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マラリア(malaria)
病原体
ヒトに感染するマラリア原虫は、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum: Pf)、三日熱マラリア原虫(P. vivax: Pv)、四日熱マラリア原虫(P. malariae: Pm)、卵形マラリア原虫(P. ovale: Po)の4種である。一部のサルマラリア原虫(P. knowlesi: Pk、P. cynomologiなど)はヒトに対する感染力を有している。
感染経路
ハマダラカ属の蚊が媒介する(蚊媒介感染症)。
流行地域
アジア、オセアニア、アフリカおよび中南米の熱帯・亜熱帯地域で流行している。Pfのリスクが最も高いのはサハラ以南アフリカである。オセアニア(特にパプアニューギニア)もリスクが高い。四日熱マラリアも同様の流行を示すが頻度は低い。卵形マラリアはサハラ以南アフリカで流行し、三日熱マラリアはそれ以外の地域に流行している。Pk感染は東南アジアに多い。
発生頻度
2017~2021年の感染症発生動向調査では、年間報告数は20~50例程度であった。熱帯熱マラリアがほとんどであり、次いで三日熱マラリアが多い。四日熱マラリア、卵形マラリアは毎年数例程度である。約半数は日本人患者であるが、外国籍患者が日本で診断され届け出られていることは留意する必要がある。
潜伏期間・主要症状・検査所見
ハマダラカの刺咬によりヒト体内に侵入した原虫は、肝細胞内で増殖した後に赤血球に侵入する。赤血球内で分裂・増殖し、放出された原虫が別の赤血球に侵入することを繰り返す。この赤血球内サイクルにより症状が出現し、潜伏期間は概ね7~14日間である。Pv、Poでは肝細胞内に休眠原虫が形成され、1~数ヶ月後の再発の原因となる。赤血球内サイクルはPkが24時間、Pf、Pv、Poが48時間、Pmが72時間で周期的発熱(39℃以上)の原因であるが、病初期では周期性がはっきりしないこともある。他の症状は頭痛、悪寒・戦慄、悪心・嘔吐などでマラリア特有の症状はない。血液検査では血小板減少、AST、ALT、LDH上昇を示すことが多い。CRPは高値になる。WHOでは表に示す臨床的特徴または検査所見が1つでも合致すれば重症マラリアと定義している。熱帯熱マラリアが重症化しやすいが、三日熱マラリア、Pk感染でも重症化することがある。
臨床的特徴 | 検査所見 |
---|---|
・意識障害、昏睡 ・疲憊(支えなしで座れない) ・哺乳不良、経口摂取不可 ・痙攣(24時間以内に2回以上) ・頻呼吸 ・ショック ・黄疸 ・ヘモグロビン尿 ・出血傾向 ・肺水腫(レントゲン検査による) |
・低血糖(< 40mg/dL) ・代謝性アシドーシス(HC03- < 15mEq/L) ・重症貧血(Hb 5g/dL) ・ヘモグロビン尿 ・高原虫寄生率(>2%≒100,000/μL) ・高尿酸血症(> 15mEq/L) ・腎障害(Cre > 3.0 mg/dL) |
予後
早期診断、治療により予後は良好である。重症マラリアでは致死率が高く、中でも意識障害、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、急性腎障害などの臓器不全は予後不良因子である。また妊婦、高齢者では致死率が高い。
感染対策
標準予防策。マラリア流行地への渡航者は予防内服を考慮する。国内で承認されている予防薬はアトバコン・プログアニル合剤、メフロキンがある。
法制度
「マラリア」は四類感染症であり、確定患者、無症状病原体保有者、死亡者を診断した医師はただちに最寄りの保健所へ届け出る。
診断
病初期には全身状態が良く、検査所見からウイルス感染症と誤診されることもある。渡航歴、特にアフリカ渡航歴がある場合にはマラリアを疑い積極的に検査する。確定診断は末梢血塗抹ギムザ染色標本による原虫の検出による。感染赤血球の大きさ、シュフナー斑点の有無、原虫の形態から原虫種を鑑別する。迅速診断試薬は保険適応外である。原虫種の同定や混合感染の有無が判定できるPCR法は限られた施設で可能な検査である。
診断した(疑った)場合の対応
マラリアの診断ができない場合や重症マラリアは熱帯病治療薬研究班薬剤使用機関へ搬送する。搬送できない場合には同機関に相談する。
治療(応急対応)
非重症マラリアはアルテメテル・ルメファントリン合剤、アトバコン・プログアニル合剤、メフロキンで治療する。三日熱・卵形マラリアではプリマキンによる根治治療が必要である。重症マラリアは熱帯病治療薬研究班保管薬剤のキニーネ注射薬で治療する。
専門施設に送るべき判断
「診断した(疑った)場合の対応」に同じ。
専門施設、相談先
熱帯病治療薬研究班薬剤使用機関。
役立つサイト、資料
- CDC. Malaria. https://www.cdc.gov/malaria/about/index.html
- 国立感染症研究所.マラリア2017−2021年.https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/idwr/2021/ichiran/04/index.html
- 熱帯病治療薬研究班.https://www.nettai.org
(利益相反自己申告:申告すべきものなし)
東京都立 墨東病院・感染症科 足助 洵