25
シストイソスポーラ症(Cystoisosporiasis)
病原体
Cystoisospara belliにより引き起こされる腸管感染症である。以前、イソスポーラ属に分類されていたため、イソスポーラ症と称されていた。クリプトスポリジウムと同じアピコンプレックス門コクシジウム網に属する原虫である。
感染経路
成熟オーシストに汚染された飲料水や生野菜・果物などを経口摂取し感染する。患者から排出されたばかりの便には未熟オーシストが含まれるが、これに感染力はない。HIV/AIDS感染者に本症が多く見られたことから、肛門性交による性感染症(ヒト-ヒト感染)が示唆されてきたが、ヒト-ヒト感染を裏付ける根拠は乏しい。
流行地域
熱帯、亜熱帯地域で流行している。特に中南米、アフリカ、東南アジアに多い。推定感染地域が日本国内とされた症例も報告がある。
発生頻度
海外旅行に伴う感染性胃腸炎患者の0.1%が、シストイソスポーラ症であったとする報告がある。
潜伏期間・主要症状・検査所見
潜伏期間は1週間程度で、水様性下痢、筋痛、食思不振、腹痛、嘔吐、発熱などが見られ、非特異的である。通常、海外渡航後の下痢症や慢性下痢症の鑑別診断として挙げられる。腸管外病変として無石胆嚢炎や反応性関節炎の報告もある。症状は免疫能により様々である。免疫不全のない患者においては無症状~自然軽快例が多い。免疫不全者では、慢性下痢症となり体重減少、栄養不良をきたすことがある。また再発を認めることもある。HIV/AIDSのみならず、成人T細胞性白血病やリンパ球性白血病、悪性リンパ腫などの細胞性免疫が低下する基礎疾患を持つ患者も慢性下痢症を引き起こす。
予後
特に細胞性免疫不全を有する患者では、下痢による体液量の減少に伴い腎不全や電解質異常を呈し重症化する。
感染対策
糞便中に排出された時点のオーシストは未熟であり感染性を持たないが、環境中で成熟したオーシストが感染性を有する。オーシストは環境中で数か月生存するため留意が必要である。入院した場合は、手指衛生の徹底、接触予防策の実施が必要である。
法制度
シストイソスポーラ症は、感染症法に基づく届出の対象ではない。同法の届出対象疾患(5類感染症の一部)である後天性免疫不全症候群の指標疾患の1つである。
診断
シストイソスポーラ症の診断は、検便で特有のオーシストを検出することで可能である。ショ糖遠心沈殿浮遊法やMGL法(ホルマリン・エーテル法)で集め検鏡する。また、オーシスト壁が自家蛍光を発するので蛍光顕微鏡検査も有用である。免疫不全者の下痢や、非免疫不全者の長引く下痢などの際に、積極的に検査を行うことが重要である。1度の検査で検出できずとも、疑った場合は繰り返し検査を行う。
診断した(疑った)場合の対応
接触予防策を実施する。患者の重症度判定のため、体液量の評価を行い輸液の必要性を判定する。免疫不全者(特に細胞性免疫不全の有無)かどうかの評価を行う。
治療(応急対応)
体液量の評価を行い、脱水と電解質の補正を行う。治療はスルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤)が推奨される(10日間)。(ST合剤)が使用できない場合、シプロフロキサシンでの治療(7日間)を検討する。
専門施設に送るべき判断
飲水が困難な症例(特に乳幼児、高齢者)や、急性腎不全や重度な電解質異常の補正を要する症例は専門施設での入院加療を検討する。また、HIV/AIDSなどの免疫不全のある患者の場合、重症化する恐れがあるため専門施設への紹介を検討する。
専門施設、相談先
熱帯病治療薬研究班 薬剤使用機関やHIV/AIDS患者ではエイズ治療拠点病院などへ相談する。
役立つサイト、資料
- CDC. DPDx, Cystoisosporiasis. https://www.cdc.gov/dpdx/cystoisosporiasis/index.html.
- 病原微生物検出情報 IASR. わが国におけるイソスポーラ症. 1995;16(4).
- 病原微生物検出情報 IASR. 最近経験したイソスポーラ症の4症例. 1995;16(9).
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
東京都立墨東病院 感染症科 阪本直也