日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応~東京2020大会にむけて~|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2019年7月23日

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類鼻疽(Melioidosis)

病原体

グラム陰性桿菌であるBurkholderia pseudomallei

感染経路

B. pseudomalleiに汚染された土壌や水に直接接触し皮膚損傷部から感染する経路(経皮感染)、汚染水の経口感染、あるいは汚染土壌の粉塵や水しぶきを吸入することによる経気道感染がある。

流行地域

主な流行地は東南アジア、南アジア、中国、オーストラリア北部で、中でもタイ北東部、オーストラリア北部は症例報告数が多い。その他中東やアフリカ、南米でも散発的な報告があり、今後より広範な地域で発生すると推測されている。

発生頻度

世界で年間165,000人が感染し、死亡者数は89,000人と推定されている。その多くは成人症例である。リスク因子として糖尿病、慢性腎不全、呼吸器疾患、アルコール性肝障害が知られている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

潜伏期間は1-21日とされる。最も多い感染臓器は肺であり、一般的な細菌性肺炎と同様に急性経過での発熱、咳嗽、喀痰、悪寒、呼吸困難などがみられる。しかし、亜急性および慢性経過で咳嗽、膿性喀痰(時に血痰)、夜間盗汗が出現する場合もあり、画像所見では空洞性病変がみられることもあるため活動性肺結核との鑑別を要する。経皮感染では局所皮膚の腫脹、膿瘍形成が見られ発熱を伴うこともある。初診時に半数以上の症例で菌血症を伴っており、敗血症性ショックをきたすことも多い。菌血症に伴い全身の諸臓器に膿瘍を形成し、その中でも脾臓、腎臓、前立腺、肝臓内の頻度が高い。タイやカンボジアでは小児の耳下腺炎の原因で多く、また別の地域では脳炎や髄膜炎の合併もみられるが、これらの臨床症状は地域によって発生頻度が異なり、地域による細菌の病原性および感染経路の違いによる臨床症状の差異が指摘されている。類鼻疽の診断がついた場合や疑う場合は、無症候性の膿瘍形成の可能性を考慮し、全身のCTスキャン検査が望ましい。腹部超音波検査も膿瘍病変の発見に有用である。類鼻疽の検査で重要なのは画像検査の他、感染臓器からの適切な検体採取(血液、尿、喀痰、膿汁)と細菌培養検査である。

予後

早期診断のもと、適切な抗菌薬投与や集中治療管理ができれば予後は良い。しかし、糖尿病などのリスク因子がある場合や高齢者では死亡や治療不良の割合が高まる。

感染対策

ヒトからヒトへの感染報告もあるが、頻度としては非常に稀であり標準予防策で問題はない。しかし先述の通り活動性肺結核と類似した臨床像を呈することがあり、この場合は確定診断がつくまで空気予防策をとる必要がある。またB. pseudomalleiはBSL3の病原体であるため、細菌検査室では曝露対策のため検体は安全キャビネット内での取り扱いが必要となる。類鼻疽を疑う場合は検査室との連携が必須となる。

法制度

「類鼻疽」は感染症法上、4類感染症であり、確定患者、無症状病原体保有者、死亡者を診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。また、B. pseudomalleiは三種病原体に指定されている。

診断

流行地への渡航歴、滞在歴と各種検体からの細菌培養で診断する。

診断した(疑った)場合の対応

疑った場合は、抗菌薬投与前に血液、尿、喀痰、膿汁などの検体を採取し培養を行う。また胸部レントゲンや体幹CT、超音波検査など画像検査も行う。また、本症疑いであることを検査室と情報共有する。

治療(応急対応)

セフタジジム、メロペネムなどのカルバペネム系抗菌薬で10-14日間の初期治療を行う。重症例や膿瘍形成、骨髄炎がある場合は、初期治療を4-8週間行う。適切なドレナージも重要である。その後、ST合剤やドキシサイクリン内服による維持療法を3-6か月間行い根治を目指す。

専門施設に送るべき判断

疑った時点で専門施設へ送る。感染症専門医療機関でも経験がないことが多い。

専門施設、相談先

熱帯感染症症例を多く経験する医療機関が望ましい。

役立つサイト、資料

  1. CDC, Melioidosis. https://www.cdc.gov/melioidosis/
  2. 厚生労働省研究班.バイオテロ対応ホームページ.類鼻疽(詳細)
  3. Wiersinga WJ, et al. Melioidosis, N Engl J Med 2012;367;11: 1035-44.

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

東京都保健医療公社荏原病院 感染症内科 佐原利典

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