25細菌性肺炎(bacterial pneumonia)
病原体
市中肺炎症例からの検出頻度は、Streptococcus pneumoniae,Haemophilus influenzae,Mycoplasma pneumoniaeが上位を占める。慢性閉塞性肺疾患などの肺の基礎疾患があるとH. influenzaeやMoraxella catarrhalisの分離頻度が高まる。Staphylococcus aureusは通常市中肺炎の原因にならないが、インフルエンザウイルス感染に続発した細菌性肺炎では原因微生物となり、しばしば重症化する。2023年夏以降、国内での劇症型溶血性レンサ球菌感染症の報告が増加していることから、頻度は低いもののStreptococcus pyogenesによる細菌性肺炎の増加も危惧される。
感染経路
ヒトからヒトへの飛沫感染が主である。自身の常在菌の増殖による内因性感染も起こり得る。また、レジオネラ症やコクシエラ症のようにエアロゾルの吸入による感染もある。
流行地域
全世界でみられる。
発生頻度
本邦の15歳以上の市中発症肺炎(医療・介護関連肺炎を含む)の患者数は年間188万人であり、そのうち約7割を65歳以上の高齢者が占める。2020年の厚生労働省による患者調査によると、1日あたりの肺炎の受療率(人口10万人対)は、入院患者で19、外来患者で3でありいずれも減少傾向だが、COVID-19の収束により再増加する可能性がある。
潜伏期間・主要症状・検査所見
潜伏期間は原因微生物により異なり、S. pneumoniaeの場合1~3日、H. influenzaeは2~4日である。当然であるが、内因性感染の場合は潜伏期間の概念は成立しない。肺炎の一般的な症状は発熱、湿性咳嗽、呼吸困難などである。胸膜炎を合併している場合は深吸気時に増悪する共通を伴う。血液検査では炎症所見や重症度に応じて種々の臓器障害がみられる。胸部単純X線写真や胸部CTでは、典型的には浸潤影がみられる。原因微生物がS. aureus、Klebsiella pneumoniae、Pseudomonas aeruginosaの場合は肺化膿症を反映した腫瘤影や空洞影を呈する場合がある。免疫不全者では非典型的な画像所見を呈することがある。
予後
重症度により致死率は異なる。30日死亡率は、後述のA-DROPが0~1点で0%、2点で約5%、3点で約15%、4点で約30%、5点で約40%である。また、心不全、脳血管疾患、慢性肝疾患の併存や介護施設に入所中であることも予後不良因子として同定されている。
感染対策
標準予防策を基本とする。マスクをつけていない肺炎患者に接近する際や吸痰などの際には、標準予防策の一環として目・鼻・口の粘膜を防護する。
法制度
原因微生物、病型により感染症法に基づく届出が必要である。レジオネラ症は四類感染症に、侵襲性肺炎球菌感染症、侵襲性インフルエンザ菌感染症、劇症型溶血性レンサ球菌感染症は五類感染症に指定されている。
診断
症状から疑い、胸部画像検査により新規の異常影を認めた場合に肺炎を想定する。原因微生物特定のため、喀痰のグラム染色および培養検査を実施する。なお、S. pneumoniaeとL. pneumophilaに関しては尿中抗原検査が利用可能であるが、前者については治療方針に影響を与えることは少ない。非重症市中肺炎患者での血液培養陽性率は2~9%と低いことから、全例で血液培養を採取する必要はない。しかしながら肺炎以外の感染症を合併している可能性のある高齢者や重症例、診断プロセスに時間を割けない救急外来などのセッティングにおいては採取を考慮すべきである。
診断した(疑った)場合の対応
A-DROPスコアまたはCURB-65スコアを用いた重症度評価に加え、qSOFAスコアによる敗血症のスクリーニング、患者本人の経口摂取可否や服薬アドヒアランス、家族の支援状況などを考慮し、治療場所(外来か入院か)を慎重に決定する。
治療(応急対応)
外来治療の場合、細菌性肺炎であればアモキシシリン・クラブラン酸を、入院治療の場合、セフトリアキソンを使用する。インフルエンザウイルス罹患後の細菌性肺炎ではMRSAの関与も懸念されるため、喀痰グラム染色結果も参考にしてバンコマイシンやテイコプラニンを併用する場合もある。マイコプラズマ肺炎やレジオネラ肺炎については別項を参照されたい。
専門施設に送るべき判断
ショック、重度の呼吸不全を合併している場合、高次医療機関への転送を検討する。
専門施設、相談先
呼吸器内科を有する、あるいは集学的治療が可能な施設。
役立つサイト、資料
- 成人肺炎診療ガイドライン2024.日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2024作成委員会.2024.
- Metlay JP, et al. Diagnosis and Treatment of Adults with Community-acquired Pneumonia. An Official Clinical Practice Guideline of the American Thoracic Society and Infectious Diseases Society of America. Am J Respir Crit Care Med. 2019; 200 (7): e45-e67.
- David L. Heymann. Control of communicable diseases manual 21st edition. 2022.
- American Academy of Pediatrics. Red Book 32nd Edition. 2021.
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
名古屋市立大学医学部附属東部医療センター感染症内科 奥村 暢将