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デング熱(Dengue fever)
病原体
フラビウイルス科デングウイルス
感染経路
ネッタイシマカやヒトスジシマカなどが媒介する蚊媒介感染症
流行地域
東南アジア、南アジア、アフリカ、中南米などの熱帯・亜熱帯地域
発生頻度
世界で毎年3億9千万人がデング熱に感染していると推定される。日本国内にはデングウイルスを保有する蚊は定着しておらず輸入例として年間200例前後が報告されている。国内感染事例としては、2014年には東京都を中心に162例、2019年に3例報告されている。
潜伏期間・主要症状・検査所見
潜伏期は4~7日(最大3~4日)であり発熱は5~7日続くのが典型的な経過である。発熱以外には頭痛、関節痛の頻度が高く、筋肉痛、下痢、嘔気・嘔吐といった症状がみられることもある。またデング熱といえば皮疹をイメージしやすいが、全例で皮疹が現れるわけではなく、特に発熱期には皮疹はみられないことが多い。多くの症例で解熱する時期と前後して紅斑が出現してくる。
血液検査では白血球と血小板が低下するのが典型的であり、発症から第7~8病日まで低下することが多い。またこの時期には血管透過性亢進、出血症状が強くなり、ショック、臓器障害(意識障害、呼吸不全、高度肝障害など)、DICがみられ重症デングへと移行することがある。
予後
デング熱の予後は良好であり致死率は1%未満である。入院を要する重症デングでは致死率2~5%程度となる。2回目の感染では、1回目の感染よりも重症化リスクが高くなることが知られている。
感染対策
病院内での特殊な感染対策は不要である。ただし医療従事者の針刺し曝露による感染例が報告されている。
法制度
感染症法で四類感染症に指定されており、デング熱を診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届出を行わなければならない。
診断
デング熱を診断する方法は主に1. PCR法によるデングウイルスの検出、2. 非構造蛋白(NS1)抗原の検出、3. IgM抗体の検出(ペア血清による抗体陽転または優位な上昇)の3つである。このうちPCR法は地方衛生研究所や国立感染症研究所での行政検査として行われる。NS1抗原やIgM抗体はELISA法やイムノクロマト法によって測定可能である。
診断した(疑った)場合の対応
上記のNS1抗原、IgM測定の保険適応のためには「入院を要するほどの重症度である」「集中治療が行える施設である」などの要件がある。その他の輸入感染症との鑑別などを含め、デング熱を疑った場合には最寄りの感染症指定医療機関や蚊媒介感染症専門医療機関に紹介が望ましい。
治療(応急対応)
デング熱に有効な薬剤はない。治療は対症療法が中心となり、重症度によっては集中治療を要する。NSAIDsはデング熱による出血症状を助長させる可能性があるため、解熱剤にはアセトアミノフェンを用いる。
専門施設に送るべき判断
デング熱を疑った場合、最寄りの感染症指定医療機関や蚊媒介感染症専門医療機関に紹介する。
専門施設、相談先
蚊媒介感染症専門医療機関
https://www.kansensho.or.jp/modules/topics/index.php?content_id=25
役立つサイト、資料
- World Health Organization. Dengue: guidelines for diagnosis, treatment, prevention and control: World Health Organization; 2009.
https://www.who.int/tdr/publications/documents/dengue-diagnosis.pdf - 国立感染症研究所.蚊媒介感染症の診療ガイドライン(第5.1版).2023年
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/route/arthropod-borne/060/Mosquito_Mediated_230906-5_1.pdf
(利益相反自己申告:
講演料:ファイザー株式会社、塩野義製薬株式会社、ギリアド・サイエンシズ株式会社、MSD株式会社、グラクソ・スミスクライン株式会社
研究費・助成金など:塩野義製薬株式会社、栄研化学株式会社
寄附講座:アース製薬株式会社、塩野義製薬株式会社)
大阪大学大学院医学系研究科・医学部感染制御学講座 忽那 賢志