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結核(Tuberculosis)
病原体
遺伝的に類似した結核菌群には、Mycobacterium tuberculosis(ヒト型結核菌)、M. bovis(ウシ型結核菌)、M. africanum(アフリカ型結核菌)などが含まれるが、ヒトの結核症はM. tuberculosisによるものが圧倒的に多い。ここでは、結核菌= M. tuberculosisとして論じる。
感染経路
結核菌はヒトを主な宿主とし、患者が咳やくしゃみをした際に放出される微細なエアロゾルが乾燥して飛沫核となり、吸入することでヒトからヒトへ伝播する(空気感染)。肺外結核症は通常感染源とならないが、菌を含む体液が飛沫状に飛び散った場合には感染源となり得る。
流行地域
世界中に分布しているが、世界の結核の60%以上は南アジア、東南アジア、アフリカなどの地域で発生している。特にサハラ以南アフリカでは500人(人口10万対)を超える地域も多く、感染者数ではインド、中国、インドネシア、フィリピンなどが多い。後述する潜在性結核感染症患者を含めると世界では16億人以上が感染していると推定されている。
発生頻度
国内における発生頻度は、1940年代までは罹患率500人前後(人口10万対)であったが、2021年に9.2人(人口10万人対)となり、結核低蔓延国と扱われることとなった。一方で他の先進国では米国2.6、ドイツ5.0、英国6.3など欧米で低い罹患率となっている。我が国における結核は高齢者による結核と東南アジアの実習生等の若い外国人結核が多くを占めている。
潜伏期間・主要症状・検査所見
ひとたび感染をすると90%は無症状で生涯を終えるが、感染した例の10%は発症すると言われる。発症する例も感染から2年以内に発症する例(1次結核)と場合によっては数十年経ってから発症する例(2次結核)に分類される。感染しても発症していない患者はLTBI(潜在性結核感染症)と診断され、免疫不全者などでは予防的な抗結核薬内服も推奨される。
主要な症状は咳、発熱、咽頭痛、呼吸不全などの症状に加え、体重減少、リンパ節腫脹などの非特異的な症状も認められる。また、結核性胸膜炎、結核性髄膜炎、粟粒結核、結核性頸部リンパ節炎、骨関節結核(脊椎カリエス含)、皮膚結核などの種々の臓器に感染がある場合は臓器特異的な症状を引き起こす。
肺結核の場合は胸部レントゲンで粒状影、空洞影、結節影、粟粒影などを認める。結核性胸膜炎であれば一側性胸水の増加、脊椎カリエスの場合は腰痛、冷膿瘍などの臓器特異的所見を認める。疑われる場合は喀痰及び各臓器での組織などの抗酸菌検査で塗抹培養及び遺伝子検査にて結核菌の証明をすることで診断を得られる。
IGRA(インターフェロンγ遊離試験)検査として結核特異的抗原に対するインターフェロンγの検出により感染歴の評価を行うことも可能であるが、肺結核以外では感度が低く、既往感染と現行の感染を区別できないというデメリットもある。
予後
世界での結核死亡率は15%前後と言われるが、国内における結核の死亡数は2,000人前後であり、死亡率は10%前後で超高齢者の衰弱によるところが多い。
感染対策
空気予防策を要するため、肺結核の患者は排菌が認められる場合は陰圧病室への隔離が必要となる。排菌がない場合も外来加療は可能であるが喀痰からの培養検査が複数回陰性を認める必要があるなどの就業制限を要する。
法制度
感染症法上二類感染症に分類される。診断した医師は直ちに届け出る。
診断
診断は、病変部位における結核菌の存在をもって確定診断となる。偽陰性を否定するために3回程度の連続喀痰/胃液採取などを行い排菌の有無を確認する。結核菌のRNAやDNAを増幅する方法(PCR法やLAMP法など)が汎用されており、病変部位由来の検体から結核菌を検出し臨床像と合わせて確定診断とする。
診断した(疑った)場合の対応
疑った時点で患者の個室隔離及び医療者のN95マスク着用などの空気感染予防策を導入し、診断のための検査を行う。
治療(応急対応)
標準的な方法としてはイソニアジド・リファンピシン・ピラジナミド・エタンブトールの4剤で2か月間の後、イソニアジド・リファンピシンの2剤で4か月治療する。世界的に薬剤耐性菌が増加しており、海外からの渡航者およびその接触者に対しては、より耐性菌に対して警戒を要する。耐性結核の場合には専門家に相談する。
専門施設に送るべき判断
喀痰からの排菌が確認された場合、隔離が必要となるため結核病床を保有する専門施設に相談し、治療を依頼する。耐性結核の治療は専門施設に依頼する。
専門施設、相談先
各最寄りの保健所、結核床を保有する最寄りの医療施設
役立つサイト、資料
- CDC Yellow Book 2024: Health Information for International Travel, Oxford Univ Pr, 2024.
- WHO. Global tuberculosis report 2023.
https://www.who.int/tb/publications/global_report/en/ - 厚生労働省.2023年 結核登録者情報調査年報集計結果について.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000175095_00011.html - 公益財団法人 結核予防会 結核研究所. https://jata.or.jp/
(利益相反自己申告:
講演料:MSD株式会社)
公立陶生病院感染症内科 武藤 義和