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ポリオ(急性灰白髄炎)(poliomyelitis)
病原体
ポリオウイルス(抗原性により1型、2型、3型に分類)。
感染経路
主な感染様式は接触感染である。感染者の便には3~6週間ウイルスが排泄され、手指を介して糞口感染する。症状出現後1~2週間までは咽頭にもウイルスが検出されるために飛沫感染を起こすこともある。
流行地域
1)野生型ポリオウイルス(wild-type poliovirus: WPV)
本邦においては、1981年以降、WPV感染例の報告はない。国際的には、野生型ポリオウイルス2型(WPV2)は2015年、野生型ポリオウイルス3型(WPV3)は2019年にWHOより根絶宣言が出されており、2024年の時点では、野生型ポリオウイルス1型(WPV1)のみがパキスタンとアフガニスタンの2か国のみで流行している。ただし近年は、流行地域に由来するWPV1による感染例がマラウイやモザンビークなどでも確認されている。
2)伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(circulating vaccine-derived poliovirus: cVDPV)
近年は、経口生ポリオワクチン(oral polio vaccine: OPV)によるcVDPV感染がポリオ根絶を妨げる重要な課題となっており、2022年においては、コンゴ民主共和国、イエメン、チャド、モザンビーク、ナイジェリア、マダガスカルなどからcVDPV患者が報告されている。さらに、同年7月には、米国ニューヨーク州からワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)による感染例が報告されており、理論上は本邦を含むポリオ根絶を達成した国においてもcVDPVによるポリオは発生しうる。
発生頻度
2014年には全世界で359例の報告があったWPVの患者数は2022年の時点で30例まで減少した。一方で、近年はcVDPVによるワクチン関連麻痺(vaccine-associated paralytic polio: VAPP)が大きな問題となっており、2023年1月~2024年6月の間に全世界で672例のcVDPV感染例が報告された。
潜伏期間・主要症状・検査所見
ポリオ感染者の多くは不顕性感染と報告されている。約25%は微熱、頭痛、咽頭痛などの感冒様症状のみを示し、その後1~5%に麻痺を伴わない無菌性髄膜炎を認める。1%未満に、感染後7~21日(範囲3~35日)の潜伏期間を経て、微熱、頭痛、咽頭痛、悪心などの前駆症状が数日間持続した後に典型的な左右非対称性の急性弛緩性麻痺(acute flaccid paralysis: AFP)を認める。髄液検査では、リンパ球の増加(10~200/μL)および蛋白の軽度上昇(40~50mg/dL)を認める。
予後
麻痺型患者のうち多くの症例で、筋拘縮や運動障害などの永続的な麻痺が残存する。死亡例のほとんどは急性呼吸不全によるもので、小児では2~5%であるが、成人においては15~30%と高く、特に妊婦では重症になる傾向がある。
感染対策
接触予防策に加え、病初期は飛沫予防策が必要である。日本においては2012年に経口生ポリオワクチン(Oral poliovirus vaccine: OPV)から不活化ポリオワクチン(Inactivated polio vaccine: IPV)に変更され、理論上、国内ワクチン由来の弛緩性麻痺(VAPP)は発生しないが、OPV導入国からの入国者がcVDPVを国内に輸入・伝播する可能性はあるため、国内における対策としてIPV接種率の維持や環境水調査によるWPV、cVDPVの輸入・伝播を監視している。急性期症状消失後、48時間以上の間隔をおいた2回の検査(便及び咽頭ぬぐい液からのウイルス分離)において、ポリオウイルスが検出されなければ、病原体を保有しないと評価する。
法制度
感染症法上は二類感染症に分類され、確定患者、無症状病原体保有者、死亡者を診断した医師は全ての患者を直ちに届け出なければならない。学校保健安全法においては第一種に分類されており、完全に治癒するまで出席停止となっている。また、2018年からはAFPの発生動向調査を強化する目的で、ポリオを除く15歳未満におけるAFPが五類感染症に追加された。
診断
糞便、直腸拭い液、咽頭拭い液、髄液を用いて、ウイルス分離・同定、PCR検査を行う。ポリオウイルスの検出は便検体が基本であり、発症後できるだけ速やかに24時間以上の間隔をあけて少なくとも2回以上、検体を採取し、いずれかひとつの便検体からポリオウイルス1~3型が検出された場合は、直ちに届出を行う。
診断した(疑った)場合の対応
感染拡大防止のために必要な場合は保健所長による特定、第一種、第二種感染症指定医療機関への勧告入院や、就業制限となることもある。
治療(応急対応)
呼吸障害を認める場合は挿管管理などを導入するが、特異的根治療法はなく、対症療法となる。予防接種による発症予防が重要である。
専門施設に送るべき判断
呼吸障害などの重度の症状を認める場合だけでなく、急性弛緩性麻痺を疑う症状を認めた場合は発生動向調査目的も兼ねて専門施設への転送を検討する。
専門施設、相談先
管轄保健所、感染症指定医療機関
役立つサイト、資料
- 国立感染症研究所.ポリオ.IDWR 2001年第26号
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/polio/010/polio-intro.html - 国立感染症研究所.ポリオ2023年現在.IASR Vol.44 p113-114:2023年8月号
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/44/522/article/010/index.html - FORTH,厚生労働省検疫所
https://www.forth.go.jp/useful/infectious/name/name09.html
https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2018/02231121.html - CDC, Yellow book 2024, Poliomyelitis
https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2024/infections-diseases/poliomyelitis - AAP, Red book 2024-2027; 682-689, Poliovirus Infections
- WHO, poliomyelitis.
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/poliomyelitis - Namageyo-Funa A, et al. Update on Vaccine-Derived Poliovirus Outbreaks - Worldwide, January 2023-June 2024. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2024; 73: 909-916.
(利益相反自己申告:
講演料:Sanofi株式会社、MSD株式会社)
聖マリアンナ医科大学 勝田 友博