日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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ノロウイルス感染症(Norovirus infection)

病原体

ノロウイルス(Norovirus)による。ノロウイルスのゲノムは多様性に富み、多数の遺伝子型が存在するが、ヒトに感染する主要なものはGenogroup IとII(GIとGII)で、日本国内ではGIIが8割以上を占める。生涯何度も罹患しうる。

感染経路

ウイルスは感染者の糞便や嘔吐物中に排出され、ヒト-ヒト感染する。本ウイルスの感染力は非常に強く、ウイルス粒子100未満でも感染が成立する。ウイルスは環境中でも長時間安定で、嘔吐物が乾燥しその微粒子が浮遊して経口的に体内に入り感染したと思われる空気感染的な事例もある。ウイルスに汚染した水や食物(生牡蠣などの二枚貝や生野菜)からも感染する。汚染された水域の二枚貝の体内でウイルスが濃縮され、その生食により感染することが有名。食物は十分に加熱してあれば感染源とはならない。

流行地域

世界中で常時見られるが、寒い季節、すなわち北半球では12-2月、南半球では6-8月に流行する。赤道周辺では季節性変動は少ない。海外から持ち込まれる可能性は常にある。

発生頻度

急性胃腸炎や流行性下痢症の原因ウイルスとして世界で最も頻度が高い。毎年世界で6億人以上が罹患し、発展途上国を中心に20万人が死亡すると推定される。集団生活(病院、施設、学校、スポーツチーム、軍隊、客船、パーティ、避難場所など)は流行のハイリスクである。2018年の平昌冬季五輪でもノロウイルスの集団発生が報道された。わが国の食中毒のうちノロウイルスによるものは、総件数1,014件のうち214件(21.1%)、総患者数16,464名のうち8,496名(51.6%)である(平成29年)。病因物質別患者数では第1位である。

潜伏期間・主要症状

感染後24-48時間の潜伏期を経て、突然の嘔気、嘔吐、水様性下痢(非血性)、腹痛で発症する。半数程度で発熱も認めるが38℃を超えることは稀である。多くは1-3日程度で自然軽快する。不顕性感染も10-50%程度ある。検査所見上、脱水に注意する。

予後

通常2-3日程度で自然治癒し、慢性化することはない。高齢者、1歳未満の小児、免疫抑制状態では、脱水や基礎疾患の増悪から重症化することがある。また、高齢者では嘔吐物の誤嚥による窒息や誤嚥性肺炎が死亡の原因になり得る。

感染対策

接触予防策を行う。ノロウイルスはアルコールに抵抗性であるため、擦式アルコール消毒薬による手指衛生だけでは不十分で、流水と石鹸による物理的な洗浄が必要である。環境や器具の消毒には次亜塩素酸ナトリウムを用いる。便や嘔吐物を清掃する場合は、マスク、手袋、ガウンを装着する。患者は症状回復後も1-4週間程度は糞便中にウイルスを排出するので、排便後の手洗いなどを十分指導する必要がある。

法制度

ノロウイルスは、感染症法では5類小児科定点把握疾患の感染性胃腸炎に分類される。全数把握疾患ではないので、指定届出機関(全国約3,000カ所の小児科定点医療機関)以外は感染症としての届出は不要だが、以下の場合は届け出る。
①医師がノロウイルス食中毒と判断した場合は24時間以内に届け出る(食品衛生法)。
②施設などでノロウイルス集団発生の場合は速やかに届け出る(厚生労働省通知)。

診断

臨床的に診断されることが多い。「ノロウイルス抗原検査」は、糞便中のノロウイルスを検査キットで検出するもので、3歳未満、65歳以上等を対象に健康保険が適用されている。ただし陰性でも本感染症を否定はできない。確定診断にはウイルス学的方法(RT-PCR法等)が用いられるが、通常、医療機関で行うことはできず、食中毒の原因究明などの目的で、行政機関や研究機関等で行われる。

診断した(疑った)場合の対応

疑った段階で直ちに接触予防策を導入する。また、上記「法制度」において保健所に届け出るべきケースか否かを判断する。

治療(応急対応)

特異的治療法は無いため、輸液などの対症療法を行う。止瀉薬は、病気の回復を遅らせることがあるので使用しないことが望ましい。

専門施設に送るべき判断

感染対策ができれば一般医療機関で診療可能である。腎不全や誤嚥性肺炎(呼吸不全)などの臓器不全を伴う場合は高次医療機関への転送を検討する。

専門施設、相談先

専門施設はない。上記「法制度」の①か②に該当する場合は保健所に相談する。

役立つサイト、資料

  1. 厚生労働省.ノロウイルスに関するQ&A.
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html#01
  2. 国立感染症研究所.ノロウイルス等検出速報.https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-noro.html
  3. CDC. Global burden of norovirus and prospects for vaccine development. Aug 2015. https://www.cdc.gov/norovirus/downloads/global-burden-report.pdf
  4. 東京都福祉保健局.社会福祉施設等におけるノロウイルス対応標準マニュアル.http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/noro/manual.html

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

防衛医科大学校内科学講座(感染症・呼吸器)川名明彦

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