドライン(国公立大学附属病院感染対策協議会)では標準予防策と記載されているが、ヒト-ヒト伝播を示し、閉鎖集団での集団発生の報告があるため、濃厚接触時には飛沫予防策が望ましい。C. psittaciはヒト-ヒト伝播は極めて稀なので、標準予防策で良い。
法制度
マイコプラズマ肺炎およびクラミジア肺炎(オウム病を除く)は全国約500カ所の病床数300以上の基幹定点医療機関が五類感染症として週単位で届け出る。オウム病は感染症法で四類感染症に分類され、確定患者、無症状病原体保有者、死亡者を診断後直ちに届け出る。
診断
いずれの病原体も培養が難しく特殊な培地が必要であるため、確定診断には血清抗体検査や遺伝子検査が必要である。M. pneumoniaeを検出する迅速抗原検査や核酸同定検査は一般医療機関でも実施可能である。
また、臨床症状や曝露歴から疑うことも可能である。日本呼吸器学会の成人肺炎診療ガイドライン2024では、①年齢60歳未満、②基礎疾患がない、あるいは軽微、③頑固な咳がある、④胸部聴診上所見が乏しい、⑤迅速診断法で原因菌が証明されない、⑥末梢白血球数が10,000/μL未満である、のうち5項目以上が合致すればマイコプラズマ肺炎を強く疑い、3または4項目合致の場合は、鑑別困難または細菌性肺炎とマイコプラズマ肺炎の混合感染を考慮する、とされている。
診断した(疑った)場合の対応
多くは軽症であることから、抗菌薬を投与しながら外来で対応するのが一般的である。
治療(応急対応)
β-ラクタム系抗菌薬は無効であり、マクロライド、テトラサイクリン、キノロン系抗菌薬が使用可能である。
専門施設に送るべき判断
ときに肺炎症状が重症化し、合併症として心内膜炎、肝炎、脳炎・脳症、喘息発作などを生じることがあり、程度により高次医療機関への転送を考慮する。
専門施設、相談先
呼吸器内科を有する、あるいは集学的治療ができる施設。
役立つサイト、資料
- 日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2024作成委員会.成人肺炎診療ガイドライン.一般社団法人日本呼吸器学会.2024
- 国立感染症研究所.感染症発生動向調査週報.https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/index.html
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
国立国際医療研究センター国際感染症センター 秋山裕太郎