日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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感染性心内膜炎(Infectious endocarditis)

病原体

感染性心内膜炎は、弁膜、心内膜、大血管内膜に細菌など病原微生物の集簇を含む疣贅を形成し、菌血症、血管塞栓、心障害など多彩な臨床症状を呈する感染症である。原因菌は、黄色ブドウ球菌、レンサ球菌、腸球菌などのグラム陽性球菌が大半を占め、稀にグラム陰性桿菌や真菌などもみられる。

感染経路

まず、弁膜症や先天性心疾患による血液の乱流、血管内留置デバイスやカテーテルの接触、外科手術などによって傷んだ心内膜表面に非細菌性血栓性心内膜炎(nonbacterial thrombotic endocarditis:NBTE)が生じ、その後歯科処置や泌尿器科的処置などで一過性の菌血症に至ることでNBTEの部位に病原微生物が付着、増殖することで疣贅が形成されると考えられている。

流行地域

全世界に普遍的にみられる感染症である。

発生頻度

発症頻度は報告によりばらつきがあるが、3~15人/10万人とされる。

潜伏期間・主要症状・検査所見

典型的には、急性から亜急性の経過で発熱がみられ、ほかに全身倦怠感、易疲労性、寝汗、体重減少、関節痛、関節炎、筋肉痛、腰痛などがみられる。いずれも非特異的であるため診断までしばしば時間を要し、不明熱として扱われることもある。塞栓症、心障害、細菌の播種などに起因する症状や病態(脳血管障害、心不全、膿瘍形成、動脈瘤形成など)で受診することもあるが、いずれも初期から感染性心内膜炎を疑うのは難しいことが多い。身体診察における特徴的な所見として、新規の心雑音、Janeway斑、Osler結節などが見られるが、意識して診察しなければ見逃し得るため注意を要する。検査に関しては、血液培養で病原微生物が同定され、心臓超音波検査で疣贅が確認されることが典型的であるものの、これらが見られないこともある。感染性心内膜炎が呈する身体所見及び検査所見は実に様々であるため、後述の「修正Duke基準」もしくは「Duke ISCVID基準」を参照するとよい。

予後

入院中の死亡率は15~30%であり、予後は不良である。

感染対策

標準予防策で良い。

法制度

感染症法上、届出の必要はない。

診断

「修正Duke基準」を用いて診断する。2023年に新たに発表された「Duke ISCVID基準」を用いてもよい。

診断した(疑った)場合の対応

感染性心内膜炎としての評価と並行して、他の鑑別疾患の除外を行う。丁寧な病歴聴取と全身診察、血液検査などの諸検査を行いつつ、血液培養を3セット以上採取し、経胸壁超音波検査やCT検査についても検討する。これらを踏まえ、抗菌薬による経験的治療の要否について検討する。なお、診断前の安易な抗菌薬投与は慎むべきであるが、抗菌薬を投与しないリスクについても十分に考慮すべきである。その後、臨床経過を見ながら、「修正Duke基準」及び「Duke ISCVID基準」における大基準と小基準を意識した診察や検査を繰り返し、やはり感染性心内膜炎が疑わしい場合は、さらなる精査(経食道心臓超音波検査など)について検討する。

治療(応急対応)

入院で経静脈的抗菌薬による治療を行う。また心不全や感染症の病勢、塞栓症のリスクなどを踏まえ、循環器内科及び心臓血管外科と手術治療について検討する。

なお、抗菌薬選択は、患者要因(自己弁か人工弁か)や病原微生物によって様々であるため、判断に迷うようであれば感染症専門医への相談が望ましい。

専門施設に送るべき判断

感染性心内膜炎を強く疑う場合や、診断した場合には、循環器内科及び心臓血管外科を有する施設への転送を要す。

専門施設、相談先

循環器内科及び心臓血管外科を有し、集中治療が可能な医療機関での治療が望ましい。感染症専門医がいるとなお良い。

役立つサイト、資料

  1. 中谷敏,他.感染性心内膜炎の予防と治療に基づくガイドライン.一般社団法人循環器学会.
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_nakatani_h.pdf
  2. Fowler VG, et al. The 2023 Duke-International Society for Cardiovascular Infectious Diseases Criteria for Infective Endocarditis: Updating the Modified Duke Criteria. Clinical infectious diseases 2023; 77(4) : 518-526
    https://academic.oup.com/cid/article/77/4/518/7151107?login=false

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立病院機構東京医療センター救急科 藤沢 篤夫

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