日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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細菌性赤痢(shigellosis)

病原体

細菌性赤痢の原因となる赤痢菌には、Shigella sonnei、Shigella flexneri、Shigella dysenteriae、Shigella boydiiの4菌種があり、これらの菌種はさらに多くの血清型に分類されている。

感染経路

感染経路は、患者や保菌者の便中の赤痢菌に汚染された食物水による経口感染が中心である。途上国からの帰国者に発症する輸入感染症例が中心であるが、輸入食品などを原因とした国内発生例などの報告もある。感染力が強いため、汚染された水や食品を介した二次感染として、国内における集団食中毒、保育園や福祉施設での集団発生なども起こっている。

流行地域

赤痢菌が常在している、熱帯・亜熱帯の地域からの輸入感染例が中心となる。また、赤痢菌は感染力が強いため、輸入食品などを原因とした食中毒としての集団発生、汚染された水や食品による散発的な国内での流行も起こっている。

発生頻度

かつては国内でも流行していた感染症であり、戦後には年間5-10万人以上の患者発生が報告されていた。しかし、衛生環境の改善などによって1960年代半ばから患者数が減少しはじめ、感染症法で2類感染症に指定された2000年以降は年間500-1,000人程度の発生となった。その後の法改正により3類感染症に変更されてからは、さらに年間報告数が減少している。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は1-5日で、その多くは感染してから3日以内に発症する。典型な症状としては、発熱、腹痛、下痢があり、血便やテネスムス(しぶり腹)を伴うこともある。下痢よりも発熱が先行することもあるが、通常は1-2日程度で解熱する。基本的には、このような大腸型の急性腸炎としての症状が中心であり、途上国の乳幼児における敗血症や髄膜炎の報告があるものの、腸管外での発症はまれである。S. dysenteriaeは毒素を産生することによって他の菌種の場合よりも症状が強く、溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こすこともある。しかし、現在はS. sonneiが中心となっており、一般的に症状は軽いことが多く、軽症の下痢や無症状の例もしばしばみられる。血液検査は非特異的な炎症所見を示すのみである。重症では、脱水所見による電解質異常、あるいは腎機能障害の検査所見となることがある

予後

稀にHUSの合併、高度の脱水によって重症化することはあるが、先進国における赤痢の予後は比較的良好である。

感染対策

標準予防策で対応可能だが、排泄介助やおむつが必要な患者については罹患期間は接触予防策を実施する。
二次感染を防ぐために排便後の十分な手洗いを行うように指導し、飲食物を扱う業務では病原体を保有しなくなるまで就業制限を行う必要がある。

法制度

細菌性赤痢は感染症法の3類感染症に指定されている。確定患者、疑似症患者、無症状病原体保有者、死亡者は、直ちに最寄りの保健所へ届け出を行い、菌の消失についても確認する必要がある。

診断

熱帯・亜熱帯地域への渡航者からの輸入感染例が多いことから、渡航歴を確認することが必要である。診断確定のためには、便の培養検査により赤痢菌を分離同定することが必要であり、DHL寒天培地やMacConkey寒天培地などの分離培地を用いて菌を培養して同定する。

診断した(疑った)場合の対応

患者には二次感染を防ぐための指導を行っておく必要がある。食品関係や保育など職種によっては就業制限も検討する。

治療

治療の第一選択薬はニューキノロン系の抗菌薬であり、重症度も考慮して3-5日投与する。近年は、ニューキノロン耐性菌も報告されるようになり、耐性が強く疑われる場合にはアジスロマイシンの選択も考慮される。

専門施設に送るべき判断

対応や診療に不安がある場合には、症状にかかわらず早めに専門の医療機関へ紹介してもかまわない。

専門施設、相談先

感染症指定医療機関や輸入感染症の経験が多い病院の感染症専門医に相談可能である。

役立つサイト、資料

  1. 一般社団法人日本感染症学会,公益社団法人日本化学療法学会 JAID/JSC感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会 腸管感染症ワーキンググループ:JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 ―腸管感染症―.感染症誌2015;90:31-65

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

がん・感染症センター東京都立駒込病院 今村顕史

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