日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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結核(Tuberculosis)

病原体

遺伝的に類似した結核菌群には、Mycobacterium tuberculosis(ヒト型結核菌)、M. bovis(ウシ型結核菌)、M. africanum(アフリカ型結核菌)などが含まれるが、ヒトの結核症はM. tuberculosisによるものが圧倒的に多い。ここでは、結核菌= M. tuberculosisとして論じる。

感染経路

結核菌はヒトを主な宿主とし、患者が咳やくしゃみをした際に放出される微細なエアロゾル(飛沫核)を吸入することでヒトからヒトへ伝播する(空気感染)。肺外結核症は通常感染源とならないが、菌を含む体液が飛沫状に飛び散った場合には感染源となり得る。

流行地域

罹患率(人口10万対)でみると、サハラ以南アフリカ(500以上:レソト、南アフリカ、モザンビーク。400以上:中央アフリカ、ナミビア。300以上:コンゴ、ザンビア、アンゴラ、コンゴ民主共和国、ケニア、リベリア、シエラレオネ)、東南アジア(500以上:フィリピン、北朝鮮。300以上:ミャンマー、カンボジア、インドネシア)、パプアニューギニア(400以上)が非常に高い。感染者数でみると、インド(274万人)、中国(89万人)、インドネシア(84万人)、フィリピン(58万人)などが多い。

発生頻度

我が国の罹患率は13.3(2017年)と、先進国の中では比較的高く(米国2.7、ドイツ7.2、英国8.8)、世界の中ではいまだ中蔓延国といえる。近年のわが国の流行の特徴として、①高齢化:新規結核罹患者の約6割を70歳以上の高齢者が占める。②地域格差:罹患率は大阪府(21.3)、長崎県、東京都、兵庫県の順に高く、宮城県、福島県、山形県、秋田県の順に低く、人口の密集・流動する地域に多い。③国際化:外国生まれ新登録結核患者数は全体の9.1%を占め、全体の罹患者数の低下に対して輸入症例の増加傾向がみられる。とくに、若年者結核では外国出生者が多く、20歳代では62.9%を占める(2017年)。

潜伏期間・主要症状・検査所見

感染後の発病は、健常成人において感染後10年間に5-10%程度で、そのうち約80%は感染2年以内である。症状は、咳、痰、血痰、胸痛、倦怠感、発熱、寝汗、食欲不振、体重減少などである。ただし自他覚症状から肺結核の可能性を除外する事はできない(喀痰塗抹陽性患者の20%は無症状)。胸部X線、CTは各種検査の中で最も感度が高い。多くは上肺野に主要病変(空洞や小葉中心性の粒状影、散布影等)を形成する。MDR-TB(Multi drug resistant TB:RFP、INHを含む2剤以上に耐性の結核菌)は、世界の総推定患者の3.9%、治療歴のある患者の21%から検出されるため、外国生まれの結核患者では耐性菌の可能性も考慮する。日本では統計基準が異なるもののその頻度は0.5%である。

予後

2017年には世界で1,000万人が新たに結核を発症し、130万人(13.0%)が死亡した。わが国では新登録結核患者数16,789人に対し、2,303人(13.7%)が死亡した。結核の予後は、年齢や基礎疾患、HIV合併の有無、薬剤感受性などに影響を受ける。わが国では高齢者結核が多いことが予後に影響している。一般に、感受性菌で標準治療の満了ができれば多くは治癒するが、治療開始の遅れから後遺症を残すものもある。

感染対策

空気予防策を行う。医療施設内では、患者は陰圧個室に収容し、入室する医療従事者や面会者はN-95マスクを着用する。結核患者と無防備で濃厚接触したヒトがいる場合は、保健所とも相談の上、接触者検診を行う。適切な感染管理のためには、平素からの職員教育や定期検診の徹底(胸部X線撮影や全血IFNγ遊離測定法などを含む)が重要である。

法制度

感染症法上2類感染症に分類される。診断した医師は直ちに届け出る。

診断

診断は、病変部位における結核菌の存在をもって確定診断となる。偽陰性を否定するために3回程度の連続喀痰/胃液採取などを行い排菌の有無を確認する。結核菌のRNAやDNAを増幅する方法(PCR法やLAMP法など)が汎用されており、病変部位由来の検体から結核菌を検出し臨床像と合わせて確定診断とする。

診断した(疑った)場合の対応

疑った時点で空気予防策を導入し、診断のための検査を行う。

治療(応急対応)

標準的な方法としてはイソニアジド・リファンピシン・ピラジナミド・エタンブトールの4剤で2か月間の後、イソニアジド・リファンピシンの2剤で4か月治療する。世界的に薬剤耐性菌が増加しており、海外からの渡航者およびその接触者に対しては、より耐性菌に対して警戒を要する。

専門施設に送るべき判断

排菌が確認された場合、結核病床を保有する専門施設に相談し、治療を依頼する。

専門施設、相談先

各最寄りの保健所、結核床を保有する最寄りの医療施設

役立つサイト、資料:

  1. CDC Yellow Book 2018: Health Information for International Travel, Oxford Univ Pr, 2017.
  2. WHO. Global tuberculosis report 2018. https://www.who.int/tb/publications/global_report/en/
  3. 厚生労働省.平成29年結核登録者情報調査年報集計結果について.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000175095_00001.html
  4. 公益財団法人 結核予防会 結核研究所, 結核とは, http://www.jata.or.jp/about.php

(利益相反自己申告:研究費・助成金等(GSKジャパン、上原生命科学財団))

防衛医科大学校内科学講座(感染症・呼吸器) 君塚善文

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