日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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Q熱(Coxiella burnetii感染症)(Q fever)

病原体

Coxiella burnetii、細胞内寄生性桿球菌でレジオネラ目。表面のLPSに抗原的に異なるⅠ相とⅡ相の2つの相があり、形態的には、Large-cell Variant(LCV)とSmall cell variant(SCV)がある。LCVは増殖型であり、SCVはグラム陰性球菌の芽胞に似た性格をもち、熱や浸透圧、機械的な圧力、化学物質や乾燥に抵抗性で、羊毛中では室温で7-10か月、生の食肉中で1か月以上、牛乳の中で40か月以上生存する。

感染経路

ヒトへの感染源となる主な自然宿主はウシ、ヒツジ、ヤギなどの反芻動物であるが、ネコやイヌ等家畜哺乳類、海洋哺乳類、爬虫類など多くの動物が保有。ほとんどの感染動物は無症状。ヒトの感染は感染動物の分娩・流産時、屠殺時に、胎盤や排出物、皮革、羊毛、堆肥からのエアロゾルや、これらによって汚染された塵埃の吸入による。綿や麦わら、家畜の敷き藁などの汚染された物品への曝露によっても起こる。風にのって長距離広がることもあり、また滅菌されていない乳製品も病原体を含むことがある。ヒト-ヒト感染は感染妊婦の分娩時や肺炎患者、剖検時の感染が報告されている。

流行地域

人獣共通感染症であり、ニュージーランドを除く世界中から報告がある。感染伝播状況はそれぞれの国における動物宿主における感染環の動態を反映し、オーストラリア、北米、ヨーロッパでは大きなアウトブレイクも報告されている。

発生頻度

地域によりかなり異なり、また疾病の認知度にもよる。米国では年間100-200例であるが、カナダのマニトバでの献血者では保有率が15.9%、ブランズウィックでは4.2%(1986年)、日本でも小児の異形肺炎での抗体陽性率は35.7%(1996年)だったという報告もある。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期は2~3週で曝露量によって異なり、9~39日の幅がある。慢性Q熱は初感染から数ヶ月から数年で発症することもある。
初感染では約半数が症候性で多くは不明熱として受診する。臨床的には発熱、悪寒、頭痛、全身倦怠や咳と言った非特異的な症状で発症し、小児では下痢、嘔吐、腹痛が50~80%でみられる。発疹のあることもある。肺炎は咳と息切れで発症し、中年が多く、肺外症状(咽頭痛、嘔吐、腹痛、筋肉痛、関節痛、頭痛)を伴うことも多い。他の病型として肝炎、溶血性尿毒症症候群、心外膜炎、心筋炎、心内膜炎、脳炎、髄膜炎、血球貪食症候群、リンパ節炎、胆嚢炎、横紋筋融解等も報告されている。
持続性感染で最も多いものは心内膜炎であり、初感染から進展するリスク因子として男性、40歳以上、そして既存の心弁膜疾患である。症状としては発熱、体重減少、盗汗、肝脾腫等で、潜伏性に進行して弁膜の破壊に及ぶ。血管感染は胸部・腹部大動脈に多い。大血管の疾患、人工血管置換がリスクとなる。他に慢性再発性の骨髄炎、慢性肝炎、生殖器の感染がある。小児では慢性Q熱の表現型として骨髄炎が多い。初感染後、疲労感が続く慢性疲労症候群(Chronic Fatigue syndrome)の報告もある。

予後

初感染の予後はいずれも良好であり30日前後で改善する。肺炎型では致死率は1%と報告されている。持続感染ではオランダからの報告では心内膜炎を起こしていると致死率9.3%と報告され、血管感染では18-26%とされ予後不良である。

感染対策

標準予防策で対応するが、エアロゾルが生成される場合、Q熱患者における分娩には空気予防策が必要となる。

法制度

「Q熱」は感染症法では四類感染症で、患者、疑似症、無症状病原体保有者、死亡者は直ちに届け出る。C. burnetiiはBSL-3病原体であり、感染症法上、三種病原体等に指定されており、保持には届出が必要。

診断

間接蛍光抗体法による3~6週間空けたペア血清で、抗Ⅱ相IgG抗体の4倍以上の上昇がもっとも一般的な診断方法である。回復期単一血清での128倍以上の抗Ⅱ相抗体陽性はProbable caseと考える。持続性(慢性)感染は抗Ⅰ相抗体の上昇(典型的には1,024倍以上)と感染巣の確認(心内膜炎、血管炎、骨髄炎、慢性肝炎)によって行われる。なお、抗体価の診断基準は国と地域によって異なる。発症後2週間抗菌剤治療前では、全血、血清、組織での核酸増幅検査による遺伝子の検出も可能であるが、陰性結果のみでは必ずしも否定できない。血清学的検査との総合的な診断が必要である。

診断した(疑った)場合の対応

一般的には自然治癒傾向があるが、早期治療により有症期間の短縮と重症化予防が可能なので、全血、血清を採取後、経験的に治療を開始する。通常は早期には検査は陰性である。

治療(応急対応)

初感染で症状があれば疑いの段階で治療を開始する。通常は年齢にかかわらずドキシサイクリン14日間使用するが、8歳未満や妊婦ではスルファメトキサゾール・トリメトプリム、持続感染による心内膜炎は、ドキシサイクリンとハイドロキシクロロキンを少なくとも18ヶ月使用する。

専門施設に送るべき判断

本疾患では持続性感染のリスク評価と、それによっては進展予防が必要になることがあり、リスク評価が難しい場合、患者が妊婦の場合には専門施設に相談する。

専門施設、相談先

地域の基幹施設で感染症科のある医療機関、妊婦の場合には感染症科と産婦人科のある施設あるいは保健所を通して国立感染症研究所に相談する。

役立つサイト、資料

  1. USCDC. Q fever. https://www.cdc.gov/q-fever/about/index.html
  2. Lena Norlander, Q fever epidemiology and pathogenesis, Microbes and Infection, Volume 2, Issue 4, 2000, Pages 417-424, ISSN 1286-4579, https://doi.org/10.1016/S1286-4579(00)00325-7.
  3. Hartzell, Joshua D. et al. Q Fever: Epidemiology, Diagnosis, and Treatment.
    Mayo Clinic Proceedings, Volume 83, Issue 5, 574-579
  4. Red Book 2024-2027( 33rd ed.) - Report of the Committee on Infectious Diseases. D. W. Kimberlin, R. Banerjee, E. D. Barnett, et al. AMERICAN ACADEMY OF PEDIATRICS. PP 699-702.

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立病院機構三重病院臨床研究部 谷口 清州

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