31
重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome、SFTS)
病原体
原因ウイルスは、フェヌイウイルス科バンダウイルス属に分類される新規ウイルス、ダビエバンダウイルス[旧SFTSウイルス(SFTSV)]。本稿では、病名およびウイルス名はともにSFTSおよびSFTSVを用いる。
感染経路
マダニ(フタトゲチマダニとタカサゴキララマダニ)に咬まれてSFTSVに感染するが、SFTSVに感染した伴侶動物(ネコ、イヌ)に咬まれて、または、直接触れて感染した事例が報告されている。患者の介護、診療を通じた、患者の血液や体液との接触によるヒトからヒトへの感染事例も報告されている。獣医療関係者の感染、いわゆる職業関連感染事例の報告もある。
流行地域
SFTSは中国、韓国、日本、台湾、ベトナム、タイなど東南アジアで流行している。日本国内では、主に九州、四国、中国地方、関西、北陸で患者が発生し、近年関東(千葉県)でSFTS患者が初めて確認された。
発生頻度
主に西日本からSFTS患者が報告されているが、これまであまり報告例がなかった愛知県、静岡県、富山県などからも報告されるようになっている。初夏や秋に流行のピークが認められる流行パターンを示し、近年では毎年100人を超える患者が報告されている。
潜伏期間・主要症状・検査所見
潜伏期間は6~14日とされているが、さらに短い場合もある。発熱、頭痛、全身倦怠感、下痢や嘔吐等の消化器症状、意識障害等を発症し、血液検査で血小板減少や白血球減少が、生化学検査によりALT、AST、LDH、CKの上昇を認める。重症例では骨髄検査によりマクロファージによる血球貪食像(血球貪食症候群)の所見が認められる。播種性血管内凝固症候群に基づく血液凝固系の異常、多臓器不全を伴うこともある。壮年・高齢者で症状が重くなる傾向がある。
予後
致命率は極めて高く、日本では25-30%である。ただし、回復する場合、後遺症を残すことは少ない。
感染対策
マダニに咬まれないように注意する。ウイルス量が高いと予想される重症患者の診療ケアにおいては、接触および飛沫予防策も実施することが望ましい。また原因が不明で体調不良症状がある動物(特にネコ、イヌ)に触れる場合には、同様に接触及び接触予防策を講じる。
法制度
SFTSは感染症法において四類感染症に指定されている。SFTSと診断された患者、疑似症患者、無症状病原体保有者、死亡者を診た場合には、直ちに最寄りの保健所に届け出る。
診断
SFTS患者の血液中に、剖検例では臓器中にSFTSV、その抗原、遺伝子が存在する。これらのウイルス抗原や遺伝子を検出することにより、また、回復例では急性期および回復期におけるSFTSVに対する抗体価の有意な上昇を確認することにより診断がなされる。比較的早い時期にSFTSVに対するIgM抗体が検出され、その診断における意義は高い。SFTSV遺伝子検査は各都道府県等の衛生研究所で実施されている。
診断した(疑った)場合の対応
最寄りの保健所に相談する。感染予防を徹底するとともに、集約的治療が実施可能な医療機関に患者を搬送する。
治療(応急対応)
特異的な治療薬として、2024年6月にファビピラビル(アビガンⓇ)が認可された。治療効果を高めるためには、早期ファビピラビル投与が必要であり、1日でも早い投与を目指す。ファビピラビルを処方するには製薬メーカーの富士フイルム富山化学株式会社へ事前に登録する必要がある。対症療法の重要性は変わらない。
専門施設に送るべき判断
SFTS患者の症状は通常重く、特に高齢になるほど、症状は重く、致命率も高い。また、厳重な感染予防策を実施した上で治療がなされる必要があることから、感染症専門医のいる中核病院等の専門施設に搬送することが推奨される。
専門施設、相談先
最寄りの保健所、国立感染症研究所や感染症専門医のいる専門病院に相談する。
役立つサイト、資料
- 厚生労働省の関連サイト:重症熱性血小板減少症候群 診療の手引き2024年版
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001229138.pdf - 厚生労働省の関連サイト:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/sfts_qa.html - 富士フイルム富山化学株式会社:アビガンⓇ錠
https://hc.fujifilm.com/fftc/ja/products/pharmaceuticals/low-molecular/avigan/sfts
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
札幌市保健所・国立感染症研究所 西條 政幸