日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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ツツガムシ病(Scrub typhus)

病原体

Orientia tsutsugamushi。血清型が存在し、Kato、Karp、Gilliamの3種類が標準型で、その他の型もある。

感染経路

病原体を保有した媒介動物のツツガムシに吸着されることにより感染する。吸着時間は1~2日で、ツツガムシから動物への菌の移行には6時間以上が必要となる。

流行地域

世界では北日本、西オーストラリア、中央ロシアを頂点とするツツガムシトライアングルを中心にアジアに広く分布する(図1)。日本では北海道を除く全国で発生が見られ、野山、河川敷などで曝露される。

図1:ツツガムシ病の流行地域(出典:Mandell, Douglas, and Benett’s Principles And Practice of Infectious Disease 8th Edition, p.2225-2226, FIGURE 193-1)

発生頻度

世界では年間約100万人が感染している可能性があり、日本では年間400~500例の感染報告があり、ツツガムシの活動時期に合わせ5~6月と11~12月に発生のピークがある。輸入感染例は、2007年~2016年に17例(韓国6例、カンボジア3例、マレーシア2例、他)報告されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は5~14日間(通常およそ1週間)である。症状は発熱、刺し口(Eschar)、皮疹が主要三徴候と呼ばれ、それぞれ約90%の患者で認められる。刺し口は径10mm前後で黒色痂皮の周りに発赤を伴うものが典型的で、股間、腋窩、腰部など発見されにくい部位に多く、頭髪内、被覆部含めて全身の皮膚観察を行うことが肝要である(図2)。潜伏期間を経て、発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感が出現した後、3、4日後に体幹部に発疹を認め、四肢へと広がっていく。刺し口近傍の所属リンパ節もしくは全身リンパ節の腫脹を認めることがあり、肝脾腫も起こりえる。一般検査では、異型リンパ球出現、血小板減少、低Na血症、肝逸脱酵素上昇、CRP上昇、尿蛋白、尿潜血陽性を認めることが多い。重症化した場合には、意識障害、多臓器不全、播種性血管内凝固を起こすことがあり、死に至ることもある。

図2:ツツガムシ病のEschar(国立感染症研究所HP参照(https://www.niid.go.jp/niid/ja/encycropedia/392-encyclopedia/436-tsutsugamushi.html))

予後

報告により差はあるが、適切な抗菌薬投与がなされない場合には致死率3~60%と生命に関わる疾患である。適切な治療がなされれば、3日以内に解熱して軽快することが多い。

感染対策

予防接種はない。ダニの吸着を防ぐことが重要なため、流行地域で野山や河川敷に入る際には、長袖長ズボンで肌の露出を避け、忌避剤(DEET等)を適宜使用する。作業後は早めに着替え、入浴で吸着したダニを洗い流すことが推奨される。通常ヒト-ヒト感染は見られないため、患者の診療においては標準予防策で対応する。

法制度

「つつが虫病」は感染症法で4類感染症に定められており、確定患者、無症状病原体保有者、死亡者を診断した医師は直ちに最寄りの保健所へ届け出ることが義務付けられている。

診断

原因不明の発熱、皮疹患者で、リケッチア流行地域での曝露の可能性がある場合に、全身観察で刺し口を探す。確定診断は、リケッチア間接蛍光抗体法による抗体の検出が標準的な診断法で、Kato、Karp、Gilliam の標準3血清型の抗原を用いる場合は保険適応となっている。その他一部の地方衛生研究所では、地域で流行している抗原を用いる検査も行っている。急性期血清でIgM抗体が有意に上昇している場合か、ペア血清で抗体価が4倍以上上昇した場合を陽性とする。また、治療前の痂皮のPCRによる病原体遺伝子の検出も確定診断方法となる。

診断した(疑った)場合の対応

早期診断、早期治療が重要なため、全血、血清、痂皮等の検体保存を行うと同時に、抗菌薬投与を速やかに開始する。

治療(応急対応)

早期治療が極めて重要であり、本症を疑ったら直ちに治療を開始する。抗菌薬の第1選択はテトラサイクリン系抗菌薬(ドキシサイクリン、ミノサイクリン)である。クロラムフェニコール、アジスロマイシン、リファンピシンも効果がある。

専門施設に送るべき判断

意識障害、多臓器不全、播種性血管内凝固などを発症した重症例については全身管理が必要なため、専門施設に迅速に搬送する。

専門施設、相談先

重症の場合は集中治療管理が行える感染症科を有する病院へ搬送する。4類感染症であり保健所に相談することも可能。

役立つサイト、資料

  1. 国立感染症研究所. ツツガムシ病とは. IDWR 2002年第13号. https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/436-tsutsugamushi.html
  2. 国立感染症研究所. つつが虫病・日本紅斑熱 2007~2016年. IASR Vol. 38 p.109-112: 2017年6月号. https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/617-disease-based/ta/tsutsugamushi/idsc/iasr-topic/7324-448t.html
  3. Raoult D. Orientia tsutsugamushi(Scrub Typhus). Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases. Mandell et al., Eighth Edition. p.2225-2226. 2015.

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

東京都福祉保健局 松平 慶

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