73ブルセラ症(Brucellosis)
病原体
Brucella melitensis、B. suis、B. abortus、B. canis(いずれも特定三種病原体)
感染経路
感染動物(ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等)の加熱殺菌が不十分な乳・乳製品や肉の喫食による経口感染が最も一般的。流産時の汚物・流産胎仔への直接接触、汚染エアロゾルの吸入でも感染。ヒト-ヒト感染は、授乳、性交、臓器移植による事例が報告されているが極めてまれ。日本はイヌをのぞき、家畜は清浄。
流行地域
ごく一部の国を除いてほぼ世界中(中国、インド、西アジア、中央アジア、アフリカ、ラテンアメリカおよび地中海地域)で流行が見られる。特に近年は中国での報告数が増加。
発生頻度
世界では毎年約50万人の新規患者が発生。
近年、世界では毎年160~210万の新規患者が報告されている。日本は1~10例/年。国内感染例はイヌからのB. canis感染と感染源不明のB. suis感染、他は海外で感染した輸入症例。
潜伏期間・主要症状・検査所見
潜伏期間は通常1~3週間だが数か月に及ぶこともある。
特異的な症状はなく、発熱、発汗、倦怠感、腰背部痛、関節痛などインフルエンザ様症状。合併症は、腸腰筋膿瘍や化膿性椎体炎など骨・関節に多く、肺炎、胃腸症状、ブドウ膜炎、中枢神経障害、心内膜炎、副精巣炎など多岐にわたる。感染性心内膜炎は死亡原因の大半を占める。B. canis感染は一般に症状は軽く、感染に気がつかないことも多いが、20年近く罹病した例もあり軽視は出来ない。
特異的な検査所見はなく、炎症反応は上昇する。
予後
自然治癒する事もあるが、未治療時には繰り返す不明熱や倦怠感、鬱症状など長期間の罹病も認められる。再発が多く、適切な治療と経過観察が求められる。
感染対策
患者に対する感染対策は標準予防策で十分であるが、直接、検体を取り扱う検査室では曝露による感染が問題となる。そのため、検査依頼時には、検査室にブルセラ症も疑いうることを伝える事が重要。個人防護具(PPE)の不装備、安全キャビネット外での生菌の取り扱い、培養プレートの蓋を取る・匂いを嗅ぐなどは行ってはいけない。これらの行為は感染リスクを伴い、予防投薬の対象となりうる。
ブルセラ属菌への曝露が生じた場合、曝露状況によってリスク分類を行い、曝露後予防の適応を判断する。(https://dcc-irs.ncgm.go.jp/document/manual/brucellosis_202312.pdf)
法制度
感染症法:四類感染症。患者等でブルセラ症と診断した医師は、直ちに最寄りの保健所への届出が義務づけられている。特定三種病原体として所持等に法的規制がある。
診断
流行地域からの入・帰国者が、不明熱や倦怠感を示す場合はブルセラ症を疑いうる。
診断は、血清学的検査(抗体検査)が最も一般的で有用で、行政検査として依頼する。細菌学的検査は、分離には最低21日間、血液培養を実施。質量分析による同定は、機器とデータベースによっては同定不能・誤判定もあり、注意が必要。
なお、近縁のOchrobactrum属菌はBrucella属菌に命名変更(統合)されている。
診断した(疑った)場合の対応
関係する医師・看護師・検査室にブルセラ症と診断された(強く疑われる)事を伝え、検体や分離菌の取り扱いに、より注意を払うことを促す。また、関係者に対して、予防投薬等に該当する行為がなかったか確認を行い、これに対処する。
治療(応急対応)
2剤併用もしくは3剤併用が原則。いずれか6週間(予防投薬では3週間)
ドキシサイクリン + ゲンタマイシンorストレプトマイシンorリファンピシン
ドキシサイクリン + ゲンタマイシンorストレプトマイシン + リファンピシン
専門施設に送るべき判断
感染性心内膜炎を疑う所見がある場合や化膿性椎体炎や腸腰筋膿瘍などの播種病巣があり、抗菌薬投与だけではなく外科的処置が必要な症例や、バイタルサインに異常がみられる場合には速やかに照会すべきである。
専門施設、相談先
検査相談:最寄りの保健所、国立感染症研究所 獣医科学部
治療相談:感染症専門医のいる医療機関
役立つサイト、資料
- 国立感染症研究所.ブルセラ症.https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/brucella/010/brucella.html
- 国立感染症研究所.ブルセラ症検査マニュアル第3版.病原体検査マニュアル.2021.pp.1-22.https://id-info.jihs.go.jp/relevant/manual/010/brucellosis20211203.pdf
- ブルセラ症(Brucellosis).in:感染症対策支援サービス(国立国際医療研究センター)2023. https://dcc-irs.ncgm.go.jp/document/manual/brucellosis_202312.pdf
- Brucellosis. CDC Yellow Book 2024. Travel-Associated Infections & Diseases. https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2024/infections-diseases/brucellosis
- Qureshi KA et al. Brucellosis: epidemiology, pathogenesis, diagnosis and treatment-a comprehensive review. Ann Med. 2023; 55(2): 2295398.
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
国立感染症研究所 今岡 浩一