日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2023年4月19日

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日本紅斑熱(Japanese spotted fever)

病原体

日本紅斑熱リケッチア(Rickettsia japonica

感染経路

R. japonicaを保有するマダニ類(キチマダニ、フタトゲチマダニ、ヤマアラシチマダニ等)に刺咬されて感染する。ヒト-ヒト感染はない。

流行地域

千葉以西の太平洋側を中心に発生が見られる。近年、届出地域は青森や新潟などに拡大している。

発生頻度

近年増加傾向にあり、2016年は277例、2017年は337例が報告されている。発生時期はマダニの活動期に一致し(3-10月)、夏から秋に多い。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期は2-8日。発熱、皮疹、倦怠感、頭痛、全身痛などの非特異的な症状で発症する。ツツガムシ病と同じく発熱、皮疹、刺し口が三徴である。刺し口の頻度はツツガムシ病より少ない。マダニに刺されたことを自覚する患者は少なく、刺し口に気づいていないことが多い。刺し口は全身をくまなく探すことが重要で、とくに腋窩、膝窩、臍、陰部、頭部、腕時計の下、下着の当たる部分などは見落としやすい。ツツガムシ病と比較して刺し口は小さく、皮疹も小さめで手掌・足底を含む四肢で目立つとされているが、容易に区別できないこともある。リンパ節腫脹はあまりみられない。CRP上昇、白血球減少、血小板減少、肝機能異常などが見られるが、やはり特異的な所見ではない。

予後

感染症発生動向調査で2007-2016年に報告された1,765例のうち届出時点の死亡例は16例(致死率0.91%)。発病から死亡までの日数は幅があり(1-24日)、半数近く(7例)は1週間以内に死亡していた。急性感染性電撃性紫斑病の報告もある。

感染対策

診療時には標準予防策をとる。マダニ刺咬症を診察した際には、発症を防ぐため可能な限りすみやかな除去が必要だが、抗菌薬の予防投与は推奨されていない。マダニ刺咬・除去後、1-14日は発熱や発疹がないかどうかに注意し、症状出現時にはすみやかに受診するよう十分な説明が重要である。マダニ除去時には病原体の残存を避けるため、潰したり頭部を残さないよう注意する。ワセリンで刺咬部を30分覆いマダニを窒息させてからガーゼや布で拭き取る方法がある。
疾病に対する有効な予防はダニ刺咬を防ぐことのみである。林業や農作業、レジャーや散歩で野山や畑に入りダニに刺されることで感染しうるため、流行地では長袖長ズボンなどの服装で活動する。DEETなどを含有したダニ忌避剤には一定の効果がある。野外作業後には刺咬しているマダニをみつけるためにも入浴が推奨される。

法制度

「日本紅斑熱」は感染症法上4類感染症に定められており、確定患者、無症状病原体保有者、死亡者を診断した医師はただちに最寄りの保健所へ届出が必要である。

診断

主にぺア血清を用いた抗体検査と、刺し口の痂皮や血液検体を用いたPCR法で診断を行う。血清診断は急性期でのIgM抗体陽性もしくは、経時的な陽転化、IgG抗体では急性期と約2週間後の血清で4倍以上の抗体価上昇を認めた場合に確定診断とする。商業的検査機関ではR. japonicaに対する抗体価の測定ができないため、最寄りの保健所を通じて地方衛生研究所へ依頼する。PCR検査においては刺し口の痂皮の感度が高い。痂皮は乾燥保存の状態でよい。血液は血清、EDTA添加全血が良い。

診断した(疑った)場合の対応

治療の遅れが重症化につながるため、臨床的に疑う場合は診断に必要な検体を採取・保存し、検査結果を待たずに治療を開始する。患者に典型的な症状が揃っていないこともあるが、季節や地理的背景、行動歴などが本症を疑う手がかりになる。

治療(応急対応)

テトラサイクリン系抗菌薬が第一選択である。

専門施設に送るべき判断

重症化が進み全身管理を要する場合は、高度医療機関での治療が必要となる。

専門施設、相談先

4類感染症であり最寄りの保健所に相談することができる。

役立つサイト、資料

  1. 国立感染症研究所。 ツツガムシ病・日本紅斑熱 2007~2016年. IASR Vol. 38 p.109-112: 2017年6月号
  2. 亀田感染症ガイドライン。リケッチア感染症 version 2.
    https://medical.kameda.com/general/medical/assets/15.pdf
  3. 馬原文彦。マダニ媒介性疾患を考える~日本紅斑熱の現状とSFTSの出現~ モダンメディア 2014; 60(2):13-20

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

東京都保健医療公社荏原病院 感染症内科 田宮 彩

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