日本感染症学会症状からアプローチするインバウンド感染症への対応|感染症クイック・リファレンス

最終更新日:2025年4月13日

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麻疹(Measles)

病原体

麻疹ウイルス

感染経路

飛沫核(空気)感染、飛沫感染、接触感染である。(麻疹患者が去った後も2時間程度ウイルスは感染力を有する)

流行地域

アフリカ、アジアを中心に流行している。世界保健機関(WHO)から排除認定を受けた国でも2016年以降ヨーロッパ、アジア各国で地域流行が再確認されている。

発生頻度

2022年には世界で9,232,300人が麻疹に罹患し、136,200人が死亡したと推計されている。日本は2015年3月にWHOより麻疹の排除状態であると認定された。COVID-19の世界的流行に伴い、一時報告数は著明に減少したが、その後COVID-19対策の緩和により、輸入例を発端とし、2023年は28例報告されている。

潜伏期間・主要症状・検査所見

一般に8~12日の潜伏期間の後、発熱、咳嗽、結膜充血、眼脂などのカタル症状が2~3日続き、頬粘膜にコプリック斑が出現する。その2~3日後に、前頭部や後頭部から斑状紅斑が出現し、3日以内に体幹及び四肢に広がる。紅斑は、やがて暗赤色の丘疹となり、融合傾向を示しながら、最終的に色素沈着を残して治癒する。嘔吐・下痢、腹痛を合併することも多い。

予後

麻疹肺炎(6%)、麻疹脳炎(0.1%)が二大死因となる。罹患後長期間を経て発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)等の重篤な合併症もある。成人(特に免疫不全者や妊婦等)は重症化しやすい。先進国でも麻疹患者の約1,000人に1人の割合で死亡する可能性がある。

感染対策

空気、接触及び飛沫予防策が必要である。麻疹に感染した患者は、発疹出現の4日前から出現後4日目まで感染力がある。また感染力は基本再生産数(R0)が12~18と極めて強く、徹底的な感染対策が必要である。

法制度

感染症法上の五類感染症全数把握疾患であり、疾患流行の観点から直ちに届出が必要である。

診断

麻疹特異的IgM抗体高値、ペア血清でのIgG抗体の有意な上昇で行うほか、咽頭拭い液等でリアルタイムPCR法による麻疹ウイルスRNAの検出やウイルス分離・培養により診断する。原則、全例で麻疹ウイルスの遺伝子検査を実施することが望ましい。

診断した(疑った)場合の対応

患者は陰圧個室に隔離する。また患者の行動調査を行い、発症前日から患者が個室管理されるまでの感染可能期間の接触者を把握し、必要があれば曝露後予防処置を行う。接触者への対応等は、保健所とも協力し行う。

治療(応急対応)

特異的治療薬はなく、対症療法が中心である。途上国では、ビタミンA欠乏児でビタミンA投与による重症度の軽減が報告されている。麻疹に対する免疫がない人は、麻疹患者と接触後72時間以内の麻しん含有ワクチン接種により発症を予防できる可能性がある(妊婦や免疫不全者は除く)。また、免疫不全者等のワクチン接種が適応とならない場合でも、罹患患者との接触から6日以内であれば、免疫グロブリン製剤の投与を考慮する。

専門施設に送るべき判断

重症肺炎や脳炎などの重症例は、感染症指定医療機関や集中治療が可能な施設での診療が望ましい。

専門施設、相談先

感染症指定医療機関等の感染症専門医がいる施設、重症例(脳炎や重症肺炎の症例など)については集中治療が可能な医療機関に相談する。また、麻しんウイルスの遺伝子検査依頼や公衆衛生対応は管轄保健所に相談する。

役立つサイト、資料

  1. WHO. Immunization Analysis and Insights
    https://www.who.int/teams/immunization-vaccines-and-biologicals/immunization-analysis-and-insights/surveillance/monitoring/provisional-monthly-measles-and-rubella-data
  2. 厚生労働省.麻しんについて
    https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html
  3. 国立感染症研究所.麻しん.(2024年8月23日改訂)
    https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ma/measles/010/measles.html
  4. 日本小児総合医療施設協議会(JACHRI)小児感染管理ネットワーク、こどもの医療に携わる感染対策の専門家がまとめた小児感染対策マニュアル第2版、監修:五十嵐隆、じほう、2022年
  5. 医療機関での麻疹対応ガイドライン(第七版)
    https://id-info.jihs.go.jp/relevant/vaccine/measles/040/medical_201805.pdf
  6. CDC, Yellow book 2024, Rubeola/Measles
    https://wwwnc.cdc.gov/travel/yellowbook/2024/infections-diseases/rubeola-measles
  7. Committee on Infectious Diseases, Measles, edited by David W. Kimberlin et al., Red Book 2021-24, 32nd ed., American Academy of Pediatrics, IL, p503-519, 2021
  8. Minta AA, et al. Progress Toward Measles Elimination — Worldwide, 2000–2022. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2023; 72: 1262–1268.

(利益相反自己申告:申告すべきものなし)

国立感染症研究所 船木 孝則

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